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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (23)再編集版

これまでのお話

前話

 ウルガーが手を引く。私達は華の宮に久しぶりに向かったのだった。
おてて~つないで~、なんて昔の童謡を口ずさみながら華の宮へ歩く。大した距離は無いけれど通り過ぎる宮廷の人々がにこやかに見守ってくれていた。たまに、ごきげんよう、と貴族女性からご挨拶までうけて、私も柄にも無く、ごきげんよう、と答えて悦に入っていた。
 華の宮の前で、ウルガーが顔を輝かせた。
 ん?
 誰か男性が立っている。
「マティアス兄上!」
 私と手を繋いでいたのにあっという間に離して駆け出してゆく。
「ウルガー!」
「ちょっと待ってて!」
 まるで子供のような声に私はムッ、とする。私の前ではあんな声を出さない。兄上、と言うことには義理のお兄さんらしいけど。正妃のお母様の子供はウルガー一人きり。だから兄弟呼びするのは全部義理の兄弟。
 ムッ、としたままで歩いて行く。その男性は私の前で最大級のお辞儀をした。私も内心、面白くないものの、挨拶は返さないといけない。こちらも最大級の宮廷式の応対をする。
「ゼルマ。国境警備隊の団長を務めているすぐ上のマティアス兄上だよ。兄上。こちらは俺の奥さん。ゼルマという姫君だよ」
「ゼルマと申します。よろしくお願いします」
 顔だけは取り繕った。ウルガーに恥をかかせるわけには行かない。それに、兄弟の中では一番仲が良さそうだった。
「何時戻られたんですか?」
「お前の婚礼のために父上がお呼び下さったんだよ。ゼルマ姫、此度はおめでとうございます。一時、あなたがいない時はウルガーは本当に危うかった。戻ってきて下さって本当にありがとう」
 マティアスお兄様(と呼ぶしかない)は優しく手を握ってくれる。だけど、私の心は猜疑心で一杯だった。血のつながりが無いなら王太子の弟の命なんて簡単に狙える。正妃の息子と言うだけで狙われる危険性をウルガーは感じてないのかしら。
「ああ、姫からウルガーを取り上げ上げてしまうところだった。すまないね。ゼルマ姫。華の宮の一室を借りて私の婚約者を泊まらせてもらっている。君たちの婚礼の後に我々も婚礼の式を挙げるんだ。今度是非、お茶会でもしよう。それでは、私は父上の元へ」
 そう言ってすっと去ってく。その後ろ姿をただ、じっと見ていた。
「ゼルマ? 怒ったの? 君を放り出したから」
「さぁね」
 嫌な予感がするのを止められない自分がたまらなくいやだった。そして嫉妬した自分も。
 私はお札を握りしめて華の宮に一人、入っていった。
私はずんずんとキンモクセイの宮へ向かう。ウルガーがおってくるけれどそんなものいらだちで見てる余裕は無かった。あんなウルガーの輝いた顔見たことなかった。それに嫉妬している自分がすごくいやだった。いつの間にウルガーは私のもの、になったのだろう。人はものではないのに。気づいたらぽたぽた涙を落としながら歩いていた。ウルガーが簡単に追いかけられないように複雑な宮の巡り方をする。だけど、急に目の前にウルガーが出てきた。泣いている私を見てぎょっとしている。
「ゼルマ。どうして・・・。俺が何か悪いことをしたんだね」
「してないわ。目から勝手に水が出ているだけよ」
 その横を通り過ぎようとすると腕の中に引き込まれる。
「兄上に会えたのがうれしくてゼルマをないがしろにした。俺が悪いんだね」
「違う!」
