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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(31)

前話

「イーロ。果物を持ってきたわ。一緒に食べてくれる?」
「妃殿下! このようなところにでてお体は!」
「専属のお医者様が太陽の光をもっと浴びる方がいい、ですって。少し、また菜園の亊を教えてくれないかしら?」
「それは簡単ですけれど、本当にお体は・・・」
「この通り、ピンピンしてるわよ。ほんとどうやってウィルスは入ってくるのかしら。この宮に出入りする人間を調べて厳選しないといけないわね」
 明るく言うとウルガーが肩を横に抱き寄せる。
「俺も、その事が気になっていたんだ。こんなに宮の人間は少ないのに」
「ウルガー、外に出ろっ、て言ったのあなたよ。菜園の手伝いさせてくれないの?」
「俺は果物を一緒に食べようって言ったの。確に、未知の病がどうやってやってくるか不思議なんだ」
「インフルエンザは人から人へうつるわ。起点の人間がいないと話にならないわね。それにインフルってどうしてそんな病があの本に? この世界に来た新しい物語師がいるのかしら」
「まぁ。流行らないといいんだ。最小限の犠牲で抑えるのが我々の仕事だからな。さぁ。ブドウを頂戴。ちゃんと確保してくれたんだよね。しっかりと」
「知ってたの」
「もちろん。だから頭にお花が咲き乱れているよ」
「もう。ウルガーったら」
 いつの間にかいわゆる長い春の倦怠期を通り過ごしたみたい。今まで以上にウルガーは私は離したがらなくなった。
「ウルガーの独り占めしたい気持ちはわかるけれど、お友達は作らせてよ」
「友達なんてフローラのように女官から親しくなる場合もあるよ。君をキンモクセイの宮に閉じ込めすぎたんだ」
「その割には危険な事件に巻き込まれるんだけど。閉じ込められたなんてまったくのでたらめね。楽しく過ごさせてもらってるわよ」
「それ、嫌味?」
「ううん。単なる感想。年上の女官の方が仲良くなるのよ。経験豊富だから、学ばせてもらっているわ」
 そう言うとイーロが突っ込む。
「姫。その辺にしておいた方が・・・」
「え?」
「知らなくていいこと。さぁ、ブドウを頂戴」
 ウルガーはイーロと男同士の絆を作ってブドウを要求する。
「どうしようかなー」
「ゼルマー」
「はい。ブドウ。食べ過ぎないでよ。ブドウでぶくぶくサイズが変わる夫は嫌よ」
「わかった。半分だけにする」
 そのやりとりを見ていたイーロが爆笑する。
「あの、王太子様が、ここまで、やり込められるとは。おなからよじれるほどだ」
「馬鹿笑いしなくていいでしょう? 何時もの会話と変わらないわ」
「どうしたのです? イーロが笑うなどめったにないのに」
 その言葉にお母様とイーロを交互に私は見る。
「無事、果物のお使いが出来ているか見に来たんですよ。私もここで桃をいただこうかしら」
「どうぞ。日陰はまだ涼しいですわ」
 私達はちょっとした休憩場所で久しぶりに外の空気を味わっていた。
「でも、貴族ってそんなものなのでしょう? お母様」
「そうね。でも、ゼルマは婚礼を無事挙げる事ができれば、街の学校へ行きましょう」
 お母様の言葉に一同、あっけにとられる。だって、国中に顔を見られた王太子妃が街中の学校なんて。しかも、新妻よ。
「母上、その前に俺たちはしなければならないことがあるんです」
「ええ。学校に行かなくても女官達が気を遣って友達になってくれていますわ。今更、行っても年上の新妻ですから、周りの子には刺激が強いでしょう」
「それもそうね・・・」
 お母様が思案する。そして、思い出したかのように聞く。
「しなくてはならないこと、とはなんですか?」
「レテ姫を現と夢の番人から解放することです。そして闇の物語師達を止めないと、野望の言いなりになります。私はそちらの方が気になります。レテ姫はおそらく、最大限の力で私を護ってくれています。おそらく、自殺の記述ができないのもレテ姫が再考するように止めてくれたのです。そして、陰謀の事も知らせてくれたのもレテ姫の力です。大神官様様の本に記述できるとすればレテ姫が力を添えたからでしょう」
「レテ姫の事ばかりに捕らわれてばかりいませんか? 大事なのはあなた。ゼルマがこれから平和に生きていくことですよ?」
「そのために行かないといけないのです。闇の物語師を壊滅させ、新たな物語師の系譜をつなぐことが私とウルガーの使命なんです」
 それだけは譲れなかった。あの幼い日のままで時間が止まってしまったレテ姫。父のとの約束を守り、ひたすら癒やされることなく、孤独な時間を送る、あまりにも幼い姫。護りたかった。ウルガーに大切な日々をくれ、私をまた送り出してくれた姫。私にはレテ姫への愛があった。
「あなた達は、本当に似てるのね。同じ思いを持っている」
 じっと、お母様は私の目を見つめる。私は頷く。
「まずはこのインフルの企みを回避することが第一ですね」
「インフルとはインフルエンザの亊?」
「はい。省略してそう言います。とにかくあの文章が消えないことには。それにインフルはワクチンが有効なんです。ウルガーにがんばってもらわないと」
「ウルガーが?」
「はい。飲み薬はもう完成していると聞きました。でも量産できるかはわかりません。事前に予防できれば、薬が少なくてもすみます。特に小さな子がかかるんです。いろんなタイプがあって、その年の流行するものを予想して作るのです。でも、一度は止めてもらわないといつまで経っても婚礼の日はきませんわ」
「ゼルマ。そう言って最初の患者になるつもり?」
 じと、とウルガーが見る。
「まさか。あんな頭痛のする風邪は御免被りたいわ」
「そういえば、インフルエンザの症状を聞いていませんでしたね。どんな病なのですか?」
「母上。母上は医者ではありませんよ」
 さすが、ウルガーの母親。医療には興味があるみたい。
「わかってますが、聞いていれば覚悟ができるでしょう」
 お母様の言葉にウルガーは頭を抱える。
「この親にしてこの子あり」
 イーロと私のいじりが一致した。小さな笑いが起きた、昼下がりだった
しばらく、私達はただなんでもなくしょうもない事をつらつらしゃべりながら果物を食べていた。
 そして、はたと気づく。持ち込むウィルスは別の形で国のどこかに持ち込まれたかもしれない、と。ウルガーと私は顔を見合わせると脱兎の如く大神官様の元へ走った。お母様とイーロも後に続く。
「大神官様!」
「どうなさった。王太子殿下も妃殿下も」
「あの本見せてください!」
「はて。あの本? ああ、ゼルマの病の事を書かれていた本じゃな?」
「はい!」
 口をそろえて頷く。そこには恐ろしい別のインフルエンザの流行がかかれていたのだった。


あとがき
今日は無印に行こうとしていたのですが、雨のため寝ていたらどんどん寝る。血糖値測るアレクサの声も聴かず九時ごろまで夜も寝てました。更新のみでお許しください。ただ、思いついたこともあるのでまた執筆は少ししてから寝ようと思います。しかし。小型になれると大型のキーボードが慣れない。でも放電してたみたいで充電のためにつないでおかないと。明日こそルーローハンの袋ゲットだわ。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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