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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(111)

前話

 驚きに満ちた航路の旅はあっという間に終わった。ルフト国に入って、お姉様はほっとなさっていた。
 私はというと、つわりの上にあのふわふわしたというかゆらゆらとした乗り心地に倒れていた。船酔い、というそう。すぐにルフト国の重役が出迎えてくれて、あっという間に大きな白いでーんとそびえたつ建物の前にいた。
「く、旦那様。これからどうなるの?」
「言ったろう。妊娠が発覚してすぐに検査もなにもしてないからこの病院で検査をするんだよ」
「検査って?」
「赤ちゃんが正常に成長しているか見るだけですから、大丈夫ですよ。エミーリエ様」
 クルトの代わりにフリーデが答えてくれる。
「ここで一日ほど入院してゆっくりすればいいよ」
「入院?」
 また聞きなれない言葉を聞いてフリーデを見る。
「病院に宿泊することです。産婦人科は男性はあまり出入りしませんから、私がエミーリエ様とカロリーネ様のお世話をさせていただきます」
「え? クルトいないの?」
 急に心細くなって泣きそうになる。
「ごめん。エミーリエ。俺は俺で国王へのあいさつと政治の話があるんだ。ヴィーも必要だし、シュテファンも事務方としていてもらわないと困るんだ」
「そんな……」
 久しぶりの一人きりに泣きそうになる。
「大丈夫よ。エミーリエ。一緒の部屋にしてもらうから。二人で役に立たない男どもの悪口を言いあいましょ。ほんとシュテファンも仕事ばかりなんだから」
 お姉様も不満のご様子。お兄様は本当なお姉様についていたいけれど、という顔をなさっていた。
「姉上ごめん。事務方がいないと同盟を組むのは難しいんだ。いろんな階級での話し合いが必要でね。事務方として今いるのはシュテファンしかいないから」
 そう。連れてきた、大仰な役人たちは帝都を出るときに大方国に戻してしまい、家族だけで旅をしていたのだった。
「私がついておりますから。安心なさってください」
 にっこり笑ったフリーデが頼もしく思えてつい抱き着く。文句を言いたげなクルトとヴィルヘルムだったけれど、そこはそちらがだめなんだから、と一睨みするとすごすごとお兄様の影に隠れてしまった。
「クルト様? ヴィルヘルム様?」
「いや。なんでもないんだけど、この場はフリーデに任せよう。さ。行くよ」
 いつかの悪さをしたときに逃げたかのようにシュテファンお兄様を引っ張ってぴゅーっと三人はいなくなった。
「もう、不誠実ね」
 私が文句を言うと看護師さんがでてきた。車いすがある。そんなの使わなくても歩けるのに。どうしても車いすでないとだめらしく、しおらしい新妻を演じて車いすで病室へ入ったのだった。
 部屋の入り口には「特別室」とあった。そんなお金使わなくていいのに。私が国家予算をぶつぶつ言っているとお姉様が言う。
「うちのお金じゃないから。検査はうちのお金だけど。安心なさい。おもてなし、ってやつだから」
「そうなのですか?」
「エミーリエは執務をこなしていたけれど、もう少し政治の勉強が必要ね。その前にママ研修があるけれど」
「う」
 そう。執務と言っても大したことはいていない。税金に詳しくなっただけだ。あとはひたすら返信を書いていただけ。
 こうして、姉妹で入院というものをしたのだけど、そこは驚きでいっぱいだった。まずは、新生児室。ずらりと赤ちゃんが並んでいる。見分けがつかない。なにやら名前が書いてあるそうだけど、みんな似ている。それでも壮観な眺めだった。部屋に戻れば、かわいらしいぬいぐるみや絵本があり、お腹の赤ちゃんにいいからと音楽が流された。それで眠くなって起きたら夕食。なんともう食べられないと思っていた「天使の落とし物」がデザートに出た。二人で独占して食べることができて少々溜飲が下がったのだった。次の日に検査をするということでそこにはパパがいないとだめらしく、クルトもお兄様も急遽戻ってくることとなりどういう意地悪をしようかとお姉様と画策したのだった。人生初の入院はなにもかもが初体験で魔法のような世界。
 ふん、都合のいい顔して戻ってきても笑顔になるもんですか。いじけながらデザートをつついていた私だった。


あとがき
すみませんー。更新逃げですー。

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