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花梨

雨の音がする。
ここからは外の景色をみることはできないけど、かなり激しく降っているのだろう、ザーっという音がする。
事務所のような場所で拷問のような会議をしている。議題は1つ、何故こんなに売上が悪くなったのか。
先の見えない不景気に決まっているのだが、それを誰も口にしない。
答えのない難問にくだらない理由をつけている状態に飽き飽きする。結局のところ営業が悪いってなるんだから。

長らく彼氏の居ない私は何となく職場のお局になり、何となくできるもので出世までしてしまった。
すきでこうなった訳じゃないんだけど、信頼出来ると思うひとに尽く裏切られ、だから信頼ってなに?って思っている。
この仕事すら相手に信頼されているなんて爪の先にでも思ったことはない。

数ヶ月前、酷く疲れた帰宅時に元彼の兄に駅前で出会った。以前、元彼の家の近くに引越ししてきたんだから出会わないわけない。
しばらくだね、元気?
なんて声をかけられた。
そう、結婚までかんがえたんだから、兄も私には申し訳ないと思っているんだろう。
ご実家に挨拶までしたのに、元彼は他にいい人見つけて私とは無かったことにしてしまった。
兄はずーっと怒っていたのを顔を見て思い出した。

それから何となく世間話をしていたのだが、たまたまはじめたテニスだったが兄もテニスをしているようで公共の安いコートを借りて仲間と打ち合いしているから来ないかと言う話になった。
軽い気持ちでLINE交換したけど、頻回にLINEが入ってくる。
彼もどこか寂しい人なんだろうな。
くだらない内容ばかりだけど、何となく返したくなる。

会議が終わり、部屋をでると部長が何故いい返さなかったのかとばかりに資料で頭をポンと1回軽く当てた。
ペロッと出した舌に、部長は呆れた顔を見せた。
部長は決して激怒するようなタイプではなく部下を信頼しているのがわかる。
何故あんなに信頼できるのかと、また信頼ってなんだ?と自問自答する。

スマホをみるとやはり、兄からのLINEがきているようだ。
LINEの通知が重なっている。
横目で見ながらデスクにもどる。

まぁ、既婚であれ独身であれ人間ってやつは寂しい生き物なんだな。元々群れで生活するんだから。
単独行動する動物に生まれ変わりでもしなけりゃ寂しさなんて解消できない。

しかし、ならば私の信頼出来ないってやつはかなり致命的だな。

何をどういわれようが真に信頼したことないかもしれない。兄、部長、部下、元彼、父も母も。
裏切られる可能性を加味してどこかで必ず疑っている。

少し雨足が弱くなった雨をみながら次なる営業戦略をだすべく。たこ唇の上にボールペン乗っけて目の前の部下にアピールしてみる。

「花梨さん、しゃべらずそんな事しなかったら美人でモテそうなのに」

うるさいなぁ、あんたもはやくない知恵だしなさいよ?

不倫なんてする気はさらさらない。
軽くLINEの返事を素っ気なく返した。
ハマったらダメでしょ。

私みたいな信頼出来ない人間を増やすのは間違えている。
ちゃんと、パートナーを見る目を持っていて欲しい。
そんな人にこそ信頼するのかもしれない。
部長が1番そこに近い存在なのかもしれない。

そしてまた、信頼ってなんだろうな。と考えながら客先に連絡メールを作成する。

わたしはカリンのようにすこし苦味のある果実なのかもしれない。
甘くもない、好かれるわけでもなく、一癖二癖。

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