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詩『絶望製作所(株)』

灰色の空の下に工場がある
灰色の塀 灰色の煙突
輪郭を空に押し付け
境界線を曖昧にしている
マリー・ローランサンが描いた背景のように

「あの工場は何を作っているの?」
子供が問う 貴方が答える
「昔はね、あそこで希望が作られていた」

カラスが塀に止まる
漂ってきた煙を吸って
ぼとりと地面に
 
「今は何も作っていない」
貴方は仮面を被っている
灰色の仮面
工場の色によく似ている
「でも煙が出ているよ」
煙突を指す子供の指に 奇妙な懐かしさを感じる
「あれは絶望が出す煙」
「絶望?」
「あの工場はね――」

風が吹いた 灰色で埋め尽くされた空に
砂埃が舞った 火星のように渇している地面に

「”何も作り出さない”ことで絶望を量産しているんだ」
「ふーん、変なの。作らないのに作ってるの?」
「つまりそれが絶望ってものだ」
「ふーん」
「聞こえるだろ?何も乗せていないベルトコンベアーが、りんてんりんてんと回ってる」
「どうして何も作らないの?」
「その答えだが――」
貴方は両の手を翳し それを震わせながら少年に向きなし
「君が大きくなったら教えてくれないか?」
「僕には多分、一生分からないよ」

少年が笑った

地面から青い鳥が飛びあがる――先ほどのカラスだ!
灰色を切り裂いて あれでは飛行機雲ではなく飛行機空だ
雲の断面から一粒 雨が地面に落ち
「おいっ、君?」
子供は消えている

貴方は工場に駆け出す
灰色の仮面を外し
少年の笑顔を剝き出しにして

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