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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(110)

前話

 翌朝、村長とディルクさんに見守られて私たちは港町に向かった。他の村の人たちは窓から見ていたらしい。恐れ多いと隠れてしまった。せっかく最後に会えるチャンスだったのに。
「それは俺も残念だったな」
 運転しながらクルトが言う。
「兄上はもう王様で姉上も王妃様なんだ。そうそう前に出られないよ」
 ヴィルヘルムが擁護する。
「そんなものなの?」
「うん。そんなものなの それより、姉上、ここの風景を楽しんで。帝都と離れているここらは緑豊かなんだ」
 確かに森の間の道を通っていることがおおい。青々とした緑が眩しい。
「まぁ。あそこに花が。きれいね」
「ヤマザクラ、という花だそうです。ヴィーが前もって教えてくれました」
 フリーデが嬉しそうに言う。もう、この二人は安心ね。
「そうとも言えないよ。奥さん。長い春なんだ。倦怠期もやってくるよ」
「そうなの? そうは見えないけれど」
「何、ツーカーで僕たちの事話してるの。仲間に入れて」
 ヴィルヘルムが割り込んでくる。
「そうは言っても、本人交えて話す内容じゃないわ。年の差婚カップルのこの先を見てるだけなんだから」
「年の差婚カップルって……」
 ヴィルヘルムが絶句する。
「おや。自分たちはカップルじゃないと思っていたのかい? 仮にも婚約者同士なのに」
「そういえば、そうでしたね。いつも一緒にいられるから家族みたいになってました」
「フリーデ。家族は先に行きすぎよ」
 私が言って、ヴィルヘルムはよりショックを受けている。この二人にラブシーン展開って当分さきだものね。確かに、家族みたいなものにもなるわ。
「姉上! フリーデの隣の席、貸してください! こうなれば、思いっきり……」
「思いっきり……、なんだって? 乙女の清らかさを損なうことは兄が許さないよ」
 クルトの言葉にまたガーンと落ち込む、ヴィルヘルム。
「ちゅーはほっぺだけにしておきなさい。それ以上は兄も姉もダメ出し」
「そんな……。恋人じゃないじゃないですか」
「って。ヴィー? もしかして……」
 まさかやってるんじゃないでしょうね。私の鬼気迫る声にヴィルヘルムが慌てて道案内のディスプレイを落とす。
「こら。それ。相当高いんだぞ。壊す気か」
「兄上~。助けてください~」
「ほう。すでにやらかしてるのか」
 兄のクルトも鬼気迫る声になる。
「あ、あ。クルト様、エミーリエ様、何もございませんから安心してください。ヴィーは優しく紳士です。危ない真似はしません。何よりも私を守ってくれるんです。自分の気持ちからも」
 少し寂し気なフリーデの声に、違和感を覚える。やっぱりフリーデも恋する乙女なのね。キスの一つや二つは期待してる、てとこね。
「旦那様、たまに唇に軽いちゅーならいいんじゃないの? フリーデも恋する乙女よ。一日に朝と晩だけ許してあげたら?」
「それが、思春期だと止まらないの。突っ走るからダメ」
「厳しいわねー。お兄様は。あと二年ほど待つのね」
「二年……」
 フリーデとヴィルヘルムが同時にがっかりとした声で言う。フリーデも欲求不満なのかしら。
「それまではおててつないで散歩~♪ さぁ、問答をしてるうちに港町についたよ。一泊してく? 魚がおいしいよ。生でも食べられるし」
「魚を生で?!」
 私が仰天して言うと復讐なのか、ヴィルヘルムが振り向く。
「姉上にはいろいろな経験をしてもらわないとね。シラウオの踊り食いもあるよ」
「踊り食い?」
「口の中に生の稚魚を放り込むんだよ。あれはやめておいた方がいい。びっくりして子供が生まれる」
「く、だ、旦那様?」
 子供が生まれるって……。なんなの。その料理は。
「こりゃ、ヴィーが一計を講じる前に船に乗るか。姉上たちに言ってくる」
 車を止めると、先に駐車場に止まっていたカロリーネお姉様のところにクルトが行く。目の前にはどでかい白い物体があった。
「あれに乗って海峡を渡ればすぐルフト国だよ。姉上」
 さっきのショックはどこへやら。親切にヴィルヘルムが教えてくれる。
「ヴィー。意地悪したかったんじゃないの?」
「したかったけれど、実際年の差は埋められないし、また姉上と兄上みたいに手をつないで眠れればそれでいいよ」
「ヴィルヘルム様……。ありがとうございます。私が年下だったら……」
「だったら、姉上を守れないじゃないか。僕とフリーデはこれから兄上と姉上を支えていくんだよ。そのために出会ったんだ。もうフリーデを離すつもりはないし、十六歳にでもなれば正式に婚約するよ」
「まぁ!」
 私とフリーデは顔を見合わせる。ヴィルヘルムは先の見えない将来を見ているのではなかった。先の見えるところから考えていた。これなら安心ね。
「どうだかね」
「クルト!」
「旦那様」
「はい。旦那様」
「姉上も宿泊するより一気に東から離れたいみたいだからこのままあの船に乗るよ」
「じゃぁ、この車はどうするの?」
「これごと乗るんだよ」
「車ごと?!」
 まだまだ私の知らない世界が満ちているようだった。


あとがき
またも週末の眠りに入ってしまってます。今日はこれ以上の更新はできないかも。眠くて眠くて。一日寝てました。最低限のことは下のですが。これも、もうすぐ終わりですし。訳ありと言葉が本と違います。でもクルトの甘やかしが訳ありにも。影響しあってるんですねー。ヴィーには厳しいけれど。ヴィーも大変だ。年の差婚。いつかデートを書きたいぞ。といところでここまで読んでくださってありがとうございました。

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