言葉を創り出す男

「言葉が、言葉が溢れ出して止まらないんだ。止めたくても、止めたくても、溢れ出てきてどうしても止まってくれないんだ。」
男は言った。

男が作り出した言葉が、どんどんと、周りに落ちていった。
その男から溢れ出た言葉は、段々と、男を埋め尽くしていった。

男は言葉のせいで周りが見えなくなっていった。言葉に視界を奪われてしまったのだ。

女が現れた。その女は大きな袋を抱えていた。
女は、男の言葉を、ゆっくりと、吟味しながら、その大きな袋に入れて、どこかへ行ってしまった。

溢れ出た男の言葉は止まることはなかった。

今度はまた別の女がやってきた。その別の女は中くらいの袋を抱えていた。
その別の女は、近くに落ちていた言葉だけを、その中くらいの袋に入れて、そそくさと、どこかへ行ってしまった。

それでもまだ、溢れ出た男の言葉は止まることはなかった。

「苦しい、言葉が止まらない。誰か助けてくれ。」
男が言った。

そして今度は、別の女とはまた違う女がやってきた。その別の女とはまた違う女は、小さな袋をいくつか抱えていた。そして、その別の女とはまた違う女は、その小さな袋に入る言葉だけを選んで、丁寧にその袋に入れた。

その別の女とはまた違う女は、毎日やってきた。新しい小さな袋をたくさん抱えてやってきた。その度に、その別の女とはまた違う女は、その新しい小さな袋に入る言葉だけを選んでは、丁寧にその袋に入れるのだった。

相変わらず、溢れ出た男の言葉は止まらなかった。

ある日、溢れ出ているはずの男の言葉が止まった。

その数日後、その別の女とはまた違う女は、初めて男の顔を見た。そして、最後の言葉を丁寧に袋に入れた。最後の小さな袋だった。

その次の日、その別の女とはまた違う女は、花束を抱えてやってきた。小さな袋は抱えていなかった。

その花束は、その別の女とはまた違う女が受け取った花たちだった。男の言葉が助けた者たちからだった。

ただ、男がそれを知ることはなかった。
そして、その男がその別の女とはまた違う女の顔を見ることもなかった。

蠍凛子


「表現・創造すること」は人間に与えられた一番の癒しだと思っています。「詩」は、私の広い世界の中のほんの一部分です。人生には限りがある。是非あなたの形で表現してみてください。新しい世界に出会えます。