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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (20)再編集版

これまでのお話

前話

「どういうこと? お父様とお母様の娘じゃないの」
 自分のルーツが大きく変わり、私は根無し草のような感じがして、体から力が抜けていく。ぺたん、と床に座り込んでしまう。
「ゼルマ。手紙の詳細は母上と一緒に見よう。ヘレーネ。先に宮殿にお帰り。俺はゼルマを連れて戻るから」
 ウルガーはポケットに手紙をしまうと私を抱き上げる。歩ける、と言おうとしてちゅーされる。
「こんなに震えているじゃないか。歩けるわけないだろ。ただの恋人ごっこと思われて何も詮索されないから」
「ウルガー」
 私の目に涙がたまる。その頬に軽くちゅーするとウルガーは私を宮殿に連れて歩き出した。
「まぁ。どうしたの。ゼルマ。真っ青な顔をして。さ。ウルガー、ベッドに乗せて」
「はい。ゼルマの秘密がまた一つ、増えました」
「増える?」
「私、お父様とお母様と血がつながっていなかったんです」
 そう言っている内に悲しみが押し寄せてきてわっと泣き出してしまう。
「ここに詳細が・・・」
 ウルガーがお父様の書いた手紙を渡す。随分、昔に書いたような感じだった。まるで早く自分が死ぬことを予測していたかのように。お母様は長い時間、手紙と向き合っていたけれど、泣いている私の肩を抱く。
「私も養子なのよ。元は物語師のただの子供。あなたも、あなたの故郷に逃げた物語師の一族の子供だったようね。産みのお母様があなたのお父様に預けたことが書いてあるわ。名前もそのまま産みのお母様がつけた名前をあなたにくれたのね。産みのお母様も育てのご両親もあなたを守りたかったのよ。あらゆる悪事から。そしてそのためにここにいるの。かつて物語師が追われて家族から引き離された私の元へ。そして愛するウルガーの元へつなげられていたのよ。あの本はまだ持っていますか?」
「あの本?」
 私は何の本かも解らず、聞き返す。
「ウルガーの字だけが載っている本よ」
「荷物として持ってきています。あそこに元通りに書き直しました。それから出来事を綴っています。あの本にはこんな手紙のことはなかったのです。まさか、誰かがまた?」
 人の人生を操ろうとする人がまだいるのか。恐怖に思いながら本を開く。ほっとする。書かれていなかった。まだ、何も。お母様と礼儀作法のレッスンをしていることは書いた。そして、絵本を買いに行って感じた幸せのことも。見せるのは恥ずかしかったけれど、確認のためお母様に渡す。
「なるほどね。アウグストとフローラが困惑していたのがよく解ったわ」
「お母様!」
「母上! そこですか。つっこむところ」
 二人であのちゅーの事を突っ込む。
「そりゃ、娘と息子が清い仲でいることを知っておかないといけませからね。ませた息子と娘だこと」
「もうすぐまた年を取ります!」
 ウルガーが抗議して言う。
「ゼルマもお年頃になったわね。あとは心づもりだけね。あ。パレードの準備がまだあったわね。それをつめてから神殿に結婚申請を出しましょう」
「三ヶ月以上も後・・・」
 ウルガーががっくりしている。
「ウルガー?」
 最初のショックから立ち直った私はウルガーを見る。
「お年頃なのですよ。ウルガーは」
 それを聞いた私の顔が真っ赤になる。
「ちゅー魔!」
 ぽすん、と手近にあった枕をなげる。
「ゼルマ。ちゅーだけと思っているの?」
「それ以上言ったらお盆投げるわよ!」
「もう。普通の事じゃないか。そんなに恥ずかしがらなくても」
 ばこーん。
 ローズウッドのお盆二枚がウルガーを直撃した。

