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弁護士会でコーチング研修をしましたー依頼者対応力をアップデートするためにすべきことー

皆さんこんにちは。ラッセルコーチングカレッジ代表の中原阿里です。

先日,兵庫県弁護士会阪神支部(私が所属している弁護士会です)で弁護士対象の研修を担当しました。その名も「コーチングを弁護士業に活かす!ー依頼者コミュニケーションをアップデートしようー」。本記事ではその講演の内容を振り返ります。

1 弁護士は強そう?


みなさんは弁護士というとどんなイメージでしょうか。

・気が強そう
・頭が固そう
・口が達者そう(ドラマのイメージかも。リーガルハイの古美門弁護士あたり)

といったイメージかもしれません。

実際,弁護士は他人様の紛争を法的な側面から判断したり,権利行使を肩代わり?(代理)する仕事ですから,一定の強さは大事です。

しかし,その内面に目を向けると,常に精神的にタフで,メンタルモリモリで業務に臨んでいるかという,決してそうではありません。実は,弁護士稼業には悩みが付きもの、中でも,依頼者対応に関する悩みは結構大きいものなのです。

2 弁護士はなかなかストレスフル

今年発行された「自由と正義 臨時増刊号」 (こちら,日弁連発行の弁護士向けに毎月必ず届く月刊誌)では,弁護士に対するアンケートの結果が詳細に掲載されていまして,そこでは,弁護士の「ストレス・不安・悩み」のタネの多くが,依頼者とのコミュニケーションに起因するという結果が出ています。

私自身,依頼者との関係で悩んだこともありますし,周りの弁護士を見ても,やはりストレスや疲れの原因は,事件そのものではなく,依頼者との関係だという声を長年にわたり,多数きいてきました。中には,夜も眠れないとか,仕事のことを考えると鬱々として心療内科にも通っている,といった話も少なくありません。

つまり,依頼者とどのように信頼を築き,コミュニケーションを改善していくのか,これは,依頼者自身の満足・ウェルビーイングにとって重要なことは当然として,弁護士にとっても,仕事人生のウェルビーイング度を左右する,重要なポイントなのです。

3 とはいえ,なぜコーチング研修が企画されたのか?

このブログをご覧の皆さんの中には,コーチングやウェルビーイングについて,詳しい方もきっと多いでしょう。しかし,弁護士は,どちらかというと世間の流れには疎めでして,コーチングという言葉も,ウェルビーイングの概念も,聞いたことない!という人だってまだまだ多いのです(知らない派が主流だと思われます。かくいうう私だって5年前は知らなかったわけですし)。

そんな中で,なぜ,私がコーチング研修をすることになったのでしょうか?それは,数カ月前のある日,兵庫県弁護士会の阪神支部の研修委員会にて,新しい研修の企画を練るタイミングがあったようで,そこで,某弁護士(兵庫県弁護士会のS弁護士)から

・コーチングというスキルは弁護士業務に活かせるのではないかと密かに思っている
・どうやら兵庫県弁護士会の中原先生(弁護士としては「先生」と呼ばれます)が,コーチングに取り組んでいるらしい

→という話が表れ

・そうだ,中原先生に,依頼者対応を中心としたコーチング研修をしてもらうのはどうか?依頼者コミュニケーションで悩む弁護士は多いし。
・そういえば,僕(弁護士会阪神支部の研修委員会の委員長,M弁護士),中原さんと同期です。ラインも知ってますけど。
・え,ほんと,じゃあ連絡してみて!

という流れで,M弁護士から私宛のLINEが届いたのです。内容は,「コーチングを弁護士業に活かす,的な研修できます?」でした。そのラインを見た瞬間に感じたのは「え,私でいいのかな?」そして,「弁護士会がコーチング研修を企画するなんて,時代はここまできましたかー!」とっても嬉しい&大きなびっくりでした。もちろん快諾させていただきまして,その3か月後の9月6日に実施となったわけです。

4 弁護士は何に悩んでいるの?

ところで,依頼者対応に関する弁護士お悩み,とはどんなものなのでしょうか。有名どころはこのあたりでしょう。

・依頼者が説得に応じてくれない

・不当な要求を(依頼者が相手に対して)求めるように強く言ってくる

・依頼者の意思を尊重したつもりが,勝手に決めたと言われる

え,そんなことで悩むの?と思われるかもしれませんが,これが弁護士には大きな大きな痛手になるんです。その積み重ねから,電話が鳴るたびに心臓がキュッとなる,電話の主が(気になっている)依頼者ではないとわかるとホッとする。といった状況にも陥り,深刻なストレス過多になってしまうことも決して珍しくはないのです。

