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知りたい! に一歩踏み出す - 好奇心を持って進み続ける、マオリへの道|ALiveRallyインタビュー#16

いつも、ALiveRallyの記事を読んでくださりありがとうございます! 今回は、国際教養大学15期生の浜山莉佳(はまやま りか)さんにインタビューしました。高校でニュージーランドに留学して以降、胸の内に秘めていた「マオリ」への興味。 それがイギリス・ロンドンという意外な地で実現し、新たな出会いや学びに繋がっていくまでのお話を伺いました。先住民族マイノリティに関心がある方だけでなく、興味を持っていることに 一歩踏み出す力 がほしい全ての方々に読んでいただけると嬉しいです🌱


【基本情報】
名前:浜山莉佳(はまやま・りか)さん
AIU入学時期:15期春入学(2018年春)
活動内容:マオリ留学(海外インターンシップ、伝統芸能の練習)
活動場所:イギリス
活動時期:2022年4月〜2022年7月


留学中、何してたの??

ーー莉佳さんはロンドンでニュージーランドの先住民族である「マオリ」について学んだとのことですが、具体的にはどんな活動をしていたんですか?

A. 主に「ハカワークス」というロンドンを拠点に活動しているマオリの企業でインターンシップをしていました。小さい家族経営の会社なのですが、ワークショップやパフォーマンスの撮影、SNSへの投稿のような広報を担当しつつ、クライアントさんとのやり取りもたまにさせてもらっていました。
あとはイギリス在住のマオリなどのニュージーランド人が集まる「ンガティ・ラナナ」というコミュニティで、ハカを一緒に練習したり、ロンドン市内のイベントでハカを発表していました。

ハカワークスの仲間と

※マオリ:イギリスが入植する前からニュージーランドに住んでいた先住民族。
※ハカ:ニュージーランドの伝統舞踊。もともとは部族の結束や戦闘力を示すものとして儀式や戦闘の前に披露されていた。

マオリに興味を持ったきっかけ

ーー高校生の時からハカを踊っていたとお聞きしました。そもそもなぜ、マオリに興味を持ったんでしょうか?

A. 実は、高校時代にニュージーランドに留学していた際に、ハカを披露する機会があったんです。そのとき踊った曲がなぜかずっと頭に残っていて、どうしてもまたハカを踊ってみたかったんですよね。
あと、地元北海道のアイヌの人たちと比べて、ニュージーランドで出会ったマオリの人たちの方が、”マオリであること”を誇らしく言っているのを見て、「なんでなんだろう?」って疑問に思ったこともきっかけの一つです。他にも、知名度の違いなど、いろいろな差ができている理由を知りたかったんです。

ーー莉佳さん自身のルーツとも繋がっていたんですね。そこからなぜコロナの時期に、そしてなぜニュージーランドではなく、ロンドンに学びに行こうと思ったのでしょうか?

A. 大学生活で何かを「やりきった感」がなくて、私が本当にしたいことを考えてみたら、やっぱりマオリに関連することなんじゃないかなって思ったんですよね。ニュージーランドはコロナ対策で国自体が閉まっていたので断念、どうにかマオリのことをニュージーランド以外でも学べないか...と探していた時にハカワークスを見つけたので、そこに行こうと決めました。

ーーなるほど。そこでマオリへの興味が再燃したんですね!

ロンドンでのマオリ留学

ーーニュージーランドではなくロンドンへ行ってみてよかったこと、逆にもの足りないと思ったことはありましたか?

A. よかったことは、日常的にマオリ語を話せる人が結構いて、マオリ語をかなり勉強できたことですかね。AIU生がルー大柴さん(英語と日本語を混ぜて話す)になるみたいに、マオリ語と英語を混ぜて話す人もたくさんいるんです(笑)
一方で、完全なマオリの体験ができたかって言うと、やっぱりそうでもない部分も大きくて。例えばマオリには日本でいう神社のような「マラエ」っていう建物があって、そこでマオリの伝統的な挨拶とか踊りとかを勉強するんですけど、それがロンドンの近くにはありませんでした。

ーーそうなんですね。ロンドンに行ったからこそ分かったこともありますか。

A. そうですね、例えば、私にとってニュージーランドは完璧な先住民族政策やマオリの文化を学べる憧れの場所のように見えていたんです。でもロンドンで出会ったニュージーランド人の中には、ニュージーランドのことをかなり批判的に見ている人もいて、マオリに対する差別の現状を話してくれる人もいました。 その点では、ニュージーランドに対しての自分の考えを改めるきっかけが得られたと思います

ーーなるほど。マオリに対する考えは変化しましたか?

