「マイペースに編集の道をゆく」②

「月刊カドカワ」は1983年、角川書店が創刊したA5判サイズの文芸誌だ。当初は小説中心のオーッソドックスな内容だったが、私が在籍した89年ころは表紙をミュージシャンが飾り、ミュージシャン、漫画家、タレントを書き手に起用した総合文芸誌に変わっていた。

 編集部内には毎日事件が起き、終始緊張の糸が張り詰めていた。

 新人のころの担当は読者投稿欄や情報欄。編集部に届く愛読者カードを一番に読むのは編集長。だから、チェックも厳しい。ほっこりしたなごやかな読者ページを作ろうものなら、「読者より一歩先いかなきゃ、ダメだよ!」と怒鳴られた。

 一番の編集長命令は、即座に編集部内の電話をとること。コールが鳴り響く前、赤く点滅したら、電話とり競争が始まる。

 そして、電話中の編集長に新たな電話が入ると相手の名前を素早くメモ書きして見せ、編集長がジェスチャーで折り返すか、待ってもらうかのサインを出す。メモ書きが2、3人になると次々にメモが出てきて大騒ぎ。伝言ゲームでヘマをすると怒られた。

 今でも覚えている激怒事件は、「出しておいて」と頼まれた手紙の切手を私が少し曲げて張ったとき。気づきながらも、忙しさにかまかけてそのまま出そうとしたら怒られた。20代だった私は「たかが切手くらいで…」と心の中では思っていた。

 だけど、その後、真っ赤な顔で言われた、「小さな仕事がちゃんとできないヤツに大きな仕事ができるわけない!」は今も肝に銘じている。



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