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難しくて暗い歌詞を歌うamazarashiの歌詞は難しくないし前向き

まえがき

私がamazarashiを知ったのは、amazarashi好きの相当ディープなフォロワーからで、そのときオススメされた曲は『ジュブナイル』、当時Youtubeで上がってた最新の曲は確か『性善説』で、東京喰種トーキョーグール√Aのエンディング曲『季節は次々死んでいく』が出るほんの1~2年ほど前でした。
それからおよそ8年間、私はamazarashiを永遠に聞き続けています。

amazarashiと聞いてピンとこない人のために、東京喰種以外にメディアで歌われた、いくつか有名な曲をあげると以下のようなものがあります。

『スピードと摩擦』(乱歩奇譚 Game of Laplace オープニング)
『さよならごっこ』(どろろ エンディング)
『空に歌えば』(僕のヒーローアカデミア第2期/第2クールオープニング)
『命にふさわしい』(NieR:Automata コラボソング)

また、ほかにも楽曲提供として、中島美嘉(敬称略)の『僕が死のうと思ったのは』や菅田将暉の『スプリンター』『ロングホープ・フィリア』など。
つい先日にはアニメ、86―エイティシックス―の第2クールオープニング曲として『境界線』がYoutubeにて公開されました。

amazarashiの曲には、数々の詩的な言い回し、比喩を用いた表現などが多用され、なかには哲学や思想に関わる、小難しいワードも含まれます。その詩は一見難しそうに思えますし、言っている内容も悲観的で暗いように思えます。一部は確かにその通りなのですが、実は多くの楽曲で、そのメッセージ性は誰でも感じ取りやすいかたちで表現されています。

この記事では、そうしたamazarashiの歌詞にある特徴の説明や、amazarashiがどういう曲を作っているかを紹介します。
これは私自身の感じ取りかたで、もちろん公式の見解というわけではありません。あくまで「こう解釈すると、一見難しそうな曲もすぐ理解できる」という、歌詞から曲を聞く方法論のひとつとして見ていただけたら幸いです。

amazarashiのコンセプト

amazarashiは、作詞作曲・ボーカル・ギターをつとめる秋田ひろむと、ピアノ(キーボード)・コーラスの豊川真奈美の二人によるユニットで、ライブ等では必要に応じてほかのバンドメンバーが加わります。

かつてインディーズ時代に"あまざらし"として活躍していた"amazarashi"というグループ名は、文字通り「雨曝し」から来ており、その名称の由来は『もう一度』という楽曲にあらわれています。

悲痛 現実 僕らいつも雨曝しで
って言う諦めの果てで 「それでも」って僕等言わなきゃ

amazarashi『もう一度』歌詞より引用

嫌なことや社会の不条理を雨にたとえ、私達はそんな世界に雨曝しになっている。だけど「それでも」……という、この「それでも」の部分を歌にすることがamazarashiの基本のコンセプトです。

amazarashiの曲の多くは暗そうな内容の曲が多く、実際本当に暗い曲もあるのですが、彼ら自身はアンチニヒリズム──虚無主義に抗え──をスローガンとし、悲観的な世の中に希望を見出し、どうにか生きていこうという想いを楽曲に込めています。

そしてそれは、ほかの誰でもない、秋田ひろむ自身’(あるいは彼のまわりの友人など)に向けたメッセージとして歌われていることが多いです。
そのため、メジャーデビューしてから10年、それ以前も含めればもっとあるこれらの曲は、時代とともにその思想やメッセージが少しずつ異なるものになっているという特徴もあります。

よくamazarashiの曲に対しては「多くの人には刺さらないが、鬱病の人や辛い日々を送っている人に刺さる」と表現されますが、実際にはもっと広く、ちょっとした悩みを抱えている、それこそ殆どの人にとって、amazarashiの無数にある楽曲のうちの何かしらは心に響くことがあるのではないかと私は感じています。