この研修実施中にも,「あるある」「ずっとそれを繰り返してきました」「自分だけじゃなかったのか!」というお声があちこちから届きました。

こんなお悩みがちょっとでも軽くなってほしい!弁護士だってウェルビーイングにいこう!というのが今回の研修のテーマでした。

5 当日のこと

当日,予想を超えるたくさんの弁護士がZOOMに次々入室。皆さん超絶忙しいなか,そして,平日の18時から20時の2時間を使って話を聴きに来られたわけで,つまり結構な熱量です。わたし,こう見えて結構緊張します。プレッシャーも感じやすいほうです。そして,私よりも経験豊富な弁護士もたくさん!また,それぞれ自分のやり方を確立してきたのが弁護士という生き物です。そんな皆さんに対して,コミュニケーションやウェルビーイングについて語るのは,勇気がいることでもあります。ああ,ヘタレな私のマインドが頭をもたげてくる・・・

しかし,弁護士はみんな悩んでいる!私だって悩んできた!!だから,せっかく来てくださった皆様のため,なんとか役に立てますように,ひとつでもふたつでも,明日のためにお持ち帰りいただけることがありますように!とがんばるぞー!の気持ちがどんどん増しました。

6 コーチングとは何か・弁護士業とどう関連するか

弁護士には,そもそもコーチングってなに?という方が多いわけですから,当日は,・コーチングとはなにか?・弁護士業とコーチングとの素敵な関係というアプローチに加え,・弁護士としてのよくあるお悩み(事前アンケートをもとに)・弁護士の悩みにアプローチするコーチングスキルで,具体的な弁護士特有のお悩みの共有と対処法の検討を行いました。

ここでは,アンケート結果や私自身の経験を踏まえて,実例とともにご紹介。そして,実践だけでなく,理論もあわせて。

・知っておきたい交渉理論

・行動経済学から考える依頼者心理

・対人支援におけるCUREとCAREの違い

・調停技術として用いられるエンパワメントの考え方

なども弁護士にとって役立ちそうな(私自身が勉強したり経験する中で役立ってきたこと)を目いっぱいお伝えしました。

7 具体的に何を話したのか?

弁護士と依頼者との関係は,

・専門家が解決策を提案するコンサルティング

・正しい答えを与えるティーチング

・負の感情を解消するカウンセリング

などに分析できます。これにプラスして,目標に向けた依頼者自身の力(判断力,解決力,人生を自分事として描いていこうとする力)を引き出していくのがコーチングです。

このコーチングの部分が充実すると,依頼者との関係は大幅に改善しますし,問題解決へのスピードが加速します。

これを弁護士の悩みに沿って対処法を並べると

〇「先生は私の話を聴いてくれない」という文句に対しては、長時間黙って聞いても意味はなく、「聴いてもらった」という実感を付与するために『傾聴』のスキルを

〇「延々と長引く依頼者の話」を上手に中断をするには、『傾聴』と『承認』のスキルを

〇「何度も電話をかけてくる」「同じことを何度も繰り返す」依頼者には、上手に受け止め、原因となっている不安を軽減するため『共感』と『承認』のスキルを!

〇「無理難題」に対しては、正面から否定するよりも、あらたな視点を引き出すために『質問』のスキルを!

という感じです。

8  終わってからのご感想もいただきました

終了後には,

・もっと早く聞きたかった

・あの時,ああすればよかったんだとわかった!あの頃に自分にこれを伝えたい!

・弁護士の定期的な研修としてずっと開催してほしい

・支援の本質というかマインドの持ち方が分かった気がする

・ほかの人もこれだけ悩んでいるだとわかって救われた

・依頼者コミュニケーションも一つの技術で,ちゃんと磨いていけることが分かったのが収穫

などとご感想をいただきました。いやー嬉しいですね。そもそも自分が大事にしていたことをお伝えする機会があるだけで超絶ありがたいわけで,その上で,こんなご感想までいただけるとは。結果として,私のほうがが大きな大きなウェルビーイングをいただくことになったのでした。

弁護士は法律の専門家であり,知識や経験で依頼者の幸せ・ウェルビーイングを守る仕事です。しかし,対人支援職である以上,法的事実だけを見つめていても,依頼者の心の満足を引き出せません。この心の部分を大切にすることがCAREであり,そのための技術がコーチングと言えると思うのです。

弁護士を含めた対人支援業のプロたちが,少しでも仕事に幸せに取り組めるように,それをつうじて,依頼者を含めた関係者すべてにウェルビーイングが循環しますように,という思いで私ができることを,これからもひとつひとつ積み上げていきたいと思います。研修企画を提案くださったS弁護士,取り仕切ってくださった委員長のM弁護士,そして弁護士会事務局として大いに私を助けてくださったAさん,参加してくださったみなさま,改めて心からの感謝申し上げます。

今日もみなさまがウェルビーイングでありますように。



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