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高橋さんと福島の部屋

街が弱々しく暗がり始めた頃。
高橋さんが晴れ晴れと現れ、川沿いを導かれながら自宅へお邪魔した。
至る所に服や雑貨が置かれ、趣味に贅沢な空間であった。

ビールで乾杯をして、高橋さんおすすめのつまみに箸をすすめていく。
いいことがあった時に食べる高いチーズをいただく。その条件が、チーズをちょうどよく美味しくしていた。
今日はいいことがあった日になった。

次のお酒を飲もうとしたとき、高橋さんがおもむろに出したのは、会津のマルサという漆器だった。
箱を開封し、まだ使用していないという器をやや緊張気味ではあったが手に取る。
漆の手触りと口当たりが温かく、日本酒が優しく通ってきた。

〆に喜多方ラーメンとラヂウム玉子が出てくると、さすがにそこは福島になっていた。
スープの香りが部屋に立ち上る。あっさりしているのにコクのある旨味が体の中に広がっていった。

福島は朝ラーの文化があり、二日酔いの状態でラーメン屋に向かう。そんなことしていたら早く死ぬとこぼす。
好きなことをしてればいいと返すと、早く死ぬ例えがカート・コバーンであった。
カート・コバーンが「悲劇に感謝する」みたいなことを言っていたの思い出し、ひょっとしたら間違っているかと思いを巡らせた。

お家をお暇し、暗がり終えていた川沿いを歩いた。
橋から川を見下ろして、『ネヴァーマインド』のジャケットを思い浮かべた。
街灯の光が届かない水の中には、紙切れすら見えなかった。


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