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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (21)再編集版

これまでのお話

前話


バイオレットウッドの交換式は王の間で行われることになった。婚約式のようなもの。ホントはもっと早くにすべきだったけれど、私が一年間行方不明になったりと、バタバタといろいろ立て込んだため、婚礼間近に行われることになった。しかも、今回は神殿でなくて、警護と保護の祈りが捧げられている鉄壁の防御態勢で行われた。参列者はこれまた限られてお姉様、お兄様、お父様と私の今の家族と国王様と王妃様の立ち会いだけだった。
 ウルガーは以前、六人兄弟の真ん中と言っていたけれど、義理の兄弟の中での六人で、正妃の息子はウルガーしかいなかった。とことん欺いてくれるわね、とすねたいところだったけれど、緊張でカチンコチンだった。今日は、ウルガーの顔を見ていない。この儀式の時は離ればなれにならないといけないのだ。そして王の間で会ってバイオレットウッドの小さな枝を束ねたものを交換する。私は儀式の手順を書いた書物を開いては閉じ、閉じては開く、を繰り返していた。お姉様がびっくりして見ている。
「そんなに緊張しなくていいのよ。作法もそれほど高度なものは求められなから。神官の言葉に続いて枝をまとめたものを交換するだけだから」
「解ってるけれど、緊張するんだもの。何が起こるかわからないもの」
「ゼルマ」
 お姉様は私を抱きしめる。
「妹がこんなに危ない状況だなんて思いたくないわ。でも、そうなのね。私に出来る事があればいいのに」
「お姉様はもうすぐ臨月でしょう? 私より赤ちゃんを心配して」
 にっこり笑うと、お母様が来た。
「ゼルマ、まぁ。可愛らしい。ウルガーにあげるのがもったいないわ」
「もう。お母様ったら。早くウルガーの元へ連れて行って下さい」
「はいはい。娘は息子にべた惚れね」
「向こうもです」
「わかってますよ。では、フローラも行きますよ」
「はい。お母様」
 儀式通りに私はウルガーと王の間で対面する。ウルガーがにっこり微笑みかける。すっ、と緊張がほどけていく。神官が間に立って古代語を詠唱する。何か、不思議な力がバイオレットウッドから伝わってくる。何か、浮遊感がする。
「?」
 自分の持つバイオレットウッドを見つめるけれど、すぐ交換の時がくる。
ウルガーと交換する。その内の一本に何か刻まれているのを認める。
『変らぬ愛を君に誓う』
 そう書かれていた。
「ウルガー」
 涙ぐんで見つめる。
「愛しているよ。俺の姫君」
「私もよ。私も刻めば良かった」
「解ってるから。ほら、もう儀式は終わりだ。あとは二人で東屋に行こう」
 神官が祈りを終わるか終わらないうちにウルガーは手を引っ張って宮殿の東屋に私を連れて行く。後ろからお母様が怒っているけれど、ウルガーは何も気にしていない。
「貴重な婚約期間だ。無駄にする気は無い」
 途中で私をお姫様抱っこすると東屋にすっとんでいく。私の胸の中にはウルガーへの愛で一杯だった。