A. そうですね、思い入れがより強くなったと思います。実はマオリの文化と日本の価値観には共通する部分がたくさんあって、感謝する文化、年上や先祖を大事にする文化など日本での経験と重なることがたくさんあったんです。そこからハカを踊ったり、「ポイ」を使った踊りを練習したりと伝統芸能を実際に経験するうちに、マオリの文化がどんどん体に染みついてきて、自分の一部になっていった感じがしました
※ポイ:戦いに備えて鍛えたり、歌う時にリズムを取ったりするために使われるボールのようなもの。

ーー3ヶ月「マオリ漬け」の日々!そりゃ思い入れも強まりますよね...

ポイを使って踊る莉佳さん

ーー留学中さまざまな経験をされたと思いますが、その中でも特に印象に残っていることはありますか?

A. ンガティ・ラナナのメンバーとしてエリザベス(元)女王のお祝いイベントに出て、ハカを踊った時のことですかね。そのイベントはイギリスの旧植民地である国の文化を披露する場だったのですが、長い期間ハカを練習してきた人であれば、国籍問わず出演できたんです。

ーーええ!ハカのような伝統民族文化を実際にパフォーマンスする場があるんですね!なぜその時のことが印象に残っているんでしょうか?

A. 実際にイベントで踊った時に、私だけアジア人だったことからハカに興味を持ってくれた人がいて...。私自身が、誰かに対してマオリ文化を印象に残すきっかけになれるのかもって思えた出来事でした

ーーなるほど!莉佳さんがそのグループの中のマイノリティというか、ある意味で目立つ存在になることがポイントになるんですかね?

A. そうですね。例えば、私が踊ってるハカを見て「この踊りなんて言うんだろう?」「1人だけ見た目が違う人が踊ってるのは何でなのかな?」と疑問を持つことが、マオリを知るきっかけになれればいいなっていう風には思います。

ーー面白い視点ですね。今まで接点がなかった層に届けたいという視点でみると、最初にお話していたアイヌとの繋がりも気になります!

ロンドンでのカパハカ

マイノリティとしての暮らし

ーー日本人としてロンドンに住んで、その中でさらにニュージーランド人のコミュニティに入るとなると疎外感を感じることもありましたか?

A. そうですね。やっぱり、日本人が留学先で日本人と仲良くなりやすいように、マオリの人たちはマオリの人同士で仲良くなるんですよね。その点、私は日本人で、留学以外はマオリとの関連性が全くなかったので、コミュニケーションの際に壁を感じたりとか、「この人は日本人で、別にマオリのことを深く知っているわけじゃないから」という雰囲気が伝わってきてしまうことはありました。

ーーリアルですね、別にその人たちも悪気がある訳ではないと思うのですが...。 その壁はどうやって乗り越えたんですか?

A. 期間が限られていたのもあるし「高いお金をかけてマオリのことを勉強しに行くんだから、学べる限り多くを学んで帰ってこよう」っていう意欲が高かったんです。みんなが練習しているハカや歌を必死に覚えて練習についていったことが、壁を乗り越えて馴染んでいくための必要条件だったのかもしれません。

3ヶ月間「マオリ漬け」の日々を送った莉佳さん。ここまでは、留学のきっかけとなったマオリに加えて、もう一つのキーワードである「マイノリティ」に繋がるお話も伺ってきました。

ここからの後半パートでは、伝統文化に対する向き合い方やりたいことにひたむきな姿勢 など、莉佳さんが留学を通して得た学びにフォーカスしていきます!

”ルーツのない”文化を学ぶこと

ーー先ほどエリザベス(元)女王のお祝いイベントでハカを踊ったという話がありましたが、マオリ文化にルーツを持たない人でも、マオリの人たちと一緒にハカを踊ってもいいことになっているんですか?

