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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:正直な王子と正直じゃない姫君(4)新しい世界での初デート

前話

「ひ~め」

「何よ。うっとうしいわね。触らないで落とせ、って言ったでしょう?」

王宮の中庭で今の時代の言葉の勉強しているあたしにエルンストが後ろから負ぶさってくる。

「母上が、たまには街中にでたら? って」

「王妃様が?」

 あの着替えのカルチャーショックの後、国王陛下と妃殿下とお目通りをすませた。王妃様はそれはそれはあたしを見ては喜んで、あれもこれもとしたいことを言われた。内心、嫌なんですけどー、と思ってたけど、あそこまで喜ばれると流石に言いにくかった。それ以来、聞き分けのいい娘となっている。実の息子の王子は何人もいる息子の一人ということのようで、ざっくばらんに扱われている。この逆転現象にあたしは思わず、エルンストに同情しかけたけど、甘い顔を見せれば今みたいにぶら下がってくる。これも結構、きつい対応してるのだけどエルンストはまったく気にしていない。

「街中には冷たくて甘い、アイスクリームがあるよ。姫の好きな」

「アイスクリーム?」

 思わず、喜び勇んで立ち上がってしまった。先日、夕食の席に出たバニラのアイスというものにあたしは、見事にとりつかれてしまった。甘くてクリームの味がして、これはもう、女の子の胃袋をつかむ食べ物だと思ったわ。

「じゃ、お散歩決定。着替えていくよ」

「って。あの足がにょっきりでる服?」

 あれは嫌だ。いくらバニラのアイスが待っていようとそれは嫌だ。

「普通の丈より長いぐらいのスカートだから大丈夫だよ。街中全部がミニスカートな訳じゃないから不審がられないし。姫は奥ゆかしいからね」

「あなた。あたしで遊んでる?」

 面白げなエルンストの言葉につい、問いただしたくなるあたし。

 いいや、とエルンストが首をふる。

「行きつけのアイスの食べられるところを知ってるんだ。身分もバレてるけど内緒にしてくれてるし。隠れて食べるには最高の場所だよ」

「わかったわ。服を用意して頂戴。エミリーに手伝ってもらうわ」

 この時代の服はコルセットはいらないけど、ボタンとかいうのが面倒。一人ではなかなか進まないのでエミリーに補助を頼んでいる。

「あ。もう。服とエミリーがきているよ。俺、城の門で待ってるから」

 そう言ってエルンストは部屋を出て行く。入れ違いにエミリア、エミリーが入ってくる。

「姫様。お召し物ですわ。お手伝いいたしますから王子と楽しんでください」

「あのエルンストのいいなりになるのは嫌なんだけど」

 心底嫌がる表情を浮かべるとエミリーは首を振る。

「エルンスト様は名前の通り正直な方ですわ。上のお兄様達は政権争いで忙しいようですけど、エルンスト様は末っ子だから、と言って仲間に入っていらっしゃらないんです。自由人とでも申しましょうか。とにかく、裏表のない方ですわ」

「そう?」

 あの薄らぼんやりした笑い顔を思い浮かべながらあたしは服に手を通していた。


「これ・・・が。アイスクリーム?」

 王宮で食べたことない形のアイスクリームを手に取ってあたしはそれを見つめる。

「あー。正式にはソフトクリームって言うんだけどね。ねじねじ巻きがかわいいだろ?」

「あなた。可愛いもの好き?」

 怪訝な視線をエルンストに向ける。確か、幼い少女が好きになる男性がいると、聞いたことはあるけど・・・。

「そんな目でみないでくれよ。俺だって可愛いものは好きだけど、異常なまでに想う事はないさ。たまたま姫にこれを食べさせたいと思っただけなんだ。だって、いろんな事を見ている姫が見られて俺、嬉しいんだ」

「嬉しい・・・?」

「俺には小さな妹がいた。流行病で亡くなって・・・。男兄弟だらけになった。姫は母上にとっても妹のような存在で、俺も妹を思い出すんだ。小さかった妹が大きくなったらこんな感じかな、って」

「って、家族同士の恋愛は御法度よ」

「わかってるよ。俺が好きなのは姫で、妹はもう過去だ」

「の、割には落ち込んだ目をしてるけど」

「これは名残・・・。俺はもう未来を見るしかないんだ。奥さんもいることだし」

「奥さんって・・・あたしのこと?」

 もちろん、とニコッとエルンストが笑う。


そこ、笑って言うところ? 