 ウルガーは宮殿の東屋に私を降ろすと急に抱きしめる。そして、私達はお姉様、お兄様達顔負けの情熱的なちゅーをする。そしてお互いのぬくもりを感じ合っていた。でもそこまでだった。恋人の、婚約者同士の時間は、あっという間にお母様とお姉様が来て引き離される。
「母上!」
 ウルガーが抗議の声を上げる。
「ゼルマは危ない身なのですよ。それを無防備に東屋になど・・・」
「そうよ。宮殿でいちゃいちゃしなさい」
「父上と母上のいるところでいちゃいちゃなどできません」
「私の部屋を貸してあげますよ」
「お母様!」
 びっくりしてウルガーと共にお母様をみる。
「バイオレットウッドの交換をした以上は離れることの出来ない関係。今更、引き離すつもりはありませんよ。ただ、一線を越えることは行けませんからね」
「当たり前です!」
 二人で声をそろえる。
「それならウルガー、また抱き上げて連れて行ってお上げなさい。たまには姫君らしい扱いもいいでしょうから。決して寝台はいけませんからね」
「何度も言わなくとも解ってます!」
 ウルガーは真っ赤になって言うとまた私を抱き上げて宮殿に向かう。お母様は後を着いてこなかった。お姉様も。
「本当に宮殿でいちゃいちゃ?」
「したくない?」
「というより、華の宮じゃないから、違和感が・・・」
「そんな事すぐに忘れさせてあげるよ」
 思わず、お盆を探したけれど持ってなかった。そういえば、今日は儀式用のドレスを身に纏っていたことに気づく。
「その白いドレス、綺麗だよ」
 お母様の何時も座っているソファに私を降ろすとウルガーは頬にちゅーして言う。
「ウェディングドレスはもっと素敵よ」
「ほんと? 早くみたいな」
 そんな子供のような目をしているウルガーにふふ、と笑いがこみ上げる。
「ウルガー、私、幸せよ。婚礼なんてしなくたってこんなに幸せってあるのね」
「今よりもっと幸せにするよ。俺のゼルマ」
 そう言って抱きしめられる。もう、二人ともお互いしか見えてない。これ、本に書くの? 書かないと物語はすすまない。レテ姫の事もある。
「ゼルマ?」
「この甘々のあちあちを書かないといけないと思うと恥ずかしくて」
「適当に書けばいいよ。ちゅーしてましたって」
「それが恥ずかしいのっ。もう、どうしてお盆がないのよっ」
「鉄拳制裁でもいいよ。俺の頭には今、花が咲き乱れてるから。脳細胞壊れる程殴る?」
「いやよ。ウルガーを傷つけるのは。お盆は木だから出来るのよ。ローズウッドは柔軟性があるから」
「可愛いゼルマ。俺のものだ」
 そういってまた大人のちゅーを仕掛けてくる。あちあちも考え物だわ。ちゅーに翻弄されながら考える。いつの間にかウルガーの胸に脱力していた。
「手加減してよ」
「やだね。やっとバイオレットウッドの日を迎えたんだから。婚礼をすればもっと・・・」
 ばこーん。
「静かだから変だと思って開ければ、また一線越えかけてましたね」
 お母様のお盆が直撃していた。
「お母様! 助けてー。ウルガーが暴走してます」
「あなたもね。ゼルマ」
 う。
 固まるとウルガーが笑う。声を出して笑うのは久しぶりに聞いた。
「ウルガーが笑った」
「俺、いつも笑ってるけど」
「声を出して笑ったのは随分前よ」
「もう。そんな、しょうもないこと覚えなくていいよ」
「大事な人の事はいつでも覚えていたいのよ」
「お姉様」
 お姉様も来ていた。そのお姉様が顔をしかめた。お腹を触っている。
「まさか・・・陣痛?」
 お母様と顔を見合わせる。
「お兄様ー!」
 私はお父様達が歓談している所へ走り出す。後ろでは医術の心得のあるウルガーがお母様に指示をだしていた。