A. それについては、ハカワークスCEOのカールと話をしたことがあります。
カールが言うには、ハカをなぜ踊るのか、何を表現しているのかなど、マオリの文化のアクションや言葉に理解があって、かつそれをマオリの人から教わるという手順をとっていれば問題ないそうです。
例えば、彼のパートナーであるメイリーは、マオリの文化が大好きでマオリ語も話せて、ワークショップでハカを教えていたりもするんだけど、実際はアジア人でありパケハ(白人系ニュージーランド人)なんです。それでもメイリーが教えられるのは、マオリの文化をマオリの人から学び、理解して、今も勉強し続けているから。もちろん「文化の盗用」の問題に関しての批判があることも分かりつつ、何よりマオリのためになりたい、マオリ文化の継承に貢献したい!という強い想いでやっているそうです。

ーーなるほど。莉佳さんのルーツと直接的には結びつきのないマオリやアイヌ文化に向き合う姿勢は、メイリーさんをはじめマオリに真摯に向き合ってる人たちと過ごす中で変わりましたか?

A. そうですね、初めは私がハカを踊っていいのか、マオリのものに触れていいのか、ポウナムなどのマオリを象徴するネックレスなど身につけていいのかなどすごく心配していたんです。でも、聞いてみたら全然ウェルカムだよって言ってもらえて。とはいえ私はマオリのことに詳しいわけではないから、何でもとりあえず聞いてみて、教えてもらいながらやっていくことを徹底して、 少しでも自分がやっていることに対して自信を持てるようにしていました。

ーー謙虚な姿勢が大事なんですね。マオリに限らず、伝統文化や先住民族に興味を持って学びたい人は少なからずいるかなと思うのですが、そんな人たちが大切にしたほうがいいことって何かありますか?

A. いくつかあるのですが、「どうしてその文化や民族のことを知りたいのか」という芯を持つことが一番大切かも知れません。例えば、マオリの人たちからすると「なぜマオリじゃない人がマオリの文化に興味を持っているのか」がきっと気になるじゃないですか。だからこそ、気になったきっかけや背景を自分の中で整理できてることはすごく大事だと思います。

ーーなるほど。

A. あと、最初はどうしても学んだり体験したりしていること自体に満足しがちで、私にも「自分がハカを踊ってる!かっこいい!」みたいに思う時期があったんですよね。でもそうじゃなくて、文化の盗用の話にもあるように、先住民族文化をちゃんとリスペクトすることを忘れずにいてほしいな、と思います。

ーーそうですね。ファッションにしない、アクセサリー感覚で勉強しないこと、私も大事だと思います。

ンガティラナナの仲間とハンギ(イベント)にて

留学での学び・これから

ーー インタビュー前のアンケートにあった「心からやりたいと思えることに夢中になるのも悪くないかもしれない」というひと言がすごく印象に残っているのですが、その言葉の背景を知りたいです!

A. 私が働いていたハカワークスのカールとメイリーは元々、マオリから批判されたくないっていう思いからSNSの使用に消極的だったんですよね。でも、試しに動画を作ってみたら、私が撮影して編集した動画を見て、「もし莉佳が編集してくれるんだったら、もっとパフォーマンス動画作ろうよとか、ストーリー使ってみようよ」って言ってくれるようになったんです。

ーーえ、めっちゃすごい!(笑)

A. 動画編集は元々趣味として好きなことだったけど、それを経営者の人からスキルとして求められた初めての経験でした。それがきっかけでSNSの投稿をしたり、動画を投稿したりっていうことができたのがとても嬉しくて、今好きでやってること、やりたいと思えることをキャリアに入れるのも悪くないのかなと思ったんですよね。

ーーなるほど。莉佳さんが趣味でやっていたことがちゃんとスキルとして認められて、一つの会社に変化を与えられたっていうのは、本当にすごいことですね。この「心からやりたいと思えることを続けていく」ってことはマオリ関連の活動にも通ずることですか?

A. それでいくと、ハカがその一つになる気がします。ハカを踊るといつも鳥肌が立つのですが、そんな不思議な体験をしてしまったからこそ夢中になって練習を続けてこられたんだろうし、次のステップへの道が拓けていくのが見えたら、意外とハカは日本でもどこでも続けていけるのかなっていう風に思っています。実際、今回の留学の話を聞いた東京のマオリ団体の方からも、その団体にぜひ参加しないかって声をかけてもらえたんですよね!

ーー素敵ですね。日本でもハカを踊るという話が出ましたが、留学を終えて今やってみたいことはありますか?