あたしはこの薄らぼんやりした王子に嫁ぐの? 

生活力もなさそーな男に。きっと政権争いだって一番下よ。

「食費とかどうやって稼ぐ気?」

「そりゃぁ・・・。王族の勤めを果たして、からだよ」

「王族の勤め?」

 怪訝な視線を向ける。

「ほら。隣国との戦いとか」

「戦争! まだあるの?」

 勢い余ってエルンストのソフトクリームが落ちる。

「あーあ。もったいない」

「もったいないじゃないわよ。それであたしは戦争未亡人になるわけ?」

「それはヤバいなー。兄貴達に姫を取られる。なんとか生き延びるよ」

「そんな悠長に構えて!」

 なんだかあたし、さっきから大声ばかりだしてるんだけど。周りの人が視線を投げかける。

「バレた。走るよ!」

「ちょっと。あたしのソフトクリームが!」

「そんなのいくらでも買うから。まずはずらかる!」

 あたしとエルンストは街中をすり抜けながら城へと戻って行った。

 城門をくぐり抜けてあたしとエルンストは肩で息をしていた。

「思いっきり走ったわね」

「だって。見つかったらサインとかねだられるから」

 あんたはアイドルかっ。 

 ここにあの銀のお盆があれば思いっきり殴りたい。それでもあたしがアイスにとことん惚れたのを見て連れて行ってくれたのよね。最後まで食べられなかったけど。

「あなた、たまにはいい事するのね。だけど、あたしを落とすのには百年以上は早いわよ。二千年間分たまってるんだから」

 あたしは、さっさとあてがわれた自室へ戻る道をたどり始めた。エルンストがこけつまろびつ、後から付いてくる。まるでカルガモの子みたい。くすっと笑ってあたしは顔に手をやった。

 もしかして。もしかして~!

 あたしの叫びは声にならぬまま、空に消えていく。

 あたしは頭の中に浮かんだ仮説を無理矢理頭の中から追い出す。会って数日。そして、二千間の年の差よ。

 あってたまるもんですか!

 急に立ち止まったあたしの後ろでエルンストがつんのめる。

「姫。止まるなら止まると言ってよ」

「どーしてあんたに言わなきゃいけないのよ」

 じと、っとあたしは仮、婚約者候補をにらみつける。

「そりゃ。俺の・・・。なんでもありません」

 きゅぅん、と言うような子犬の瞳でみるとエルンストは別方向に歩き出す。

「ちょっと。連れ出しておいて帰りは一人?」

「姫!」

 喜び勇んでエルンストが来る。

「調子いいわね。どこで切り替えができてるの?」

「さぁ?」

 さぁって?

 エルンストのぼけた答えに呆れてあたしはずんずん進む。カルガモの子同様にエルンストが着いてくる。

「まぁ。お早いお帰りで」

 エミリーが迎える。

「こいつの身分がバレそうだったから逃げたのよ」

 あたしのソフトクリーム・・・。

「また、この埋め合わせはするからさ。機嫌直して。姫」

「だから、私はエリアーナ! そんじょそこらの毛の生えたような姫君のような呼び方は止めて!」

「わかった。エリアーナ。今日はごめん。サインでもなんでもしていたら、ひ・・・エリアーナはソフトクリーム食べられたんだもんな。今度から気をつける。次は馬で遠乗りしよう。それなら人のウジャウジャいるところに行かないしさ。それに王族の牧場にジェラートというアイスクリームも売ってるから」

「じぇ・・・じぇらーと?」

 あたしは悔しいながら舌を噛みそうになって聞く。

「そう。今日のソフトクリームよりは若干固いけどこれもアイスクリームの一種だよ。エリアーナはこれが好きなんだね。いつかおいしいアイスクリームを贈ってあげるよ」

 えらそーにいうなー!