お父様達を連れてお姉様のいる部屋の前まで来るとウルガーが難しい顔で立っていた。白衣を着ている。
「街中の産科医が出産で出払っている。俺が取り上げるしかないんですが、よろしいですか? 兄上、父上?」
「ああ。頼む。ウルガー」
 お兄様が即座に頷く。
「お兄様、お姉様の側にいてあげて。立ち会ってあげて。きっとお姉様も心強いわ」
 私が頼み込むと渋い顔をする。
「女性の出産に男が同席するのは・・・」
「そんなの古い考えよ。子供は両親がいて初めて生れるの。今、一番心細いのはお姉様。お兄様が手を握って立ち会ってあげればきっと心強いの。それになんだか嫌な予感もするの。そうね。ウルガー」
 そうだ、とウルガーは頷く。
「逆子だ。その逆子を取り上げられる産科医がほぼ出払っているんだ。母子の危険度は高い。側にいてあげた方がいい。兄上、父上、どうか側に」
「わかった」
「では。この白衣を。ゼルマも側にいてあげて。女性の事は女性しか解らない。ゼルマも、母上も」
「私もですか?」
「フローラの母と言った人が何を言ってるのですか。是非みまもってあげてください」
「わかりました。ゼルマ、行きますよ」
 躊躇なく、部屋へ入っていく、私とお母様似続いてお兄様達が続く。
「アウグスト」
 陣痛をこらえながらお姉様がお兄様に手を伸ばす。その手をお兄様がつかんで握る。お姉様の顔に少し微笑みが戻った。
「ほらね。お兄様。旦那様がいると妻はほっとするのよ」
「みたいだね。フローラ大丈夫かい?」
「とんでもなく大変だけどあなた達がいてくれると心強いわ」
 その間に陣痛の間隔が短くなっていく。どれだけ時間がたっただろうか。お母様がお姉様の汗を拭く。
「そう。力んで。足がでてきた。へその緒は巻き付いていない。ラッキーな方だ。そう。もう少しで生れる。もう一度力んで!」
 ウルガーの適切なリードで赤子が出てくる。足からだ。やっぱり逆子。お姉様が最後に力むとすっと赤ちゃんが出てきた。大きな産声が響き渡る。へその緒の処理をウルガーがしてすぐにお姉様の傍らに置く。
「こんにちは。私のあかちゃん」
 愛おしそうに赤ちゃんを見ているお姉様だったけれど、また顔をしかめた。
「双子だ。検査で解らなかったみたいだね。もう一度力んでもらわないと。姉上。もう一回産んで下さいよ」
「え?」
 ウルガー以外がびっくりした眼差しになる。お姉様も寝耳に水だ。
「ほら。この子は逆子じゃないね。あ。頭が出てきた。もう一度」
 お姉様が力むとするり、と出てまた大きな産声が聞こえてきた。ウルガーが取り上げて今度はお兄様の腕に抱かせる。
「二人とも女の子ですよ。嫁に出すときに泣かないといけませんね」
「この子達は嫁に出さない」
 もう親馬鹿になっているアウグストお兄様だ。
「それじゃ、行き遅れになってしまうわ」
 お姉様が言うと、お兄様はうーんと考えこんでしまった。
「そんな事を考えてないで早くおくるみで温めてあげなさい。保温が下がると危ないですよ」
 お母様がウルガー並に医術の知識を披露する。
「お母様も医術の心得が?」
「ウルガーの読んだ本をあとから読んでつけた知識よ。一体、熱心に何を読んでるかと思えば医術でしたからね。ぽーっとしてる演技をしているとずっと知ってましたよ」
「母上・・・」
「ウルガー、さっさと手を洗って白衣を脱いできなさい。あなたの姪っ子を抱っこできませんよ」
「ああ。後処理が終われば出て行きますよ。では、後処理をしておきますね。姉上」
「後処理?」
「いろいろあるんですよ。出産には。姉上、兄上は子供の名前でも考えていて下さい。ゼルマ手伝って」
「わかった」
 そう言ってウルガーの側に行く。お姉様に微笑みを向けてから。
 この姫達は私みたいにお転婆になるのかしら。それともお姉様に似て真面目になるのかしら。そんな事を考えながら生命神秘を考える。祝福すべき出来事が二つも重なったのだった。

