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もう一度だけでいいから会いたい人

それは、”パン工場の日雇いのアルバイトで一度だけ会ったおじさん”です。


あの日、日曜日の夜中、横浜のパン工場でひたすら流れてくるパンにごみがついてないかを確認する作業だったり、バターをぬり続ける作業だったりを割り振られ、体力的に辛すぎて僕はもう途中からどうやって逃げだそうかとばかり考えていました。

おじさんはどんな作業でも前向きにテキパキやってて「弱音も吐かずに偉いな」と思つつ、僕も何とか最後まで逃げ出さずに頑張った夜明けの帰り道、

おじさんは『これから土日の深夜にこのバイトを入れようかと思っているんだよね。最近、家族のために家をローンで買って、その支払いをバイト代で賄いたいから』という話をし、『じゃ、これから仕事だから、お疲れ様。』と言って去っていきました。

「ん、平日の昼間に仕事をして、土日の夜中に立ちっぱなしのパン工場のバイトを入れるの? 月曜日の朝はバイト明けでそのまま仕事に向かうの? それを今後ずっと続けていくの!?」

その後、パン工場のバイトを続けなかった僕はおじさんが本当にその生活を続けたかは分かりません。疲れた体にムチ打って土日の夜にも働いて、3歳と言っていた子供と遊ぶ時間がたとえ取れなくても、それがおじさんの家族への愛のカタチだったのだと思います。

疲れているはずのおじさんの顔は清々しく、笑顔で楽しそうに家族のことを話していました。今になってもあのおじさんほど家族への想いを感じた人を知りません。

もしもおじさんが15年以上経った今でもあの時と同じ想いでいてくれたら、もしもおじさんが同じように家族を想う姿をみられたなら、

なにか僕の人生まで鮮やかに彩られるんじゃないか人を想うことが他の人をも豊かにできると思わせてくれるんじゃないか。

もう一度だけでいいから会いたい。

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