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2017年2月19日 沈黙映画鑑賞

映画「沈黙 -サイレンスー」を、遂に見に行った。と言うのも、そろそろ公開も終わりというタイミングに、早くもなってしまっていることに気付いたからだ。

先週夕方、会社の自販機コーナーで夕陽をバックにした富士山を眺めつつ休んでいたとき、(前に私のチームで庶務をしてくれていた)Fさんもう沈黙見たかな、とふと思って、席に戻ってからメールを打ってみた。 Fさんは映像翻訳の仕事に若かりし頃から挑んで、ウチに派遣としてやって来ていたが、もう一度チャレンジしたいと、ウチを辞めて行った人だ。

翌日返ってきた返信には「明日観に行きます」とあったので、「感想聞かせて下さい」とさらに返信した。

さて、じゃあ俺もそろそろ見に行こうかなあと思い、帰りがけに職場近くのシネコンの案内を見に行ったのだが、そこで「そろそろ終了」の欄に沈黙が入っていることに気付く。え、まだ公開から1ヶ月も経ってもいないのに!?と驚き、と言うことで私もFさん同様、週末に見に行くことにしたのだ。

本日、メールを開けると、金曜には沈黙を見に行ったFさんからの感想が送られてきていた。映画は良かったが、やはり原作が素晴らしかったので、やや物語に入るのに難儀したとか、フェレイラ役を演ずるリアム・ニーソンのアイルランド訛りの英語がかなり気になったとか、映画通なFさんの感想という感じだった(ニアム・ニーソンにしっくり来たことが今まで無かった、とも書いてあった)。

私の感想も求められたので、返信したが、やたら長くなった。Fさんのアドレス、明らかにスマホのアドレスで、この長い返信が相応しいとは思わないが…自身のFさん宛て感想返信を、以下コピペする:

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会社近くの映画館で見て参りました。もうちょっと待とうと思ったのですが、やはりこう言うカタい映画は売れないんですかね、まだ公開から1か月も経っていないのに、もうすぐ終了扱いになっていたので、慌てて行った感じです。シン・ゴジラは未だやってるみたいなのに、沈黙は本日の上映は一度きりで、客の数もあまり多く無かったです。若い人は多分全くいなくて、私でも若い方でした。ただ、ガイジン客がチラホラいましたが、日本語のセリフに英語訳が充てられてないのは可哀相だなと。

この人気の無さから、映画自体もイマイチかと思っていましたが、そうじゃ無かったです。Fさんのおっしゃる通り、原作は超えていません。でも、普通の映画を見るのとは明らかに違う感じで見ていました。見ながら何度も「俺はこれの映像化を長いこと待っていた」と感慨に浸ったりして。少し聞いていた通り、原作にも結構忠実でした。

上映時間も長いながら、最初の方のシーンはかなり展開が早く、中盤以降に時間を割く意図なんだろうと思いましたが、ロドリゴとガルペが上陸して信徒と対面するシーンなど、途中途中のシーンでも泣きそうになってしまいました。一方、クライマックスと言えるロドリゴが棄教するシーンは、良かったですけど、期待を完全に満足、と言うレベルには行きませんでした。このシーンは原作の方が素晴らしく、さらにキリストが音声を出して「喋る」と言うのが中々難しかったと思います。文学作品の映像化・音声化は究極的には不可能、とは言いませんけど、スコセッシは一応納得してこのシーンを完成としたのか、ある程度の妥協があったのか...。興味があります。

役者陣で一番良かったのは、塚本晋也のモキチでした。イッセー尾形でも浅野忠信でも窪塚洋介でも無かったですね。モキチ自体は原作でそこまでの役割でなく、映画でもそうですが途中で死んでしまうため、「ああ、塚本晋也も出てるんだ」と思った程度でしたが、凄く上手かったと思います。モキチが磔刑に処され、満潮で体力を奪われるシーンや崩れ落ちるシーンはかなりリアルで、とても印象的でした。塚本晋也は海外の映画監督からもリスペクトを受けている映画監督ですが、塚本晋也自身はスコセッシを大変尊敬していると言うことで、並々ならぬ気合で入り込んだものと思います。

一方、イッセー尾形はもっと出来たんじゃないかなあ、と。英語話させない方が良かったと思うんですけど。イッセー尾形演じる井上筑後守が出てくるのは原作ではもう少し後ですが、ロドリゴが捕縛された時、もう原作を何十回と読んでて、セリフまで覚えている私としては、他の農民を帰す時にロドリゴに「お前は、残れ」と言うところ、あれは声を低くし、眼を据えてやった方が良かったです。と、天下のスコセッシに意見するつもりは無いんですが。