お姉様が出産して私の環境はがらり、と変った。宮殿に来た当初はお母様と眠っていたけれど、お姉様の実母がいないためお母様がその代わりになる事を申し出されて、私は隣の部屋に移った。そしてウルガーが忍び込まないようにと厳重な警備が夜にはある。昼間も部屋にはウルガーは入れず、かといって東屋にも行けず・・・。どこであちあちするんですか、とウルガーが訴えた成果はお姉様とお母様の部屋での逢い引きになった。かといって一日二十回もおしめを替えることとなる新生児のいるところでいちゃいちゃんなんてできない。ウルガーも私も子育てのお手伝いに回った。あちあちしてていいのよ、と言われても人目のあるところでできるわけがない。ウルガーは時々背中にぶら下がるけれど、振り落としている。婚約期間は限りなく子育てにあてられることとなった。そして今日も姪っ子を抱っこしてあやしている。一人はアイリと名付けられてもう一人はクラーラと名付けられた。せっせと子育てしながらウルガーと将来の話しに花を咲かせる。
「子供の性別はどっちがいい?」
「そうだなぁ。男の子と女の子一人ずつほしいな」
「ちょっと多胎出産の危険性知ってる人が何を言うのよっ」
 ばこん、とお盆が命中する。
 その会話を聞いていたお母様がため息をつく。
「もう少し夢のあるお話をなさい。ここはいいからそこらで恋人同士の語らいをしてなさい。多胎出産なんてどこで覚えた言葉なの。ゼルマ」
「ウルガーの本をちょっと読んだだけです。ウルガーはいろいろ読んでますから」
「私も読んではいるけれど、理解力はゼルマの方が上ね」
「過去世の医療は進んでますから」
「さらっと言うのね。もうすこし夢のある発言がほしかったわ。こうのとりさん、など」
「こうのとり!」
 私とウルガーが呆れて声を上げる。
「今時、そんな話し信じる人がいる方が不思議ですよ。母上」
「そうそう」
 妙に未来化している息子と娘にお母様は深くため息をつく。
「頭にお花は今は咲き乱れてないのね」
「この状態で咲かせるのは無理です。いちちゃいちゃさせたかったらどこか部屋を下さい。せめて東屋ぐらいに」
「だめですよ。ゼルマは命を狙われているのですから。婚礼までこの宮殿です」
「保護呪文、宮にかければいいじゃないですか。もともとあそこは警備が重くて構造も複雑です。保護呪文さえかければ俺もゼルマも安心していちゃいちゃしますよ」
「保護呪文ねぇ」
 お母様が考え込む。その先からクラーラかアイリが泣く。
「はいはい。ばぁばがすぐに行きますよ」
「だめだ、こりゃ。父上に直談判しよう」
 扉を開けるとそこにはずらりとじぃじふたりとパパ一人が立っていた。
「わぁ」
 いきなり六つの目に見られて私とウルガーは飛び上がるほどびっくりする。
「じぃじも会いたいのだが、一向に呼んでもらえない。ゼルマから頼んでくれないか?」
「そんなの勝手に入ればいいではないですか。パパとじぃじなんですから
堂々と入っていいのですよ」
 私が言うと三人は顔を見合わせる。この国は赤子とふれあうのは母だけだと思っているのかしら。
「それなら入ってみよう」
 お父様が動く。お兄様もその後ろに続く。そしてある意味、義理のお父様になる国王様も。
「あ。父上、宮に保護呪文をかけるよう手配して下さい。ここではゆっくりできません」
「ああ。わかった。あとで大神官に話しておこう」
 そう言って部屋に入る。
「あれは、絶対に聞いてない。左から右に筒抜けている」
「うん」
「俺たちで大神官に言いに行こう。俺がいれば少なくとも妨害はできない」
「?」
「一人の時を狙ってくるんだろう? だったら二人でいれば大丈夫だ」
「あ。そうね。じゃ、行きましょう」
 私達は宮殿並に警護が重厚な神殿へ恋人つなぎして向かった。


あとがき

電車で更新中。再編集は長いのでお気をつけください。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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