見出し画像

【再掲載小説】ファンタジー恋愛小説:最後の眠り姫(20)

前話

 内輪の食事会が終わると、早速、お母様とカロリーネお姉様はウェディングドレスのデザインにこだわり始めた。お母様とカロリーネお姉様がてんでバラバラな事を言い出す。あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たず、と膠着状態に陥った。
「母上も姉上も本人の意思を尊重しないと」
 クルトが間に入って取りなしてくれる。じゃ、どうなの? と二人に詰め寄られ、負けた・・・。勝手にしてください。すごすご尻尾を巻いて逃げる私にクルトが言う。
「君のウェディングドレスだよ。君の好きなドレスにしないと後悔するよ。結婚は一度きりなんだから」
 クルトの言葉に、あら、とカロリーネお姉様が言う。
「今は一度きりじゃないわよ」
 離婚と再婚のことを言っているのだとすぐわかった。それにクルトがムキになって文句を言う。
「エミーリエは一回きりなの! 俺だけなの!」
「はいはい。エミーリエ、一緒に選びましょう。あなたが着るのですものね」
 穏やかにお母様が言って仲間に入れてくれる。なんだかそれが嬉しくてにこにこする。
「嬉しそうね」
 カロリーネお姉様が言う。
「本当に家族みたいで嬉しいんです。みんな過去に行ってしまったから」
「ここはあなたの実家。そして私達はあなたの本当の家族ですよ」
 お母様の言葉に心の隅っこにあった孤独が癒やされていく。ポロッと涙が一粒こぼれる。それをクルトが優しく拭ってくれる。今まで抱えていた何もかもが崩れて後から涙が大洪水を起こす。嬉しいのか悲しいのか寂しいのか、何もわからない涙がこぼれる。お母様とお姉様、弟、クルトが私の体に手をかけて抱きしめてくれる。ヴィルヘルムは背が届かないと言って椅子に乗ってまで私に愛情をくれた。嬉しかった。失ったはずのものが新しくなって戻ってきた。生まれ変わったのだ、と思った。この時代に新しく生きるんだ、と。その区切りが婚礼の式だった。
 婚礼の夜、またクルトは「ちゅー」って言うのかしら。そう思うと笑いがこみ上げてくる。
「どうしたのですか。泣いていたかと思うとけらけら笑い出して」
「いえ、私の中の事ですから」
「なかなか、きわどい事を思ったようね。詮索はしないでおきましょう。クルトとだけお話しなさい」
「え? 俺、思い出し笑いの元ネタ聞けるの?」
「わかってるでしょ? クルトの事で笑うことと言えば」
「『ちゅー』?」
「そう!」
 そう言ってげらげら笑い始める。その何がおかしいのか皆、わからないらしい。
「クルトはいつもこれですよ。小さい頃から。それが面白いのですか?」
 お母様達は不思議そうにしている。
「キスするのに『ちゅー』って変ですよ。ロマンティックにしないと」
「そういえばそうね。でも陛下も昔は『ちゅー』でした。遺伝ね」
「あの陛下が?」
 びっくりして今度はしゃっくりが始まる。
「変わった姫ね。エミーリエは。そこが皆を虜にするのね」
 にこにこのお母様に面影が映る。本当のお母様はカロリーネお姉様なのに。
「姉もいるわよ」
 ぽんぽん、と頭をカロリーネお姉様が叩く。
「一人じゃないんですね」
「そう!」
 全員の意見が一致した嬉しい日の事だった。


あとがき
遅れましたー。早々と更新をとしている内に天気予報を待ってたら何もかも遅れてしまい……。今日は自由に時間を使おうという所です。執筆もまだ始めてない。煌星の方を少しやってみたい気もするのですが、キリの良い50話を書きたい。そういう間にも時間はすぎるー。さっさと更新作業しておこう。ここまで読んで下さってありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?