こたつの1K

今晩は映画を見ようと言っていたのに、もう22時を回っていた。携帯の画面の中に時間が全て吸い込まれてしまったのだ。机の上には2人分の、空いた食器が残っている。どちらかが洗うこともなく、およそ2時間くらいが経ったんだろうか。机上から目を逸らして彼を見る。こたつに半身を突っ込み、うつ伏せになって首を無理に曲げ、同じように携帯を見つめていた。私には彼が何を見ているのか、はたまた何かゲームをしているのか、検討もつかない。別に彼が何を考えていてもよくて、それよりも時期外れのこたつ布団をいかに処理しようかということが気になった。誰も見ていないテレビが、都会の雑音くらいの心地よい伴奏になって、私たちの怠惰と沈黙を引き立てている。しばらく、彼を見つめる。その真っ黒い髪の、真ん中にある白いつむじを見る。まるで無垢だ。白無垢、という言葉とその絵が、ふっと頭に浮かんですぐにかき消した。黒い髪と、細い肩。少しもこちらを伺う気配がなくて、それが私には嬉しい。だって私はあなたのこと殺さない、殺さないもんね。その不用心さがどうも沁みて、可笑しくて、ふふ、と笑うと、彼も少し髪を揺らして、んん、と、唸りとも微笑とも取れるように鳴いた。それから何となく、私から口を開いた。
「私たち、さぁ、」
「んん、」
「一緒にいない方がいいかもねぇ」
「んー、」
そう鳴いて、一拍置いてから彼はぐっと寝返って、体を起こして、
「一緒にいない方がいいけど、だから、今はさ、一緒にいたらいいよ」
「ふーん」
目は合わせなかった。
またテレビの音が、部屋に緩やかに響いていく。彼も私も、また携帯を見ながら、着実に可処分時間を減らしていく。けれどもこのまま、死ねればいいと少し思った。えいと気合を入れて、立ち上がってやっと洗い物を始める。彼は何も言わずに食器を持ってきて、先に風呂に入った。結局全部が終わるのは、0時を回った頃になるだろう。
こうやって見たい映画だけが溜まるような夜は、一体いつまで続くだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?