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【広島商人】知られざる戦後復興の立役者(19)嫌 疑

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19 嫌 疑

 昭和二十二年九月二十四日の午前八時半くらいだったろうか、
二人の私服警察官が事務所へ入ってきた。
 
 「経済警察からやってきたのだが」
 
 「何か、ご用で?」
 
 と言うと、
 
 「帳簿を見せてもらいたい」
 
 という。
 
 「どうか、ごらんください」
 
 と、私は言われるままに帳簿を出した。
見れば他の若い私服警官が作業場に二人はいって、何か調べている。
事務所の中では二人の警官が帳簿を調べている。
色浅黒く角ばった顔、五尺三寸くらいの一人の警官が見ひらいた目で、
 
 「ここあ、調べても出やせんぞ」
 
 と言うと、やせ形で顔も長い、身のたけ五尺四、五寸くらいの
もう一人の警官も、太く目を見ひらいて、
 
 「いやあ、情報がねえ」
 
 と言いながら、
 
 「明朝、帳簿を持って西署へきてください」
 
 「そうですか」
 
 私は何の嫌疑やらわからず、意外な事件の発生に当惑した。
なるほど、かますを四国へ積み取りに行ったときは、時節がら無理な
仕事もやってのけた。
がしかし、その後は正規ルートによって、
無理な仕事はやっていないはずだ。
いろいろな葛藤はおこされてはおるものの、私からおこしていくわけでは
なし、それだけに、造反のおこらぬように努めてやっているはずである。
それだのに、はて、といぶかりながら、翌朝早く、私は西署に出向いた。

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13,579字
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この文章は昭和31年11月に発行された「広島商人」(久保辰雄著)の冒頭です。(原文のまま、改行を適宜挿入) 広島は原爆が投下された約一か…

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