それでは、本題であるamazarashiの歌詞の読み方について、オススメの曲とともに紹介していきたいと思います。

伝えたいことは真っ直ぐ伝える 『帰ってこいよ』

アルバム「ボイコット」に収録している比較的新しい楽曲です。まずは冒頭のAメロの部分の歌詞を見てみます。

稲穂が揺れる田舎の風は 置いてきぼりの季節の舌打ちか溜め息
駅の待合室でうらぶれて 誰彼構わず 憂鬱にする 憂鬱にする

amazarashi『帰ってこいよ』歌詞より引用

いきなり怒涛の比喩表現による情景描写から始まります。苦手な人にとっては、この時点で何を言っているか分からないと思います。

なのでいっそ、ここは一旦読み飛ばしてしまいましょう。そしてこのあとの歌詞についても、イマイチ真意が分からないところはじゃんじゃん読み飛ばしてしまいます。
ここで、「あっこれはメッセージっぽい」と即座に分かる文章が出てくるのは、1番のラストと2番の冒頭、そしてラスサビです。まとめて引用します。

帰ってこいよ 何か成し遂げるとも 成し遂げずとも
帰ってこいよ 何か成し遂げるとも 成し遂げずとも
(中略)
信頼できる人が傍にいるならいい 愛する人ができたなら尚更いい
孤独が悪いわけじゃない ただ人は脆いものだから
すがるものは多いほうがいい

(中略)
夢を叶えたって胸を張ろうが やっぱ駄目だったって恥じらおうが
笑って会えるならそれでいい 偉くならなくたってそれでいい

amazarashi『帰ってこいよ』歌詞より引用

最後まで聞いてようやく、『帰ってこいよ』の明確なメッセージが、比喩抜きに明確に書かれていることが分かります。
省略したほかの歌詞について補足すると、これは生まれの田舎を出て都会での生活をしている「君」に対しての、おそらくは田舎に残っている友人からのメッセージという形式になっています。(歌詞は友人目線)
そしてその人は「人は脆いものだから、すがるものは多くあった方がいい。そっちの生活でどうなろうが、ここにはいつでも帰ってきていい」と、友人自身がすっかり寂れた地元を「すがれるもの」として伝えています。

こうしたメッセージを理解したうえでもう一度、先程は読み飛ばしていた歌詞を読み返すと、その比喩表現が何を表しているのかが分かってきます。

若者が次々上京して閑散として、そのなかでも様変わりする田舎の町並み。
別れてから会わないまま、時が止まったように更新されない友人との関係。
地元と都会で異なっているかのような時間の流れと、それを不安に思いつつも決して否定しない友人の心象が描かれているように感じます。

当然、今こうして比喩表現を解釈したときに生ずるイメージは人によって異なる部分で、「そうは感じない」と思う人もいるかと思います。

しかしここで重要なのは、amazarashiは比喩表現や心象風景などを使いつつも、「最も伝えたいメッセージは直接的な言葉で語る」ということです。
これこそがamazarashiの多くの楽曲に共通する特徴であり、一見難しそうな歌詞を簡単に読むために知っておくと良い、大切なポイントなのです。

ちなみに、こうした「頑張る気持ちを引き出してくれるタイプの曲」が聞きたい場合、amazarashiの以下の楽曲もオススメです。
『未来になれなかったあの夜に』
『ライフイズビューティフル』
『ロングホープ・フィリア』※歌:菅田将暉 作詞作曲:秋田ひろむ

一行では無理でも十万行ならどうか
一日では無理でも十年を経たならどうか

amazarashi『独白』歌詞より引用


今の時流と重なる 『性善説』

amazarashiの楽曲は、秋田ひろむが自分自身に向けた言葉を曲にすると冒頭で書いたとおり、歌詞の内容はその時々の精神的な気持ちや、時事的な世界の状況が深く反映されることが多々あります。
コロナが流行して少し経って公開された『令和二年』などはまさにその特徴がよくわかる例でしょう。

そんな『令和二年』や『性善説』というような、世の中における負の側面を歌った曲の場合、そこには皮肉的・悲観的な言葉が多く書かれます。

ねえママ あなたの言う通り 他人は蹴落として然るべきだ
幸福とは上位入賞の勲章 負けないように 逃げないように
目を覆い隠しても悲鳴は聞かされて 耳をふさいでも目をこじ開けられて

amazarashi『性善説』歌詞より引用

こうした悲痛な状況を歌うときは『帰ってこいよ』のような、前向きな言葉は全体を通してあまり書かれないことがあります。このタイプの楽曲では、前向きな言葉の代わりに、語り手の願いや叫びが直接的なメッセージとして出ることがあります。