 それから、また東屋で私はウルガーとデートしていた。ウルガーは執務ごとだけど。 私はふと、思った。ウルガーと出会うのは必定の事なのだろうか、と。必定とはこれまた難しい言葉を思い出したけれど、ウルガーも元物語師の血を引いた子供。そして私も。物語師の血同士が呼び合ったのだろうか。すくなくとも私を求めて字を書いた結果、私がここに、戻れたのはそのおかげだろう。
「ありがとね」
 東屋で仕事に没頭している婚約者にそっとちゅーをする。ウルガーは突然の言葉にびっくりしている。ふふ、とその様子がおかしくて笑ってしまう。ウルガーは私のおでこに手をやる。
「熱なんてないわよ。ただ、物語師の子孫のあなたが、戻ってきてくれと書いたから戻ってこれたの。それが嬉しかったのよ」
「そうか」
 そう言って大人のちゅーを仕掛けてくるのを避ける。
「ちぇ、また素早くなって。弓なんて習うからだ」
 すねるとまた仕事をし出す。
「弓ぐらいしても構わないじゃない。身を守るのに必要なんだから」
「そんな後方支援しか出来ない技はいらない」
 書類に目を落としたまま、ウルガーが言う。
「あら。後方支援だけじゃなくて現実にコントロールがうまくなってるでしょ?」
「そのおかげで頭に花が咲き乱れてるよ」
 不機嫌な声で言うウルガーに少し不安になる。
「痛い?」
「そりゃね」
 心配で身を寄せるとすでに腕の中にいた。
「捕まえた。俺の姫君」
「姫じゃないわ」
「だけど、心を痛めるほどにご両親が好きだった。それが姫である証拠だ。ご両親は自分の娘と思って育てていたよ。だから手紙をあんな所に隠して言おうか言うまいかと悩んだんだよ。それはわかるだろう」
「うん」
 私はお父様を思い出す。物静かで優しい父だった。あの舞踏会も私が行きたいとだだをこねてそれなら、と国王に願い出て叶ったのだ。別の王子様には捕まったけれどそれでお父様は命を失った。私がだだをこねなければ・・・。
「そうすれば俺たちは出会っていなかった。もう、終わったことを嘆くのは止めよう。未来のことを考えよう。子供は何人欲しい?」
「何人・・・って・・・」
 かろうじて近くにあった小のお盆を持って制裁を発動させる。最近、ウルガーはやけにそういうことを言うようになってきた。お年頃だから、と皆言うけれど。その子供の前にあるものを前提とする発言を皆、恋人の戯言と言って放っている。これ以上エスカレートすれば清い仲でいられなくなるわ。ウルガーはいつでも、という感じだもの。お母様の盾の後ろに隠れないといつどうなるかわからない。こうして二人でいるのも本当はよした方がいいのだけど。それでも少しでも側にいたかった。何か嫌な予感がしている。無事、婚礼の日を迎えらればいいけれど。そういえば、結婚前の儀式が明後日頃にはあったかしら。ふっと思い出して腕の中から抜け出す。
「ゼルマ?」
「バイオレットウッドの儀式のことをもう一度確認するために本を持ってくるわ。本が宮殿なの」
「じゃ。俺も行こう」
「ウルガーはここで待ってて。すぐ戻ってくるから」
 頬に軽くちゅーすると私はお母様やお父様がいる宮殿にむかって歩き始めた。ヘレーネがなにかを感じたのかぴったりと着いてくる。
「ヘレーネも解ってるのね」
 頭を撫でているとどこからか腕が出てきて私を捕まえる。その手にヘレーネがかみつく。瞬間、多数の腕は消えた。恐怖で私は地面に座り込む。ヘレーネが警戒の声で吠える。ウルガーや衛兵達が速攻でやってくる。
「ゼルマ!」
「ウルガー。今・・・、一杯の手が」
「宮殿に戻ろう。あそこは神官が保護の呪文をかけてるから安全だ」
 そう言って抱き上げる。まだ、私を狙う人間がいたことが明らかとなったのだった。

「お母様!」
 ウルガーに降ろしてもらうとお母様似しがみつく。お母様はもう、何があったか知ってるみたい。頭を撫でられる。
「怖かったわね。バイオレットウッドの儀式を先延ばしして警護を固めましょう」
 いえ、と私は声を出した。その言葉にウルガーもお母様もびっくりしている。
「手は何もない空間からたくさん出てきました。警護のしようがありません。この宮殿ならともかく、バイオレットウッドの儀式をしたからといって防げる事ではないはず。華の宮の改修工事も終わってません。いくらでも私を狙える。それなら一日でも早く、ウルガーの妻となりたいのです。たった一日でもいいから」
「ゼルマ!」
 私の小さな願いにウルガーがたまらず、私を抱きしめる。
「一日なんてない。ずっと一緒なんだ。絶対に守るから」
「そうね。ウルガーは強いものね」
 期待も込められなかった。無数の手が、闇に落ちた物語師に操られたものが私を意識の世界に戻そうとしている。私達が一緒になると物語師の血が復活する。それを恐れる物がいる。必ず、また来る。
「ゼルマ。悪い癖だ。一人でなんでもしようとするのは。これは俺の試練でもある。妻を守り切るという試練の。物語師の血を引いている俺ならゼルマを守れる。過去世になんて戻すもんか」
「ウルガー、今の言葉」
 私の考えていたことと同じだった。
「連中は物語師の血の復活を恐れている者の仕業だ。俺とゼルマが婚礼をして子を成せばもう一度、一族が復活する。それを恐れて闇の物語師か魔術師辺りを使ったのだろう。ゼルマの着替えとトイレとお風呂以外は俺が側にいる。これは母上に文句を言われたって譲れない。何もしないから。婚礼の夜にすることは婚礼の夜以外にしかしない。俺はゼルマを守るためならなんでもする。もう、消えないでくれ」
 そう言ってぎゅっと抱きしめる。震えが伝わる。あの一年の事がフラッシュバックしてるのだろう。そこで、現と夢の番人をしているレテ姫を思い出した。
「ウルガー。レテ姫に会いましょう。何か解決策があるかもしれない」
「レテ姫・・・か?」
 ちらり、とまた陰った色が瞳に走る。これは一生ついて回るのだろう。それごと愛している。この人を。レテ姫もウルガーを愛している。だから私に託した。助けてもくれた。
「どうやって会うんだ?」
「あの本にレテ姫のところに行くところを二人で書くのよ」
「だが、バイオレットウッドの儀式が近い。今からするのか?」
「婚礼までにすればいいわ。バイオレットウッドの儀式は予定通りに。妨害されれて燃やされるのならこの宮殿で保護すればいいわ。ここは国随一の保護呪文が施された場所。下っ端の物語師達には手も足もでないわ」
「俺のゼルマは強くなったんだな。俺も見習わないと」
 そう言って天使のタッチのようなちゅーを顔中にする。
「ウルガー。くすぐったいわ」
「妻が強くて安心してるんだ。そして愛があふれてくる。これで我慢してくれ。これ以上の愛情の示し方がわからない」
 お母様はそっと出て行って、二人でいちゃいちゃしていたのだった。試練の前に幸せがまだあった。


あとがき
ここでもいちゃいちゃしてましたか。今書いている新連載部分が結構ドライかも。あまりちゅーはでないため。でもゼルマの心情はかけてるかな。いろいろ出来事がありすぎて伏線にたどりつけない。そして今日は、やっと新連載部分一話かけました。二日かかって、やっと。今頃、頭の中が動き出しています。一日眠くて、集中力が続かなかったんですよね。昼寝と夕寝で回復。果たして睡眠とれるのか? また不眠だったりして。それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

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