見出し画像

9 妊娠

マウイへ戻って来ると気が抜けたのか、ひどい疲労で家の中から出れない日々が続いた。

私は、2週間のオリンピックで精魂尽き果てていたのだと思った。

3年頑張ってきたのだから、ゆっくり休んだらいい。。。。。


数週間過ぎたころ、気が付いた。

「妊娠している。」

「女の子を妊娠している。」


だって、マウイに到着して直ぐに声が聞こえたから。

やっと我に返った。

マウイ島の風の声。

「It is girl. 」

「女の子だよ。」

検査薬を買って、テストした。

陽性。

私はマウイに到着した時もう妊娠していたのだ!


それは至福の時だった。

いつもはただ通り過ぎるだけのローカルのハワイアンのアンクル、アンティーが笑顔で声をかけてくる。

刺青の入った、強面のローカルのお兄ちゃんも優しい。

魔法にでもかかったようだ。


妊娠8ヶ月。

トラックに、ベービーベッドを積んで運んでいる途中でそのベービーベッドが2車線のハナハイウェイの空中を飛んだ。

真後ろには幸運にもパトカーが。

後方の車を全部止め、ポリスマンは壊れたベビーベッドを拾って「ごめんね。」と言って、壊れたベビーベッドをトラックに戻してくれた。

彼はただただ申し訳なさそうに、優しく私の顔を見て、「あと、何か僕にできることはあるかな?」と言った。

せっかく、買ったお下がりのベッドはそのまま廃棄所に行った。

私は幸運だった。

誰一人、その空を飛んだベービーベッドで事故になることもなかった。

私達はずっと大いなるものに守られていた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?