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サイコ2のおっちゃん


休日。
車の窓からぼんやり外の景色を眺めていたら、黄色の塗料でベターっと塗られた古い建物が目に入り、急に映画のシーンを思い出した。
『サイコ』か『サイコ2』かどちらか忘れたが、主人公が古いモーテルを真っ黄色にペンキで塗っていくシーン。
「狂ってる...」と狂気を強く感じてゾッとした。


中学生の頃、自宅で友達(5人くらい)とホラー映画を見る会をよく催していた。当時はビデオテープの時代だったので、レンタルビデオ屋さんのホラー映画のコーナーを徐々に制覇していた。

ある日『サイコ2』を見ていた時、主人公のアンソニー・バーキンスを見て、皆の頭の中に同じ疑問が浮かんだ。

「誰かに似てない?」

「絶対こんな人見たことある!でも思い出せない...」と怖い場面を見ながらも必死で思い出していたら、誰かが「M (雑貨屋さんの頭文字)
のおっちゃん!!」と気づき、画面は怖いのにヒーヒー笑いが止まらなかった楽しい思い出がある。

その日以来、学校の帰り道に雑貨屋「M」を覗いては、店主を見て「似てる、似てる。こっわ〜」と喜ぶ謎のルーティンが始まった。
店主は寡黙なタイプで、最小限の言葉しか発しない人だった。私たちは皆よく買い物をした方だと思うが、距離は全く縮まらなかった。
他のどんなお客さんにも一定の素っ気ない接客だった。


その「M」にはサイコ2だけではなく、もう一つ私たちを惹きつける要素があった。

Mは基本おっちゃん店主一人で、時々奥さん(?)が代わりにいる感じのお店だったが、
誰のセンスか分からないが雑貨のセレクトは
なかなか良く、プレゼント用にも自分用にもよく利用していた。

しかし、ぬいぐるみのコーナーには謎の一体がいた。テディベアやモフモフうさちゃんなどヨーロッパの絵本テイスト軍団の中に、なぜかザ和風の人形がヌーンっと混ざっていた。
縦長の二足立ちで赤ロンTにオーバーオール姿の変な牛のぬいぐるみがいたのだ。
もう違和感しかなかった。
「え?何?この牛!全然かわいくない...」
「ちょっと変!変すぎる!」とみんなで代わりばんこに手にとって眺めた。
そして勝手に「りゅう太郎」と名前を付けた。


その日以来学校の帰り道、サイコ2のおっちゃんが今日も似ているか、りゅう太郎が売れていないか確認するために頻繁にMに通い続けた。
毎回、可愛い軍団の中にヌーっといるりゅう太郎を見つけては「やっぱり売れてない」と声を抑えて笑い、しゃがみこんで動けなくなっていた。

その姿をサイコ2のおっちゃんは、いつも表情を変えずに静かに見ていた。
きっと「また来た...」とか「何がそんなに面白いのだろうか?」とか思っていたはずだが、顔に一切出さなかった。
その抑揚が一切ない寡黙な雰囲気が、より一層サイコ2の主人公みたいで、私たちのツボに刺さっていた。



     
「何の話だ」

本当にそう。
何十年も経ち、こうして文字にすると、
あまりのくだらなさにビックリする。


「何の話だ」


でも、こんな無意味なくだらないことをして
ひーひー笑っていたあの頃。


「実に美しい日々だった。」

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