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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(103)

前話

 それから、また街をでて、また次の街へと行く。東の大陸は広くてなかなかたどり着かない。それでもクルトは旅を楽しんでいるようで、頼もしかった。土地のこともよく知っていて案内も上手。改めて夫のすごさに惚れ直したのだった。そして、ついにヴィルヘルムが口を開いた。
「次の村が最果ての地に最も近い村だよ。宿があるかどうか……」
 最果ての地。あの原始の海と言われる神とつながる場所を私たちはいつしか「最果ての地」と呼ぶようになっていた。
「あ。事前に姉上が村の建物を借りたと言っていたよ。そつのない姉上らしい。さすがシュテファンと結ばれるだけあるね」
「そうなの」
 改めて大人の力の大きさにヴィルヘルムは驚いていたようだった。
「姉上は教皇にかわいがられていたからね。それぐらいはできるんだよ。もうこの地に来ることはないだろうけど。そういえば、墓参りもしないとね。いい報告ができる。ね。エミーリエ」
「そうね。それもあったわね。この村に建物が残されているのね」
「その建物を借りたのよ」
 開いた車の窓からカロリーネお姉様が顔を突っ込んでくる。
「お姉様! 本当に?」
「もともと墓参りが目的でしょう。そこの建物にお墓があるのよ。文化財となってるって聞いたわ」
「文……化財?」
「ああ。エミーリエ。後で説明するから建物のカギを借りに行こう。村長がカギを持っているらしいよ。一緒に行こう」
 クルトに言われて車を降りる。
「まぁ。私が? お姉様じゃなくて?」
「肉親でしょ? 一番適してるわよ。さぁ。行った行った」
 カロリーネお姉様が背中を叩く。
「お姉様。本当に元気になられたのね。元気はつらつって感じ」
「そうだね」
 そう言って私とクルトは自然と手をつないでいく。クルトもおじい様に会って同じように肉親として思ってくれているみたい。
「俺はあのおじい様にとても親近感を持ったんだよ。エミーリエを見る視線が優しくてヴィルヘルムをすぐに思い出した。ヴィーも君に心を砕いてくれている。フリーデとは別に、ね」
「いつ生まれてもヴィルヘルムの優しさはとても人を癒すのね。いい大人になってくれるといいけれど」
「兄と姉がこんなに出来がいいんだ。間違いなく出来のいい弟になるよ」
「ま。自分をほめてまで言う?」
「優秀な王子なんでね」
「自信過剰」
「そうでないと世界で唯一の姫の旦那なんてやれないよ。はったりと度胸が持ち味さ」
「頼もしいこと」
 話しているうちに村長の家らしき建物にたどり着いた。中に人がいるのか確かめる。すぐに老人が出てきた。古い鍵を持っている。
「よう。いらっしゃった。姫様。王子様。この時まで執事の我が一族はこの村で長い間お待ち申しておりました。すぐに開錠しますゆえ。少々お待ちを」
 急いでいくおじいさんを私とクルトで引き止める。
「転んでは危ないですわ。ゆっくり参りましょう」
 そう言って二人で村長の腕を持つ。
「おお。お優しいことで。西は興隆しますな。東はどうも……」
「自分の国ですから悪く言わない方がいいですわ。きっと変わりますから」
「そうですかねぇ。ああ、着きました。この建物です。ご自由にお使いください。わしは執事としては年を取りすぎましたゆえ、息子が来て説明しますので」
「執事なんて。私たちだけでも十分すごせますわ。ねぇ。クルト」
「ああ。野営の可能性も考えていたから持ち物はあるよ」
「いえ。これが最後の務め、と聞いております。一度、役目から解かれましたが、最後の姫様が来られるまでと、再びこの地で見守ってきました。その務めを果たさせてください」
「そういわれるなら……。お姉様たちも呼ばないといけないし、一緒に村に戻りましょう。カギはクルトが持っていて」
「わかった。じゃ。村長さん、一緒に戻ろうか」
「お優しい王子様だ。いや。もう王様ですな。お会いできて光栄です。さぁ、では他の方々もお迎えに行きましょうか」
「村長さんは家までで大丈夫よ。車を入れていいならそこまでいくから」
「姫様もこの老体を案じてくださるのか。名誉なことです。言い伝えがありました。最後の眠り姫エミーリエ様が目覚められると平和がやってくる、と。そしてわが一族はそれまで待つ、と決めたのです。中には肖像画もありますからよくご覧になってください」
「ありがとう。じゃ、またお話をききにくるわ。執事なら最果ての地のことも知ってるでしょう?」
「ええ。一族に連綿と伝えられた秘術でございます。次元……というものがあるそうです」
「詳しい事はまた明日にでも。今日はお姉様もゆっくりしないと。妊娠中なんです」
「そうでしたか。それならつわりによく効く飲み物も持参しましょう。それでは」
 そう言って村長は自分の家に戻っていった。私たちもお姉様たちを迎えに元来た道を戻り始めたのだった。


あとがき
110では終われません。終章に入ってはいるのですが、まだまだ。これでもラスボス編2000字超えたんですよ。他の話ももれなく。千字連載どころか二千字連載。どうもあっさりしすぎていて気に入らないんですよね。でも今日の昼から夜はほぼ寝てしまいました。疲れがたまっているようで。朝活も半分はできたんですけどね。午後からは完全に睡眠負債回収。よく寝ました。
 明日は夕食を作らないといけないのでおナスを買ってきます。ついでに小豆の入った饅頭も。小豆にはまってます。どうしてもおナスが食べたい。時期的には外れてるんで高いんですけどね。シャインマスカットも気になる。でもこれは夏にして、とりあえずおナスと饅頭。買い物に行ってまた執筆に走ります。漢検もします。今日は休養日ということで。土曜日シリーズダメでしたね。修業しなおします、というか改稿だ。明日は忙しい。

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