私が思う転売

今よく言う「転売」というものに出会ったのは、私がまだジャニオタをしていた頃。ジャニーズの興行は「日本在住者」のみが入会できるファンクラブでしかチケット取れないため、まだ海外に住んでいた私や他の海外ジャニオタにとって、チケットはヤフオクとチケット流通センターでしか買えないものだった。当時は「転売」についてどうのこうの言う人がほとんどいなく、何なら竹下通りに「娯楽道」という実店舗があり、ジャニーズや他の興行のチケットを高値で販売していた。「チケット転売」は実店舗の事業内容として成立できるぐらい普遍的だった。

世界で見ても、「チケット転売」を問題視する場所はほとんどない。演劇の本場ブロードウェイでは、ticketmasterというプレイガイドが一番多く使われているが、この公式プレイガイドから購入したチケットに自分の好きな値段を付けてticketmasterでリセールすることが可能だ。設定できる値段は出品するユーザーが勝手に決めていいんだが、「券面金額より低い値段にしてはいけない」というルールがある。これは、主催者側が各席に対し設定した定価をminimum resale price(最低リセール価格)としても設定しているからだ。つまり、「リセールするなら定価以上でやってくれ」とのこと。

ticketmasterのリセールルール

そもそも高額転売はなぜ発生するのか?根本的な原因は、需要と供給の均衡が取れていないこと。
需要があれば何物でも高額転売される。シュプリームのコラボ商品、PS5から、一番くじやウエハースのカードまで。なぜチケット転売だけこんなに紛争が起こるんだろう。

需要供給モデル

経済学に一度でも触れたら必ず見たことある需要供給モデルだ。値段が上がれば需要は下がる。とある作品のチケット倍率が高すぎて全く取れない、転売サイトで最安値でも定価の二倍やそれ以上で取引されている場合、それは定価の設定が「均衡価格」からかけ離れていることを示す。
この定価と「均衡価格」の差分は高額転売が起きる原因であり、同時に「主催者が放棄した売上」でもある。
昨今の2.5舞台界隈では、倍率が高すぎて三階席でも定価以上で転売される事象より、前方列だけ高値で取引されている場合が多いのだが、転売反対派は「高額転売を買ったお金は転売ヤーだけが貰って公式に入らない」という考えが多いようだ。しかし定価と転売価格の差分は定価と前方列の「均衡価格」の差分でもあり、いわゆる「主催者が放棄した売上」である。
前方エリアを「均衡価格」に近づけるように値段設定を見直す選択肢もあったが、それを放棄したわけだから。
チケットの高額転売を根絶するには、定価を常に「均衡価格」近くに設定する必要がある、多くの場合は席種を細かく刻んでそれぞれ適切なプライシングをすることになるでしょう。しかしそうすると各作品ごとに大量なリサーチやシミュレーションが必要になる。主催者もあくまで経済学者ではないので、「最大の利益を出すためのプライシング」でなく、「損失が出ないようなプライシング」方式を取ったのも理解できる。ただそれは同時に高額転売が介入する余地を与えてしまう。
極端に言うと、最前列の定価を10万円に設定すれば、高額転売どころかほとんどの作品の最前列は売り切れないでしょう。(ジャニーズは売り切れるけど)

とは言え、たとえ本当に大人気で入場するチケットの確保すら難しい作品でも演劇である以上、「均衡価格」に定価を設定しちょうどいい数の観客を集まるより、入場できる人数は限られていてもより多くの観客に知ってもらうことも重要だろう。だから定価を「均衡価格」より遥か低めに設定し、多くの関心を寄せてもらえるようにする。そうすると、「均衡価格」より低めの金額なら観てみたい観客も運が良ければ観劇できる。同時に、その作品に対し「均衡価格」もしくはそれ以上の価値を感じる運の悪い人は高額転売に手を出すのだ。

アメリカの友人に日本の舞台チケット事情を話したら、「共産主義なの?」とつっこまれたことがある。確かに全席同一料金は共産主義っぽいし、席種を申し訳程度に分けても一階席全部S席という区分は実質意味なし。今回話題のランダム本人確認は「高額転売対策」として行われたが、ランダム(というか特定の数席~数十席)で確認するため「高額転売を買った人」を完全に排除することもできなければ、「高額」でなく定価や定価以下で譲り受けた人も排除されてしまう無意味な本人確認だった。ブロードウェイやウェストエンドのように公演日や座席によって定価が変わるようなダイナミックプライシングじゃなくても(たとえばウェストエンドのレミゼは6,000円台から34,000円台まで10種類以上の席種がある)、無意味な本人確認を行いオペレーションコストを増やすより、もっと席種分けや値段設定に向き合ったらどうでしょう。

雑談
今回のランダム本人確認事件では、家族間友人間の定価譲渡もしくは0円譲渡も禁止されている。
それってつまり、2月に5月に採れるじゃがいもを予約したけど、じゃがいも食べたくなくなったから家族にじゃがいもをおすそ分け、という行為が禁止されている、と私は思う。

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