 そう言いたくても涙声で言葉にならなかった。ぎゅっとウルガーが抱きしめる。
「俺の愛する人は君一人だ。だけど、俺の大切な人はいっぱいいる。その人を俺と同じように大切にして欲しかったけれど、急すぎたね。ちゃんと時間を取って説明すべきだった。あそこで会うとは思っていなかったから。って、これもいいわけだね。ゼルマはそれだけ俺を大切にしてくれているということだね。ありがとう。ゼルマにも大切にする人達がいるのは解るね」
 こくん、頷く。フローラお姉様やお父様。お母様達も。みんな大好きで大切にしたい人。ただ、ウルガーにそんな人がいることを忘れていた。私一人が独り占めしていることに今更、気づいた。
「ごめん・・・なさい」
 泣きながら謝る。顔が見れなかった。ウルガーが涙を拭いてくれる。
「大丈夫。もう。同じ失敗はしないから。それとお札、入口に貼らないと」
「あ」
 手にしていたお札は手で握りしめてぐちゃぐちゃだった。まるで私の複雑な心境の様に。
「これでも、いいか・・・、いや。よくない! ゼルマ待っててもう二枚もらってくるから」
「ウルガー。いいよ。私が悪いんだもの。伸ばせばしわも減るわ。大丈夫。くしゃくしゃになっても効力が消えることは無いんでしょ?」
「だけど・・・」
「これはさっきまでの私の心なの。ウルガーがあんまりにも嬉しそうで嫉妬したの。だけど、ウルガーを独り占めしていたことも気づいた。私が悪いの。ウルガーの生活をめちゃくちゃにしてたって、さっきわかった。ウルガーの生活を無視してた。忙しいのに押しかけたり。ごめんね。迷惑だったっでしょ? さ、もう一度入口に行きましょ。ほら。おてて~つないで~」
 泣き笑いの表情でウルガーの手を握る。
「ゼルマ。辛かったね。ゼルマの亊もっと考えなきゃ。ご両親もいないし、ゼルマは友達もいない。俺としか会ってないんだから。もっと友達がいれば・・・。俺が独り占めしたくて結局ゼルマに窮屈は思いをさせてたんだね。今の言葉でわかった。ゼルマには俺、一人しかいないのにその人が違う人と仲良くしてたら悲しいよね。護ることを考える余りに人を遠ざけてしまった。ごめん。俺のミスだ」
「大丈夫。お姉さま達がいるわ。お母様も。国王様もお父様になってくれたのよ。これ以上十分すぎるわ」
「ゼルマ。もう一度、神殿に行ってくれないか? その気持ちのままお札を貼らすのはいやだ。ゼルマにももっと広い世界をみせてあげたい。大神官様はその教師役にぴったりだ。これから婚礼までこの世界のことを一緒に勉強しよう」
「あちあちはいいの?」
「それより大事なのはゼルマの心。もう、帰したくない。あの世界に。あちあちはあとでするから。行こう」
「ウルガー。大好き。いつもちゃんと私の事を考えてくれる。ウルガーさえいてくればいいわ。そりゃ、焼き餅は妬くけど、そんなのたいしたことないわ。その戒めにこのお札を貼りましょう。これを見る度にウルガーの一生懸命な想いを思い出せるから」
「ゼルマ・・・」
 一瞬、ウルガーが泣くかと思った。だけどウルガーはお札を持った私の手を握った。
「これを貼ろう。同じ、気持ちでいるために」
「うん!」
 その私達をウルガーの闇を同じ闇を抱えた少女が見ている事をまだ私達はしらなかった。
「ゼルマ、今、天井に近い所に貼るから、はしご持ってくる」
「どうぞ」
「あ。ありがとうって、ゼルマじゃない」
「私はここよ」
 隣で自分を指さす。
「じゃ、この子は・・・」
「マティアス様の婚約者、エルナ・セリア・プリュッコ、と申します。王太子様、妃殿下様」
「兄上の! ・・・と。よろしくエルナ。こちらはもう解ってると思うけれどこの宮の主、ゼルマ姫だよ」
