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赤羽さんを包む純情な煙

寒さに向かう季節の高円寺。
動き始めるか、止まろうとする電車の低音が高架下に落ちてくる。

遠慮がちな入店音が聞こえて、大阪での仕事を終えた赤羽さんが姿を現す。
移動の疲れを見せず、テーブル席の向かいにさっと腰を下ろして一息ついた。
アウターから身体を抜けさせると、涼しげな水色の箱からタバコを引き出してフィルターを咥える。箱を置いた手で火を点け、まっすぐ煙を吐き出した。
褐色の背景に鈍い白さが溶け込んでいく。

『若者のすべて』のキムタクに憧れてハイライトを吸ってみたものの、3日で諦めたという。
当時の味を思い出し苦笑いしながら上っていくキャメルの煙は、過去の思いなどは気にも留めず、店内に純粋なまま立ち込めていく。

一夜にして一変したというキングオブコントを終え、規則正しい生活になったという赤羽さん。各地での仕事が絶えない日々だが、移動が楽しくて仕方ないとこぼした。
吸い殻は灰皿の上で不規則に横たえている。

コントの作り方、こだわり、恥ずかしさなどを丁寧な口調で言葉を並べ、同じ口でタバコを挟んだ。
人数を変え、ボケとツッコミを変え、漫才にコントと紆余曲折があり、今に至る。
ピース又吉さんからいただいた「サルゴリラ」というコンビ名。最初の印象とは裏腹に「ありがたい名前をいただいた」と感謝を告げた。

4年前バイク事故に遭い、顔面は削れ、あばら7本と鎖骨が折れるほど怪我を負ったという。「お笑いはできない」とまで思ったという心境を語ってくれた。

純情商店街に掲げられたキングオブコント優勝を祝う横断幕を見て、「もう高円寺から出れない」と残念そうに口元を緩めながらも、アーチの下の名誉はモチベーションの1つであったと、これまでの思いを噛み締めた。
『若者のすべて』の挿入歌とは違い、「この街を出ていく」ことはなさそうであった。

店を出ると、先ほどの寒さはより鋭く身体を刺してきた。向かったり、離れたりしていく電車の音を聞き歩を進めていく。夜の高円寺の活気は、季節もなく溢れ、足元に優しい明かりを灯していた。
改札で別れた赤羽さんは、高円寺の街に静かに遠ざかっていった。

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