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こたけさんと続く不当判決

3月5日。R-1グランプリ決勝翌日。
まだ寒さは停滞していたが、春をほのめかす淡い陽射しが、下北沢の街に漏れていた。

ライブ終わりのこたけさんが現れる。
決勝の翌日でもいつもと変わらずライブが入っていた。
フリップと折り畳まれたイーゼルの入ったであろう袋を見て、昨日のネタを思い浮かべる。
大舞台で浴びた笑い声の余韻を、残り香のようにぼんやりと感じとる。

小田急線の線路跡地をまたぎ、京王線の線路下をくぐる。そのまま南口商店街を進んでいく。
古着屋やキッチン南海を横目に、目的の沖縄料理屋に到着する。
掘りごたつが落ち着く座布団の席に腰を下ろし、オリオンビールを2つ注文した。

決勝が終わってから初めて飲むお酒を体に流し、昨日からの疲れも共に噛み締めるように表情を崩した。
「うまい」「おいしい」と安堵するかのようにビールを味わう。

賞レースの決勝終わりでは必ず起こる大量のLINE通知。
その日の夜はなかなか返せず翌朝になってしまったが、「ありがたい」と笑みを浮かべた。
中でもハライチの岩井さんからのメッセージに、喜びが顔からこぼれそうになっていた。

沖縄の珍味、豆腐ようを小鉢に置き、爪楊枝でつつきながらお酒のあてにする。
泡盛のソーダ割りを注文し、炭酸が爽快な飲み口を楽しみながら沖縄を感じようとした。

決勝当日は、敗者復活戦の勝ち上がり発表からそのままリハーサル、本番、「ENGEIグランドスラム」と、一瞬で過ぎ去っていったと語り、お酒を飲んで心を落ち着かせ、昨日の長い一瞬を思い出していた。
回想すると共に、来年、将来と、先のことを同時に考える。
ふと、長く舞台に立ち続けているこたけさんが頭の中に思い浮かんだ。

2年前のR-1決勝を一緒に見た日のことを思い返した。
その頃は決勝が遥か先に感じていたが、いざ行ってみると優勝はまた遥か先。どころか、そこがスタート地点で、延々と続いていく。
ただ、溜息混じりにはならず、登り続けなければならない終わりなき山を想像し、「楽しい」と胸を弾ませる。
泡盛のソーダ割りが、小さく氷の音を鳴らした。

THE BOOMの「島唄」が店内に流れる。
こたけさんと2人、三味線に乗せられたかのようにしばらく盛り上がる。泡盛を何杯か頼み、「届けておくれ」と楽しく会話を続けた。

帰りの電車で「この世界の楽しさを味わうとやめられない」というこたけさんの言葉を思い出した。
しんどいことの方が多いのにやめられない。
そんな辻褄の合わない不当な選択が、この世界の魅力かもしれない。
24時過ぎ。アナウンスは気短に乗り換えを促していた。


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