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第十二回「名古屋と友達の誕生日とバンド」前編

6月19日
1年ぶりの名古屋に向かう為にドラムの大塚の家に集合。
彼が所有する車に乗りコンビニでカツサンドを買う。

思えば1年前 アルマが死んだをはじめて2回目のライブが名古屋だった。
その時の車内はギターもベースもイラストレーターも居て何やら賑やかな
車内だったなとたった二人の車内で思っていた。

カツサンドを食べながら湘南乃風を爆音で流し、途中大雨に打たれながらも
車は確実に名古屋に向かっていた。

大塚が突然「ゾンビランドサガ観た?」と俺に聞いてきて
俺は観ていないので「いや、観てない」と答えた。
そこから車内はゾンビランドサガを流しながらの旅になり
俺は内心「うわ。めっちゃおもろいじゃん」と思いながらも
クールを装って「ふーん。いいじゃん」くらいに留めておいた。

悔しかったのだ・・・こんな素晴らしい作品が存在していることを見逃していた自分が・・・腹立たしかったのだ・・・

ホテルに到着し どれ名古屋の空気でも吸いますかねと
外を散策していると何やらドラムの音が聞こえてくる
その音を頼りに歩を進めると路上で一人ドラムを叩く男性を発見

榊間さんというドラマーの方で毎日路上ライブをして
周辺のゴミ拾いをしているらしい。
「バンドやってんの?」と俺たちに質問をしてくれて
名古屋に来た経緯を話す。

すると榊間さんは「じゃあ、叩かせてよ」とアルマの曲を逆リクエストされ
ブルーハーツが似合うこの夜を選択。
榊間さんのドラムと楽曲が名古屋の夜に響き渡って
なんだか変な気持ちになってしまった。

北海道の狭い部屋の中、下手くそなアコースティックギターで作った歌が
今こうして名古屋の街に響いている不思議が良い意味で違和感となっていた。

演奏が終わり俺たちは拍手とお礼をした。
榊間さんは「これ売れてるだろ?良いよ」と言ってくれて
売れていない俺たちは「売れてないっす!!!!」と自信満々に言った。

そんなやりとりをしてる中、大塚が急に
「そのドラムすっっっっっごく興味あるのでちょっと叩かせていただいて良いですか?」と榊間さんにお願いする
榊間さんも快諾してくれて、大塚がドラムセットの中に行き座る

「なんか曲やってくれよ。アルマが死んだの」と榊間さんにリクエストされ
「これしかないっしょ」と大塚が選択したのが魔法症女であった。

(↑のファイルはその模様が収録されています)

一通り演奏し終え榊間さんと別れホテルに戻る。
今回、名古屋に俺たちを呼んでくれたシキサイのボーカルKENさんと合流。
めちゃくちゃデカい車で迎えに来てくださる。

車は名古屋城へと向かい人生初の名古屋城というか
人生初の城をみた俺は大興奮。

「あ!!!!いるいるいる!!!いる!!!!」と馬鹿丸出しで名古屋城を指差し叫ぶ。
KENさんは「そんなに喜んでくれるなら本当に嬉しいわ!」と笑いながら運転してくれていた。

名古屋ドームだったり、名古屋の街を車で案内してくれて
なんというか・・・少しばかり・・・

エモくなっちった・・・

昔はよくバンドメンバーとドライブして
いろいろな話をして馬鹿なことをしていたのだけれど
最近じゃめっきりそんなこともなくなって
忙しいという言い訳で遊ぶことすらしなくなってたなと思った

それはきっと自分の社会的な話をすればとても良いことなのだけれど
少年的観点からすればほんの少し寂しいことなのかもなと風にあたりながら考えていた
深夜にみんなでラーメンに行ったり、無茶をする歳でもなくなったのだけれどそれでもそういう機会があれば俺は無茶したいし遊びたいのだ

だからみんな!!めっちゃ誘って!!!お願い!!!!

と言ったところでいつもならこのコラム1,500文字程度で終わるのだが
今回のタイトルがタイトルなので非常に長い。

自分でも何文字いくか分からないので覚悟して読んでいただきたい。

帰り際に名古屋飯として台湾ラーメンをご馳走になる。
はじめて台湾ラーメンというものを食べたのだけれど、
たくさんのニラと無限に入っているニンニク。一つ残さず平らげ
汗を馬鹿みたいにかく。

口の中は幸せの臭さ。最高である。

深夜にそんなバキバキなものを食べたのもあって
ホテルに到着しても寝付けず、ずっと好きなユーチューバーの動画を見あさり一人で静かに笑う。奇人。
栄という場所にホテルを取ったのだけれどさすがは飲み屋街。
お店が営業してようがしてまいがお構いなしに若者たちの声が聞こえる。