ちょっとギャップがあるからってその扱いはないんじゃない? 

「あんた。二千年を馬鹿にしてるの?」

「いや。普通に言ったつもりだけど。ひ・・・エリアーナを傷つけたなら謝る。ごめん」

 何度も姫と言いかけて訂正するエルンストにあたしはため息をつく。

「もう、いいわよ。姫、で。その代りあんただけだからね。この許可は。他の人にはエリアーナって呼んでもらうわよ。ね。エミリー」

 急に話を振られたエミリアは急いで返事する。

「は、はい。今後はエリアーナ様とお呼びします。周りの使用人にも周知させますので」

「よろしい」

 そう言ってあたしは自分の城でもない自分の部屋に戻った。

「エリアーナ様はアイスクリームがお好きなのですか?」

 エミリーが無邪気に聞いてくる。そう素直だとツンデレもだせない。

「ま、まぁね。あたしが生きていた頃にはなかったから」

「頃とは。現在もご健在ではないですか」

「まぁ。そういっちゃぁ、そうなんだけどね」

 二千年後に生きてるって結構不思議。あたしの産まれた国はとっくになくなっていて文化も発達していて、予想外のことばかり。神経がすり減る。そのストレス発散でエルンストに当たってるというのもあながち、嘘じゃない。生れたときのものが何もないって、結構きついわよ。まったく変わり果てた土地を見て取り残されたように思うときが多々ある。それを知られるまいとつい、乱暴になってしまうけど。

 ああ。おセンチはだめよ。あたしは強く雄々しく生きるんだから。

「今日は本当に残念でしたね。王子は他のお兄様達と違ってよく街に出られて人気ものなんですもの」

「街にしょっちゅう行ってるの?」

 ずるい。あたしは篭の中の鳥なのに。自由なエルンストがうらやましかった。

「自由っていいわね。姫君止めて一般人で生活しようかしら」

 あたしがぼそっと言うとエミリーはぎょっとして見る。

「エリアーナ様、城の外は危険なもので一杯ですわ。もっとこの国に慣れないと金品財宝巻き上げられてしまいます」

「金品財宝ってあたしの身につけている宝飾品しかないわよ」

 金のあたしが産まれた国の刻印が彫ってあるペンダントと指輪とブレスレットぐらいだわ。

「それが、通常よりお高い値で取引されると解ってもですか?」

「高い?」

「はい。二千年も前なら、考古学的価値がありますわ。欲しい人には垂涎の的ですの」

「文化財ねぇ。そういう見方もあるのね。汗をかいたわ。湯浴みの用意をしてくれる?」

 あたしが思案気に言うとエミリーは飛んで出て行く。


あとがき
エッセイの勉強でシンクロシティと書いたけれど、シンクロニシティーではなかろうかと反省中。誤解を招くような語句の使い方はいけません。すみません。そして不眠症で悩む私はポケモンスリープを入れました。ピカチュウとイーブイだけが好きなだけだけど、あのかわいいポケモンならいいわっ、と入れて不眠症対策。十一時半にベッドに入る。なんとか守らねば。寝付けないんですけどね。寝ると足が痛い。どっちむいてもいたい。そして、えびのアレルギーがひどくなってきているよう。ヘパリーゼの副作用か? と思った湿疹。ひとくちオールレーズンがエビ加工と同じ施設とあって、こっちか? と。2回目飲んでも何もない。でも、疲れたときだけ飲もう。明日は大奥最終回。心して見ます。熱血タイガース党も気になるが。開幕前の特番。みたい。開幕は金曜日。タイミングがお風呂と重なる。なんとかして回避せねば。これから野球ばかり見る生活が始まる。漢検もすすむかしら?
当分「訳あり」は新連載部分を書くより本読む方がいい。ので、自然と頭の中に筋道ができるまでは漢検ができる。読書が先だけど。六月間に合うか?
無理やろな。十月照準あわせてます。四文字熟語とかがむずい。おっと、時間がない。おやすみなさいー。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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