「よろしく。エルナ」
 軽く握手する。だけど、同時に嫌な予感がした。ウルガーよりも深い闇が目の奥に潜んでいた。笑顔だけど目は笑っていない。だけど、大好きな兄上が選んだ人が間違っているなんてウルガーは認めない。しかも闇持ちなど。私はつらつら考えながら握手を終える。それ以外は目を合わせないようにしていた。ウルガーにくしゃくしゃになったお札を一枚渡す。ウルガーはエルナが渡したはしごに登って貼り付ける。嫌な予感がしたけれど、それは無事に終わった。ほっと、ため息をつく。
「ゼルマ、次、キンモクセイの宮に行くよ。エルナ。このはしご借りていくね」
 ウルガーははしごを担ぐと歩き出す。こんな時に出す話では無いと思った私は、大人しくウルガーの隣に並んで歩く。
「静かだね。ゼルマ」
「って。私はいつも静かよ」
「そうだった? 何時もお盆投げてるのに」
「今はお盆持ってないわよ」
「弓の方はどうだい?」
「さっぱり。『それ』と格闘中よ。と、キンモクセイの宮だわ。隣のお父様の部屋へも行っていいかしら?」
「もちろんだよ。あの部屋はもう誰にも使わせないから。ゼルマが許さない限りは」
「ありがと。ウルガー」
 ようやく気が晴れた私はウルガーの頬にちゅーをして、となり部屋に行く。お父様の最期の部屋。連れてきて良かったのかしら、と考えている内に派手な音がした。慌てて戻る。
「ウルガー!」
 ウルガーの側ではしごがバラバラになっていた。
「まさか・・・」
 わざと小細工を施していたの? 嫌な予感が的中した。はしごの欠片を集めて調べていく。明らかに人工的に傷つけられた箇所があった。でも、エレナが犯人とは限らない。これはまだ、心にしまっておこう。そう思っていると、その部分をウルガーが持ち上げた。
「ウルガー、それは」
「人工的に細工されてるね。今度は俺が狙われる番、か。ゼルマも気をつけて、婚礼の日までに何があるかわからないから」
「ええ」
 私の見たエレナの闇の瞳については何も言わなかった。そうこうしているうちにエルノーとアーダが飛び込んできた。
「まぁ。ウルガー様。はしごが壊れたんですか? どうしてまた」
「このお札を貼ってゼルマとあちあちしようと思ってね。でもそれも、気をつけないといけないようだ。フローラは宮殿で子育て中だ。急ぎ、毒の解る毒慣れした女性を探してくれ」
「はい。その点は抜かりなく。お戻り下さって安心しました。ここでしかゼルマ様もウルガー様もお会いできませんから」
「どうして? エルノーはウルガー付じゃないの?」
「キンモクセイの宮付に変りました。急遽。また一緒に朝餉が頂けますね。お待ちしておりました。今日の夕餉はアーダの作った田舎料理で我慢して下さい。今、改修工事中で女官も少ないですし、まだ、毒慣れした女性を探せておりませんから」
「それはいいけど。代りの丈夫な梯子を持ってきてくれる?」
「はい。ただ今」
 エルノーが消える。
「また、頂きますとご馳走さまだね」
 私の緊張をほぐそうとしていたのか、ウルガー言う。
「そうね。またできるわね。お姉さま達はいないけれど」
「大丈夫。宮に戻った、と聞けば飛んでくるよ」
「ゼルマ!」
 うさわをするとはなんやら、だ。お姉様とお兄様がアイリとクラーラを連れてやってくる。
「勝手に宮殿出て・・・。心配させないで」
 ぎゅっとお姉様が抱きしめる。泣きそうになる。
「どうしたの? 可愛い私のゼルマ」
「なでもない」
 ぎゅっと目をつむる。
「エルナの事だね」
「ウルガー!」
 私は驚きの眼差しでまたウルガーを見つめた。