なんとか就寝して起きた頃にはもう昼になっていた。
テレビを点けるとなんでも鑑定団の再放送がやっていて
それを観ながら冷蔵庫に入れておいたコーヒーを飲み煙草を吸った。
なんでも鑑定団を観ながらの煙草は美味い。

なんとなく、なんとなくだが凄い富豪にでもなった気になれる。
「ほほう?これはなかなかいい骨董品を持ってきたね君ぃ」とか心の中で呟きながら煙草を吸うのだ。奇人。

身支度を済ませ隣の部屋にいる大塚を尋ねる。
彼も彼で準備を済ませていて、どれ名古屋の昼の空気でも吸いますかと
ホテルを出る。

俺たちが向かった先は1年前にはじめて食べて大感動した矢場とんであった。
味噌カツってなんとなく味噌ソースがドロっとしたイメージがあって
濃い感じだったら嫌だなと思って食べてこなかったんだけど、
意外や意外。ソースはシャバシャバでしかも凄く食べやすかった。

その感動をもう一度味わうべく30度を超えた夏の名古屋に
豚を食らわせろと二人の男。

その一方で対バン相手であるハイエナジーというバンドの皆様は
スタジオに入り入念にリハーサルをしていることを知る。

俺たちは旅行に来ているのか。
友達と名古屋城を見て興奮し、ラーメンを食い
なんなら味噌カツまで食った。
名古屋、最高だ。

いや、待て待て。
本当の目的を忘れるな。俺たち。
俺たちはシキサイに呼んで頂いて今、名古屋に降り立っているのだ。
と、いうことはライブを行うということになるのだ。

忘れるな。俺たち。
俺たちはバンドマンだ。ただの観光客じゃない。

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シャチホコが名古屋城から降りていると俺がやっているバンド
アルマが死んだのお客さんから聞いた俺たちは矢場とんを胃袋に入れて
そのままライブハウス会場・・・ではなくシャチホコ展示会場へと向かった。

見てよこの俺の幸せそうな顔。
もうライブする人はそこにはいなかった。

シャチホコに触るために500円支払い列に並ぶ。
人生で触れるか触れないかのシャチホコを俺は確かに右手で触った。
なんかよく分からないけど「ありがたいね」という言葉が自然と出ていた。

名古屋、ありがとう。

シャチホコのパワーをゲットし、途中で珈琲を買い
俺たちはまたホテルへと戻った。
ホテルに着くや否や大塚は深く息を吐きながら
「幸せだなぁ・・・」と言った。

俺も全くそうだと思った。
なんなら俺たちはこの時点でもう当初の目的を忘れていた。

それでもフアンの皆様のツイートなんかを見ると
アルマ楽しみ!とか書いてくれていて
「ああ・・・そうでした!!!!忘れてました!!!」となり
俺と大塚は急いで車に乗り会場へと向かった。
名古屋パワーをこれでもかと吸収した俺たちは無敵だった。

車内ではもう夏だというのに
大塚がいきなりBoAのメリクリを再生するものだから
もう訳がわからなかった。

ほら雪ダヨォーじゃないんだよ!!!!!!

会場に着くともう一つの対バン相手である蟻人さんがいて
お互いに「あ、ども・・・」みたいな変な空気感で挨拶をした

対バンするときの”これ”なんなんだろうね!!マジで!!!
この伺う感じというか「まだお前のポテンシャル知らねーから!!」みたいなのが見えない言葉となって伝わってくる感じというか
でも、そういう空気って嫌いじゃない自分もいる。

ハッピーなだけで最初から最後まで完結できるライブって
なんとなーく嘘くさい感じがして卑屈な俺はどうしていいかわからなくなったりするのだ。

だから、その空気感はあながち正しいのかもしれない。
ひりついた空気。ナイス。

各々支度や談笑なんかをしていると徐々にお客さんも会場に入り出して
その間俺はずっと湘南乃風の純恋歌を楽屋で弾き語りしていた。
本当に対バンの皆様は迷惑だったと思う。ごめんなさい。

開演時間となり蟻人さん、ハイエナジーの皆さんが演奏をし
拍手の音が外まで聞こえる

いよいよ俺たちの番となってそれでも俺は純恋歌を歌っていた
純恋歌を引きずった俺はステージに上がっても純恋歌を歌っていた

名古屋にまた来れたのが
嬉しくて嬉しくてガラにもなくスキップして
(名古屋が)好きって言いてぇ・・・状態だった

真面目な顔してギュッと抱きしめたのはパスタ作ったお前じゃなく
目の前にあるマイクで、そのマイクに向かって

「ギヤァあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!」と
いつもみたいに叫ぶしかできなかったのでした。

