見出し画像

【Album Review】 Asian Glow, 《Cull Ficle》 (2021)

画像1

Artist : Asian Glow
Album : Cull Ficle

Released : 2021.03.17
Label : 2402437 Records
Genre : Emo Rock, Lo-Fi


最近、RateYourMusicなどの音楽コミュニティーを中心に韓国のエモロックアーティスト、”Parannoul(파란노을)”のアルバム《To See the Next Part of the Dream》(2021)が凄まじいほどの支持を受けて話題になっている。そんな中、同コミュニティーで共に注目され出しているもう一つのエモロックアルバムがある。それは、ドリームポップバンド ”FOG”で活動する若きアーティスト、シン・キョンウォン(a.k.a. Moth Pylon, Asian Glow)のソロプロジェクトの本作、《Cull Ficle》である。

えー、何これ…。『ポプテピピック』のキャラみたいなのが魚に食われてる意味不明なアートワークに(いや、まあ、かわいいけどね)、さらにイミフなアナグラム式タイトル。ふたを開けてみると、そこには歌詞すら把握できない騒音がぐちゃぐちゃになっている。え、ちょっと、みんな!なんでこれがいいの?どういう風に聴けばいいの?今時ロックに無知なこのワタクシにとって、それはとても不思議な感覚なのでした…。

何が何だかわからない、という印象は以下のいくつかの要素と関係があると思う。1) 予想を裏切る展開。2) 形が不確かなボーカル。3) さらに不確かな曲名。これらの疑問点を突き出した時、よく「ジャスト・フィール…」みたいに答えてる人いるけど、何の解決にもならなくて困ります…。

でも、まあ、音楽ってしょうがないと思う。いくら大衆音楽がただ聴覚だけでは定義できない様々な背景と脈絡とコンテンツがあるとしても、結局その本質は見て触れない何かだし、僕らはその波打つ音の中でとある印象を捉えて鑑賞するしかできない。もちろん、僕らには歌詞やジャンルのように分析・対照できる色んな道具があるわけなのだが。だから、ロックに詳しい人たちは本作を聴いてすぐ、The Microphonesの《The Glow, Pt. 2》(2001)などのレファレンスを探り出したりできるのだろう。でも、それらにあまり慣れてない僕には鑑賞の糸口がはっきりと見つからない気がした。

それにもかかわらず、僕がこの記事を書いている理由は、最近気分が悪く頭まで痛む時に、一緒に自己嫌悪してくれる(?)このノイジーなエモロックサウンドが気に入ってしまったからだ。特に最初の曲〈Circumstances Telling Me Who I Am〉にはまってきて、少なくとも本作で聞こえてくる音を徐々に受け入れることができた。その曲の何がいいか。うまく説明できないけど、まずその緊張感のあるリズムが良い。何となく胸にしみるコードが良い。所々パワフルな瞬間が良い。フルートらしきシンセサイザーの出す遥かな気分が良い。

その感想をもとに、ほかの曲とも対照してみた。〈No Exit〉と〈들판 Field〉はともにフォークらしきアコースティックなリーフからはじめ、ノイジーに展開される。前者(〈No Exit〉)はパンク、ハードロックなどが思い浮かぶ過激なドラム演奏が、後者(〈들판 Field〉)はノイズの隙間から見える自然の風景と、リーフにシンセサイザーが重なる瞬間が気に入った。わりとベタなパンクの〈카리스마 대빵큰오리 A Big Karismatic Dukie〉、具体的な状況が歌詞で描写される〈Michin〉はおそらく本作の「うるささ」を担当するだろう。〈그래 맞아 Yes It is〉ではノイジーなギターの後ろにカントリーなリーフが聞こえてきて、また〈들판 Field〉の情景を思い出させて、〈왜 이렇게 짜증이 나지? Aggressive〉は静かで空っぽな情景のアコースティックなリーフと重くてメタリックなリーフが一曲で交わる。「hold me now」という切ない歌詞が割と明確に聞こえてくる最後の曲〈Piglet〉は、僕らが「Emo」という言葉に投影する感情に一番充実な曲かもしれない。

短い間奏曲が作る実験も印象的だ。〈아무 것도 없이 Nothing but〉は散らばるギターから始まって短い時間内に色んな変奏を経て次の曲につなぎ、〈Rmfjgekrh? (Everytime I Fall)〉はその副題のように空気を暗く変えることで、両方とも「間奏」の役割をきちんと果たす。陰惨な機械音が危うく鳴り響く〈이 세상에 태어나서 처음 배웠던 그 말 단 한 번도 가슴으로 못 했던 그.. INeverSaidToYou〉、シンセサイザーがはるかに広がる〈(xxxxxxxxx)〉、ハーシュノイズ曲〈ILoveYou〉も興味深い。

やっと少しずつ像が見えてくる。ノイズの裏に多くのものを隠したまま乱雑に集った集合体が、色んな人々を魅惑する動力についてはまだ不思議なのだけれど。

上述したThe Microphonesの《The Glow, Pt. 2》は本作と似た音を詰めている。自然的で広がるフォーク、アンビエントと、暴力的で切り裂かれるノイズ。これらが二転三転して作っていく緊張感が長い間に人々を魅惑するのだろうか。《The Glow, Pt. 2》に対するPitchforkのレビューはこんな文章から始まる。「ポップミュージックが曖昧性を通して美しさを表現するのは素晴らしいことだ。」これを本作にも適用できるだろうか。

感想の精密度が低い僕にはまだ本作の予測不能性が緊張感へと自然にはつながらない。でも、粗悪でキッチな糸の束でぐるぐるくるまった本作の音楽は無視しづらい好奇心をつつき、それを一本ずつほどいていく過程が与えてくれる面白さは素晴らしいものだ。僕はとにかく聴けば聴くほどその毛だまりがほどかれるような感想をもとに、本作を積極的に勧めたいと思う。


おすすめ度:★★★★



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?