#12 社内ロンT革命

このお話は私たち近畿大学山縣ゼミ生がアパレルブランド「オールユアーズ」をテーマに書き上げた「オールユアーズの物語」である。オールユアーズと様々な価値観を持つ一人ひとりの物語を紡ぎ出す。

今回は、「着たくないのに、毎日着てしまう」ロングスリーブTシャツを着る男性を描いた物語である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
月が浮かんでいる。
目覚ましではなく、ふと自然に起き、窓から見える朝の月が好きだ。
太陽のような眩しさではない、反射された月の光の方が起きたての目には馴染みやすい。

早朝に見えるこの景色に満足しながら、朝の支度を始める。
窓を開けると、涼しい風が部屋へと入っていく。
大寒が過ぎ、少しずつ暖かくなってきた。

先月ほど厚着をしなくていいなと思いつつ、お気に入りの白のロンTに防風防寒の上着を着る。まだぐっすり寝ている子供達を見ながらドアを開ける。

「行ってきます。」
起こさないように小さな声で言った。
「いってらっしゃい。」
妻から小さな返事が返ってきた。

見慣れた道、いつもの信号、決まった行きの電車。
長年の通勤によって分かった、家から会社までの最も効率の良いルートを行く。


会社に到着した。
「おはよう」
「おはようございます!」
挨拶が飛び交い自分の席につく。

仕事を開始し、いつも通り社内の書類を処理していく。
最近起きた出来事やちょっとしたニュースを後輩と雑談していた。

「最近、社内での労働は服装自由になったじゃないですか?どこかおすすめのとこありませんか?自由って言われてもどこまでが許容範囲かわからなくて、、、」
後輩の山田が話しかけてきた。

「そうだなぁ、ある程度カジュアルとは言われているけど、その基準が難しいよな。」

「今私が着てるこのロンTとかはどうかな?多分今までの服装見てる限り、山田はジャケットは色々持ってるけど、下はワイシャツを使いまわしてるんじゃないか?」
以前から思っていたことをそのまま伝えた。

「そうなんです。けど、ワイシャツですらヨレとかシワを気にするのに、Tシャツとかだともっとひどいんじゃないですか?」

「このロンTは違うんだよ。魅力をまとめて言うわ!
洗濯後もすぐ乾くから次の日使える!
シワになりにくいからアイロンをしなくていい!
型崩れやヨレにも強いから、一日中カジュアルな恰好でいられる!
そしてなにより、加工のおかげで臭い抑えられるから加齢臭あんましない!」

 
「安藤さん、加齢臭が出始めたんですね、、、」
山田が憐れんだ目で見てくる。

「そうなんだ、父さん臭いって子供に言われて最近気づいた、、、」
「結構きついですね(笑)」
一回反省文を書かせたほうがいいかもしれない。
十年後自分と同じ悲劇になることを願っておく。

「で、どうなんだ。」
「ちょっと興味持ちました!けど、高いんじゃないですか?」
「ワイシャツ二枚分くらいの値段だ。けど、ワイシャツよりも圧倒的に動きやすいし、毎日着れるから買う価値はある。」
「気になってきました。どこかで試着とかできますか?」
「オンラインで接客だと、配送してきて試着できるぞ。会社でつかうならサイズ感きっちりの方がいい。」
「現代的ですね。一回試してみます。」
山田はロンTに対して好感触だった。


昼休みが終わり、業務を再開した。
ミーティングや、社内管理など他の業務も行い一日の仕事が完了した。
自分の好きなものに興味を持つ人が増えるのは悪い気がしない。
いつもより疲れがしないのは、その気持ちのおかげか、ロンTのおかげなのか、、、


見慣れた道、いつもの信号、決まった帰りの電車。
駅から降りると、日は落ちすっかり暗い。
空を見上げると、雲でうっすら隠れた月が浮かんでいた。

家に着き、ドアを開け
「ただいま」と言うと、
「おかえり」と家族の声が返ってきた。

いつもと変わらない今日が終わる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈この物語に登場したプロダクト〉

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?