後半以降は長崎が舞台なので、セットを使ったシーンが多かったと思いますが、最初の方のトモギ村とかは、雰囲気が出ていました。台湾で撮影されたそうですが、スコセッシは明らかに、遠藤周作がトモギ村の舞台として想定した長崎市の旧外海町を訪れた上で、しっかりロケハンしたんだと思います(五島にも行っている筈)。外海には遠藤周作文学館があり、私は3回も行ったことがあるのですが、外海の起伏のある海岸線を思い出させる場所でした。多分台湾の東海岸だと思うのですが、学生時代に台湾に行って、鉄道で一周した際、東海岸は人口が密集する西側と比べて自然が豊かと言うか手付かずの自然感が強く、あんな感じでした。ただ、台湾東海岸は標高差がかなり大きく、あそこまで高い丘は外海には無いです。でも、外海に実在する黒崎とか出津とかの集落があるんですが、地形上の雰囲気物凄く出ています。

遠藤周作の影響で、学生時代以来、キリシタン関係の本とかをよく読んできたし、博物館などでも隠れキリシタンが潜伏しながら信仰を守ってきたのも知っていたので、神父の来訪を信徒が渇望していたシーンには感動しました。きっとスコセッシも、相当量の資料を読み込んで舞台設定やシーンの指導をしたと思います。ただ、見ながら、少なくとも原作を読んでいないとこのシーンの背景とかは分からないんじゃないか、とも思ったりしました。全てを映像化している訳じゃなく、この時にロドリゴが心の中でどう思っていながら演ぜられているのかは、分からないかなと。最後、棄教する寸前で、フェレイラが牢の壁に書き込んだラテン語の文字を探り当てて、ロドリゴは少し勇気を回復してるんですが(フェレイラが彫ったとはここでは気付かず)、ああ、これじゃそれが分からない、と思ったり。

英語のセリフ、やっぱり最初は違和感がありましたが、途中からあまり気にならなくなりました。ポルトガル語の「パライソ」を「パラダイス」とわざわざ言い換えるシーンとかも、意外と気にならないもんだ、と思ったり。ただ、フェレイラ役のリアム・ニーソンがアイルランド人とは知らなかったです。シンドラーのリストのシンドラーやってた人ですよね。アイルランド訛りは少し馴染みが薄いです。前の仕事をやっているパートナーに、スコットランド人が多かったのですが、彼らは日本人相手だと結構英語も気を使ってくれるので、あまり分からなかったですけど。

長々と、少し物足りないと感じたところも含めて書きましたが、そうは言っても遠藤周作ファンとしては、「映像化を諦めず、やり遂げてくれてありがとう」と、マーティン・スコセッシに感謝の言葉しかありません。何だかんだで、映画監督しての能力と、カトリックのバックグラウンドを持っているスコセッシしか出来ない仕事だったような。また見に行くかは分かりませんが、DVDが出たら買うでしょう。

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私は、マーティン・スコセッシが、遂に沈黙を映画化したと言うこと全体に、心底から感動していた。また、Fさんへの返信にも書いたとおり、今まで繰り返し原作を読んできたこともあるし、遠藤文学にハマってから20年以上、時間的に興味の濃淡が出るとは言え、キリシタンの歴史にも関心を持って読んだり調べたりして来たので、それが鑑賞の姿勢や態度にも出た。この映画の一場面一場面に、普段映画を見ているとき以上に背景や文脈を重ね合わせて見ていたので、遠藤作品にハマる前の私が見ていたら何でも無いようなシーンで、少し涙がちょちょ切れるなんてことも多かった。

この映画に関して、私は冷静で客観的な評価は出来ない。見られて良かった…。

ところで、Fさんからのメールで、気になることがあった。Fさんは現在、群馬の実家に住んでいるが、沈黙を上映している映画館に行ったら、十代後半の男3人組しかいなかった、とのことだった。Fさんの見たいと思う映画は、いつも集客が悪く、

「ゆったり観られて個人的には問題ないですけど、群馬では娯楽大作以外はほとんど公開されないので、この集客数で私の観たい映画は今後も公開されるのかとちょっと複雑な気分になります」

と書いてあったが、これは多かれ少なかれ、全国的な傾向のように思う。

「Fさんは、選択肢の多い東京に、やっぱりたまには来た方が良いんだと思います」

と書こうと思ったが、東京ですらミニシアターがどんどん潰れていて、地方と大して変わらないラインナップの上映が、大規模シネコンで大規模になされていると思う。人口に比例した相似形が、全国規模でなされている感じだ。

複数スクリーンを持つシネコンは今や、テープの入れ替えの必要が無いデジタル化がされて、相当融通の利く上映形態を取れる。だから、映画通を惹き付ける「見る側に一定のレベルを求めざるを得ない」作品、マイナーな国の珍しい作品、国内外のインディペンデント系の映画を、隙間や夜に上映しても良いと思うが、結局同じような映画を、どこのシネコンでもやっているのが現状のように思う。

技術は発達してるのに、何だか勿体ない。せめて都内を始めたとした都会のシネコンで、選別的にでも良いから言うのやってくれないものか。

ネットも良いんだけど、沈黙をスクリーンで見て、やっぱり良かった。映画は映画館でござるだろうなあ。


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