今回のアルマはギターとドラムだけの2ピースバンド編成となって
普段はマイクだけの俺がリッケンバッカーを弾くという珍しいライブとなった。

俺らをはじめて観るお客さんがほとんどの中
俺らはいつもと変わらず全力で向き合うしかできなかった
というか。
それが俺たちにとっての正解なのでなにもおかしい事はなかった。

いつ何時、誰の挑戦でも受けるとはプロレスラーアントニオ猪木さんの名言だがまさしくそれで 俺はその日その時その場所の状態なんか一切気にせず
いつだって挑戦して負けて勝っての繰り返しをしている。

それがバンドなんだと思うのだ。

またもう1つ名言シリーズを紹介すると
キースリチャーズが残した言葉の一つで(これはキースが言っていたと聞いただけなのだが)凄く好きな言葉があって

俺たちはずっといいステージをしてきた訳じゃない。
仮に毎回いいステージをしたならそれを心電図に例えると
ずっと平行線だから死んでるのと一緒。
いい夜も悪い夜もあるから生きてるんだぜ。

みたいなことを言っていた。

売れないバンドマンがこんなことを言うのもおかしな話だが
俺もその通りだと思うし、そんな夜を実際に経験したことがあるから
キースのその言葉は間違いなんかじゃないんだと確信を持って言える。

まさに名古屋の夜はそんな”いい夜”だった。

最後の曲を終えて俺は「ありがとう」と伝えた。
それを聞いてお客さんが一斉に拍手をしてくれた。
が、俺はその拍手を受け取ることができずにいた。

俺たちがライブをして歌い終えて拍手をもらうと言う
慣れてしまったその流れに違和感もあるし、
俺が言いたかった「ありがとう」の意味がちゃんと伝わってない気がしたからだ。

今、もう散々世界が嘆いていて聞き飽きた単語「コロナ」
バンドマンは石を投げられ当たり前が当たり前じゃなくなったこの時代に
どんなきっかけだろうと足を運んで見にきてくれた方々のその
勇気と心意気に「ありがとう」と言いたかったのだ。

俺たちバンドマンはお客さんがいないと成り立たない。
配信ライブが主流の時代にこうして生で体感してくれる方を
俺は讃えたかったのだ。

配信で見ている人が悪い訳じゃない。
もちろんそれきっかけで知ってくださる方もいるし本当に感謝している。
いろんな事情で来れず悔しい思いをして配信を見てくださる方がいるのも俺は知っている。
だから、悪として言っているんじゃないことを知って欲しい。

ただ、俺を含む全員がそれに慣れてしまうと次にやってくるのが
考えたくもないがライブハウスの終わりだ。

慣れというのは本当に怖い。
だから、その慣れを一回リセットしたくて俺はそんなことを
大きな声で話した。

誤解を招く言い方だったかもしれない。
けれど、誤解を恐れて言わないより、しっかりと伝えたかった。

伝わってくれたら嬉しい。

多分その考え方ってめちゃくちゃ古い考え方かもしれないし
アップグレードできない俺の感覚が悪いのかもしれない。
けれど、ライブハウスが潰れて音楽が死ぬのをこれ以上見たくはないのだ。

それを支えられるのはバンドマンじゃなくて
いつだって”あなた”なのだ。

エゴで物を言っているのも重々承知で俺は今この文章を書いている。

俺は本気だ。

だからこそ、ちゃんとそれを伝えたかったのだ。
”あなた”にも届いてくれたら嬉しい。

自分たちのステージを終えフラフラになりながら楽屋へと戻る。
少し落ち着いてから煙草を吸いにいくと俺たちをはじめて見てくれた方に
声をかけられお褒めの言葉をいただく。

少なからず伝わった気がして嬉しかった。
いつも思う。ありがとうと伝えたいのは俺の方だと。

呼んでくださったシキサイの皆さんのステージは邪魔にならないように
携帯端末で見た。
お金を払って来てくださったお客さんの邪魔になるような演者にはなりたくなかったからだ。

名古屋は行くたびに色んな感情にさせてくれる。
暖かったり優しかったり。そんな感情にさせてくれる。

だからそれに応えるように歌で恩返しをする。
俺らと名古屋の関係性はそれでいいのだと思う。

ホテルに戻りボーッと携帯を触っていると気づいたら朝になっていて
仮眠がてら3時間ほど寝た。

起きて身支度をして大塚とロビーで待ち合わせをして
俺たちは東京へと帰る。

買ったばかりのビニール傘をホテルの817号室に忘れて。

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