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【連載小説】恋愛ファンタジー:最後の眠り姫(93)

「奥さん。弟が気になるのかい?」
「え?」
 次の遺跡に向かう途中でクルトが声をかけてきた。つないでいる手に力がこもる。
「ヴィーのうつろな瞳が気になって……」
「それはこの旅の最後にわかるよ。あの子の出どころを見るんだ。そこをどう感じるか、だね。俺たちは生まれたのはあの西の国だ。エミーリエもね。でもヴィルヘルムの魂の生まれどころはあの不思議な土地だ。そこで何を感じるか。俺たちは何をしてあげられるか。そのためにもこの遺跡は重要だよ」
 クルトが手で示す。
「ここは?」
「病院だって。魔皇帝は統治した土地に病院を建てて人々に健康を与えたんだ。そしてほかにもしたんだよ。市場を開いたり、土地を開発して人々がいい暮らしができるように気を配ったんだ。ヴィーの手は全部血で塗られたものではないかったんだ」
「じゃ、どうしてそれを教えてあげないの!」
 私は始めてクルトに詰め寄っていた。あの子にこのことを言ってあげれば……。
「俺から言ってもだめなんだ。自分で思い出さないと。あの地に行けば思い出すと俺は思っている。魔皇帝の記憶がすべて継承されるはずだ。そこでどんな答えを出すか見守る必要がある。エミーリエは過去と現在の家族として守ってあげて」
 クルトの瞳は苦しげだった。わかっているけれど、手を出せない。甘やかせない。きっと守ってかわいがってあげたいのに。
「クルトがつらいなんて……」
「いいんだよ。お兄ちゃんだからね。俺にはキアラとエミーリエがいたらいいんだ」
「クルトー」
 二人のつらい心を思って私は泣く。私のあんなぎりぎりの押し倒し事件なんて消えてしまう。
「ああ。優しいエミーリエ。その心でヴィーを癒してあげて」
「私にはクルトも大事よ。傷ついたクルトなんて見たくない」
「大丈夫。それにしてもエミーリエ泣きっぱなしだね。感情の高ぶりが……って。エミーリエ月のもの来てる?」
「ちょ……っ。何聞くのよっ! って……。まさか? やばいわ。成婚前よ」
「実は成婚の式は行われていたっていうしかないねー。そうか。名前なににしようかなー」
 クルトの顔がはじける。そう。妊娠の可能性が浮上したのだ。そんな……。婚前に子供なんて……。
「うれしくない?」
 ニコニコのクルトに顔を覗き込まれる。
「うれしいけれど。まずはヴィーの事が……。それにお母様達にも……」
「父は早く手を出せと言ってただろう? カロリーネ姉上も婚礼前に授かったんだ。国民は踊って喜ぶよ。長い春だったからね。さぁ。ヴィーとフリーデを探そう。この件は別件だからね。きっと新しい命がヴィーたちを癒してくれる」

 横抱きに私を抱えるとクルトは宿に戻る。すごい速さで走って落ちないかと思って首にしがみつく。それもクルトにはうれしいことみたい。甘えれば甘えるほど喜ぶんだもの。
「クルト大好きよ」
「もう一声」
「愛してる」
「俺もエミーリエとこの子とキアラがいればいい」
「ヴィーも家族よ」
「ああ。そうだね。でも愛してくれるとは言ってくれないからねー」
「いうわけないでしょ。それはフリーデへの言葉なんだから」
「あ。いたいた。ヴィー! フリーデー!」
 輝き満ちている兄の顔にヴィルヘルムがぽかんとしている。
「兄上?」
「いいかい? 君はおじちゃんになるんだよ」
「おじ……おじちゃん?」
 何の事かもわからないみたい。先に反応したのはフリーデだった。
「まぁ。エミーリエ様! お子様が!」
「えー!! 生まれるのー?!」
「まだ先よ。クルトおろして」
「だーめ」
「おじちゃん」
 クルトの目に光が戻る。よかった。おじちゃんと言っては言葉をかみしめていた。
「おなか触ってもいい?」
「いいわよ。クルトがおろしてくれたらね」
「だめ。エミーリエのおなかは俺のものだ。ヴィーにはエミーリエの愛をあげるよ」
「愛?」
「最果ての地でそれはわかる。たった三人の過去からの家族というのが」
 ヴィルヘルムはその言葉ではっとしたようだった。
「兄はいつでも手を広げて待っているから。さ。エミーリエ。休んだ方がいい。宿に戻って国に連絡しよう」
「えー。まだ遺跡を見ていたいわ」
「だーめ。明日また見に行こう」
「仕方ないわね。ヴィー。遺跡を代わりに見に行ってくれない? フリーデと一緒に」
「姉上?」
 ヴィルヘルムが不思議そうに見る。
「あなたの心があそこにあるわ。じゃ、また明日ね」
 また表情の変わったヴィルヘルムがそこにいた。クルトはそれをフリーデに任せて私と一緒に宿に戻ったのだった。


あとがき
改めて93です。スマホからこんにちは。クラウドにテキスト上げたので作業が楽です。あとがき全く浮かびません。ただ。機嫌が悪いのは確かです。フォローしてもまた同じコメだったら解除です。使い回しのコメはやめてください。それだけです。

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