A. 制作したドキュメンタリーを通してマオリのことをより多くの日本人に広めるという目標はあるものの、その先どうしていくかはまだ模索中です。例えば、母語である日本語と、マオリの企業で仕事をした経験や今までのAIUでの経験を含めた自分のバックグラウンドを活かしつつ、マオリ語やマオリの文化を発信するお手伝いをしたり、ハカを踊ることで伝統芸能を継承していったりできないかな、と考えています。

ーー面白そう!莉佳さんとマオリの繋がりはまだまだ続くんですね。

A. 今回ロンドンでできる限りのことは学んだのですが、まだまだマオリの文化や重要なコンセプトを深く理解できていない気がするので、これからも日本で引き続きハカを練習したり、マオリのことを勉強していきたいなと思います。

メッセージ

ーー先ほど、留学に限らず、「自分が外国人として扱われる環境に行ったことが自分に影響を与えた」と話していましたが、これから海外経験を積み重ねていく人に伝えたいことはありますか?

A. 「イエスマンであれ」ってことですかね。
その時期にその国に行く経験って、二度とないじゃないですか。例えば、2019年に行くのと、今行くのって、同じ場所でも経験は違うと思うんです。
私の場合、ハカワークスのカールからイベントに誘われたら、内容を知らなくてもとりあえず行くって答えるようにしてました。まあ1回だけイエスって何も考えずに言ってしまったことで失敗したことはあったんですけどね(笑)ちょっと無理してでも「この留学中でここにいる瞬間は今しかないから、とりあえずイエスって言ってみよう」「失敗してもいいからやってみよう」という行動を続けたからこそ、結果的に、自分のやりたいことにも繋がる体験ができた気がします。

ーー自分にちょっと負荷をかけてチャレンジすることを積み重ねていく、みたいな感じですかね。
最後に何か一つ、マオリの言葉や文化を教えてもらえると嬉しいです!

A. そうですね、ぜひ「マナアキタンガ(Mannakitanga)」というマオリの考え方を紹介したいです!(笑)
マオリの文化では、家族であってもお客さんであっても温かく迎え入れて大切にする、という考え方をマナアキタンガと言います。私が出会ったマオリの人たちはみんなそれを実践していて、だからこそ外部から来た私でも心からの歓迎を感じられたり、居場所を作ってもらったりできたのかなと思うんですよね。それに、そういうことをしてもらったから、今度は自分が家族、AIUコミュニティとか北海道に対して何かしらの形でマナアキタンガできたらいいなって考えられるようになりました。

ーーマオリコミュニティでマナアキタンガを受けとって、今度は莉佳さんから周りのコミュニティにマナアキタンガを伝播させていきたいということなんですね。素敵です!

最後に...莉佳さんの「イマ」をお届け!

ーー このインタビューを行ったのは昨年の夏でしたが、その後新たな動きはありましたか?

A. インタビュー後の2022年10月から2023年8月まで、Ngā Hau E Whaという東京のマオリグループで活動していました。新横浜で開催された「アイヌ感謝祭」というアイヌ文化の継承・発展を目的としたイベントにてカパ・ハカを披露したり、東京のニュージーランド大使館にて、マオリの新年を祝うマタリキというイベントにも参加しました。

アイヌ感謝祭にて

そして...!!!
23年9月よりニュージーランドのオークランドに引っ越し、現在はマオリ語を本格的に学んでいます。またカパ・ハカについても練習を再開していて、今は再来年に開催されるテ・マタティ二(Te Manatini)というカパ・ハカのオリンピックに何らかの形で関与できるよう模索中です👀

ーー ついにニュージーランドへと活動の場を移したんですね!やりたいことに向かって着実に進んでいる所、さすがです...!!これからの活動も楽しみにしています✨


【編集後記】
このインタビューを行ってから、実に一年以上の月日が経ってしまいました...(泣)
ようやく、よーうやくお届けできて嬉しい気持ちでいっぱいです!!

ただ今絶賛留学中の筆者ですが、改めて、莉佳さんの好奇心を持って進み続ける「イエスマン」な姿勢に刺激を受けています。
慣れ親しんだ環境から一歩外に出る時はいつだって、初めてふれる文化や価値観に戸惑ったり、自分を受け入れてもらえないんじゃないかと怖くなってしまったりしてしまうものですよね。そんな時こそ興味を武器に、そしてマナアキタンガしてもらった人たちを大切に、じっくりしっかり歩んでいけたらいいなぁ!

最後まで読んでくださりありがとうございました。
これから莉佳さんが伝播させていくマオリの魅力に、ぜひ一緒にワクワクしていきましょう✨

文責
Interviewer: Iori Maeda, Ayusa Haga
Writer: Iori Maeda
Thumbnail design: Iori Maeda

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