寝ぼけ眼でテレビをつけて ぼやけた頭に無理矢理流れこんだ
殺人だ強盗だ人身事故だ 流行だアイドルだもううるせぇよ
人心地つける余裕もなく 僕らの日々は流れに摩耗して
明るいニュースを探している 明るいニュースを探している

amazarashi『性善説』歌詞より引用

この性善説のサビで語られる言葉は強烈で、私のお気に入りでもあります。
「僕らの日々は流れに摩耗して 明るいニュースを探している」という言葉は、今のご時世においても多くの人が感じているのではないでしょうか。

また、秋田ひろむの歌詞は様々な作品、思想、宗教、学問による豊富な語彙によって構成される、一見知的で理性的な内容に見えますが、実際は非常に感情的で、特に怒りや不満をぶつけるときは「うるせぇよ」というような乱暴な表現をここぞという時に使います。

このように、「自分が感じている言い表しづらいモヤモヤした感情」のようなものを、言葉にして代弁してくれるような事があります。
秋田ひろむ自身が、かつてラジオで聞いた曲に「これは私のことだ」と感じたことがあるように、amazarashiの曲には自分の気持ちにピッタリ一致する歌詞が含まれていると感じることが多々あるかもしれません。

世の中の不満や言いようもない気持ちを歌っている曲を聞きたい場合は、以下の楽曲をオススメします。
『ラブソング』
『空洞空洞』
『つじつま合わせに生まれた僕等』

「言葉にすればたやすくて」って言葉にしなきゃ分かんねぇよ
君は伝える事 諦めてはだめだ それを届けて

amazarashi『それを言葉という』歌詞より引用


言葉に感情全てを乗せる『しらふ』

amazarashiは時折、「ポエトリーリーディング」という手法を行います。
これは文字通り「詩を読む事」をメインにしたもので、その形態はアーティストにより異なる事がありますが、amazarashiの場合はバックミュージック(時に効果音程度)を流しつつ、詩を朗読するように読み上げます。
ラップに近いように感じますが、ポエトリーリーディングは音楽的な気持ち良さよりも、とにかく「言葉を伝える」ことを重視してるため、演劇のような、感情的な表現が目立ちます。

私が散々amazarashiの歌詞をメインに扱ってきたのも、秋田ひろむ自身がこうした詩としての表現をよく行い、言葉や文字での表現を中心に行ってきたことが理由にあります。

「自分以外みんな死ね」ってのは「もう死にてえ」ってのと同義だ
悪いのは僕か世界か

amazarashi『しらふ』歌詞より引用

これは『しらふ』の冒頭にある「自分以外~」というセリフを、後半で再度繰り返す部分です。こうして記事にして表すと全く伝わりませんが、一回目では静かに淡々と語ったのに対し、二回目では心の底から絞り出したように「自分以外みんな死ねぇ!!!」というような言い方をします。

こうした感情の緩急、精神状態の表現を直接的に行えるのが「語り」によるポエトリーリーディングの魅力です。
『帰ってこいよ』の紹介で最後に引用したポエトリーリーディング『独白』では、直前の台詞として「言葉は積み重なる 人間を形作る 私が私自身を説き伏せてきたように」という文章があります。
秋田ひろむがそう考えていることそのものが、ポエトリーリーディングという手法、そしてそれ以外の楽曲における歌詞の魅力に繋がっています。
そうして無数に語られた言葉こそが、聞き手それぞれの「その人」という形に偶然一致し、共感したり、腑に落ちたり、支えられたりするわけです。

コンセプトの話に戻りますが、amazarashiは「雨曝し」の中で「それでも」を見つけるバンドであり、その「雨曝し」「それでも」の種類は曲によって多岐に渡ります。
自分や周囲、世界に対して少しでもネガティブな気持ちがあれば、その気持ちを言い表せるような曲がないか探してみると、自分を形作るかのような歌を知ることができるかもしれません。

ポエトリーリーディングをメインにした曲はあまりYoutubeの公式チャンネル等には上がりませんが、アルバムには曲と曲とを繋ぐように入っていて、Spotifyなどでも聞くことができます。
『独白』
『それを言葉という』
『曇天』