「ウルガー、気づいて・・・」
「いたよ。俺よりも大きな闇持ちの持ち主だ。大方、彼女はここの主になりたがっている。それも俺では無く、マティアス兄上の王太子妃殿下としてね」
 ああ、と私は小さくうめく。ウルガーの王太子の身分を狙う人が山ほどいるのに気づいたのは最近だった。自分がいつも狙われていたから失念してた。だけど。マティアスお兄様からは闇の香りはしなかった。隠すタイプでも無い。ウルガーより純粋な人、だった。性善説を取っているのだろか、と自分でも自問自答したけれど、マティアス様はまっすぐな方だった。闇のやもしらない方。

 ただ、戦では相当の腕の持ち主だから人の死に触れる事は多い。その時のマティアス様がどうなのかはわからない。
「ゼルマ」
 やや強い口調でウルガーが名前を呼ぶ。
「なに?」
「このお札は確かに保護の呪文がある。でも中に入りきっている者までは効かない。エルナに気をつけて。俺も俺のことは自分でなんとかするから。この宮には入ってこれないと思うけれど。ここはゼルマが認めた人間しか入れない。そういうタイプの札だ。だから姉上達とアーダ達。母上達など以外は入れない。ゼルマに今、拒否されている人間は入れない。それをよく覚えていて。お願いされて入れた場合も同じだよ。一度入れたら次も入れる。エルナを決していれちゃだめだよ」
「ウルガー! どうした? 先ほど落下しかけたと」
 ちょうどマティアスお兄様がやってきた。
「落下したんだよ。兄上。エルナの持ってきた梯子が壊れたんだ」
 マティアスお兄様の顔がこわばる。
「エルナ、が、か?」
「そうだよ。兄上。エルナがどんな人生を送ってきたかは兄上しかわからない。だから、よく考えて接してあげて。俺とゼルマが言えることはここまでだよ」
「わかった。よく考えておく。とにかく、無事で良かった。しばらく、エルナは別の宮殿に連れて行く。その方が安全だ。迷惑をかけてすまなかった」
 辛そうに謝るお兄様に私は思わず声をかけていた。
「マティアスお兄様。別にエルナが犯人と決ったわけでは無いわ。ここにいてもいいのよ。ただ、本当に犯人なら、これ以上の事をするとお兄様もエルナにも辛い現実が待っているの。エルナを守れるのも救えるのもお兄様だけよ」
「ありがとう。ゼルマ。君は本当に優しいんだね。ウルガーが惚れた意味がわかった気がするよ。ウルガーすまない。これ以上の事をさせないためにも父上の許可を取って俺はまた国境に行く。やはり、エルナは婚礼の式に参加させない。俺とこのまま静かに過ごしていく」
 そこへ、闇に捕らわれたエルナが現われた。手に短刀を握っている。その場に緊張が張り詰める。
「ウルガー死ね!」
「ウルガー! 危ない」
 私はとっさに前に出た。だけど目をつぶってもいたくもかゆくも無い。そっと目を開けるとマティアお兄様がナイフを受けて倒れていた。
「兄上!」
 ウルガーがマティアスお兄様の傷を見る。
「エルノー。すぐに警備の者を!」
 アウグストお兄様がエルナを抱えてナイフを落とさせてエルノーに言う。
「だだいま!」
 急に慌ただしくなったのキンモクセイの宮だった。


あとがき

あとがき忘れてましたー。クロームからのアクセスです。何故かスマホの新連載分の一話をアップロードができない。媒体にはあるのですが。今日は体調を崩し、帰ってきたのですが、母と妹でなにも平日にまでいかけなくともいいのにとこっちは仕事の日なのにと怒りまくり、一日腹を立てていたので五代目のPCをアマゾンで買いました。中古ですが。それでも収まらず、また壊れてしまったタブレット用のキーボードと、今日来るPC用のマウスを用意。明日はエアコン見積もり、髪の毛も午後に切りに行きます。まだ腹を立てているので、明日起きてどうなるか。明日は公休ですが、それでも収まらない。まだイライラ。不公平感です。明日、阪神対外試合が〜〜〜。録画するーってできないかも。わ〜ん。泣きながらあとがき終わります。

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