きっと生きる理由を探してたんだ
僕が死ななきゃいけない理由を上回るだけの
でも結局それは生きたいってのと何が違うんだ

秋田ひろむ


よりamazarashiの歌詞を知るために

タイトルで「amazarashiの歌詞は難しくない」と表現しましたが、ここで白状しておくと、正直な話難しいです。しかしこれまでの内容から「伝えたいことは真っ直ぐで難しくない」という事はお分かりいただけたと思います。

もしこの記事でamazarashiに興味を持ってくださった方がいて、実際に曲を聞いてみて、もっと詳しく知りたい。と思ったなら、秋田ひろむ自身の半生についてや、秋田ひろむさんが今まで影響を受けてきたものを知る必要が出てくるでしょう。そうした人に向け、いくつかの情報を紹介します。

秋田ひろむが影響を受けたアーティスト
THE BLUE HEARTS
コピーバンドをはじめた、音楽をやるきっかけのひとつ。インディーズ時代のあまざらしの曲『闇の中 ~ゆきてかへらぬ~』の歌詞にブルーハーツという単語があったり、『少年の詩』の「そしてナイフを持って立ってた」と『つじつま合わせに生まれた僕等』の「選ばれなかった少年はナイフを握り締めて立ってた」など、関連してそうな言葉選びが時々あります。

THA BLUE HERB
ポエトリー的な表現などで影響を受けたようです。『未来は俺等の手の中』という曲があり、amazarashiの『雨男』の歌詞には「未来は僕らの手の中」という言葉があるなど、やはりリスペクトを思わせる表現があります。

竹原ピストル(旧名:野狐禅)
野狐禅名義のころにラジオで『ぐるぐる』を聞いて「これは自分の歌だな」と感じた話を時折しています。amazarashiの『あんたへ』『ライフイズビューティフル』『ひろ』のような、秋田ひろむが自分に向けて書いた音楽に、特にその影響が感じられるかもしれません。

よく使われる文学作品や思想等
宮沢賢治
『スターライト』が銀河鉄道の夜モチーフの曲だったり、『よだかの星』のような宮沢賢治作品をそのまま持ってきたような曲、また『ラブソング』では「シグナルとシグナレス」が歌詞に使われるなど。身近にあったことと、宮沢賢治作品の死が身近にあるところに影響を受けているようです。

雨にも負けて 風にも負けて 雪にも夏の暑さにも負けて
それでも人生って奴には 負けるわけにはいかない

amazarashi『ワンルーム叙事詩』歌詞より引用

キリスト教
これも宮沢賢治や太宰治等の影響に繋がるかもしれませんが、amazarashiの曲には時折「隣人」とか原罪的な表現が使われ、これらはキリスト教的なものをモチーフにしています。どちらかと言うと社会に対する皮肉表現として使うことが多いかもしれません。

隣人を愛せずとも不幸にはならない時代にあって
分かり合うのはそうそう簡単ではないから

amazarashi『リビングデッド』歌詞より引用

哲学・実存主義
『フィロソフィー』(哲学の意味)という曲があるように、amazarashiはよく哲学的なテーマや「○○主義」という表現をよく使ったりします。
amazarashiのベースに「虚無主義に抗う」という信念があることははじめに言いましたが、ほかにも実存主義的な要素もよく使われます。
実存主義とは何かを滅茶苦茶ざっくり言うと「この世の真理ではなく、個々それぞれの"私にとっての真理"を探求する」考え方です。
amazarashiの、世界の不条理に苦悩し、そのなかで自己を保とうとする考え方は、実存主義的と言えるかもしれません。

受諾と拒絶 拒絶 拒絶手は組めないぜ ただじゃ死なないぜ
許可されて生きる命ではないよ ああ私の私

amazarashi『抒情死』歌詞より引用

最後に、今まで名前が挙がってないもののなかで、理屈とかオススメ理由とか無く単純に私が好きなだけの曲を紹介します。(秋田ひろむ名義の曲含む)
『雨男』「夕日信仰ヒガシズム」収録
『星々の葬列』「虚無病」収録
『ドブネズミ』「あんたへ」収録
『東京』「令和二年、雨天決行」収録


#スキな3曲を熱く語る

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