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早く一緒に脱サラしようね

友人が書いた小説の感想です。
賞に応募中の作品のため、賞の規約に抵触しないよう内容のネタバレを避けて書きます。

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広島県の田舎で生まれた。いわゆる里帰り出産だ。しばらくそこで過ごした後、この年になるまでずっと東京23区内の実家で過ごしている。

所説はあるが、エスキモーには「雪」を示す語彙が200語以上、かなり豊富にあるらしい。人間の世界の認識の仕方は、言語により形成されるという説を裏付ける使い古されたエピソードの1つだ。

世界の認識が先か言語が先かという問題は置いておくとして、雪国で生まれ育った彼女の文章には、いわゆる「雪国的な感性」が息づいていることが見て取れる。

「雪」から私が連想するものといえば、電車の遅延をはじめとした交通の混乱、慣れない雪かき、黒ずんだみぞれが敷き詰められたアスファルト、休校で盛り上がるグループチャット。「雪」は少なくとも生活の一部ではなく、特別なイベントなのである。

23区内の実家の春夏秋冬とお盆休みに親に連れられて訪れる広島の夏しか知らない私には、まったく新しい感性としてインプットされた。読書の醍醐味はこういった感覚を得ることだと考えているので、友人の作品であるという掛け値なしに「読んで良かった!」と満足した。桜庭一樹の『私の男』も雪国が舞台として描かれるが、これは希望に溢れた東京での現在の暮らしに対比し、暗い過去としての「雪国」が過度に露悪的に描かれていたと記憶している。それと比較すると、より中立的な「雪国」を体験できたと思う。

物書きであれば誰しも、すてきな文章を読んだときに必ず「この文章を、私は書き得るか?」と考えてしまうものだと思う。スカウターで相手の戦闘力を測るがごとく、相手の文章を鏡に自分の文章力を測りたくなってしまう。測定の結果、彼女の作品は、明らかに私には書き得ないものであった。

彼女の作品の書き得なさは、情景だけではない。その繊細で詳細過ぎるまでの人間心理の描写もまた然りであった。「若干見下しているから気安く話すことができる」とか「まさか私の友人のあいつに自分よりも先に恋人ができることはないだろう」のような、嫉妬とも軽蔑ともつかない程度の仄暗い感情の描写のリアリティに息を飲んだ。

私は彼女のことを真のHSPだと思っているので、こういう描写が得意なのは解釈一致だった。マルチにクリエイティブな活動をしている彼女だが、小説に手を出して大正解だと思った。

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簡単ではありますが、これで感想とします。
初めての作品、執筆ほんとうにお疲れ様!
社会人になっても感性的な生活を営み続ける戦友として、いつもあまり改まって伝えられないけど、とても尊敬しています。
これからもどうぞよろしく!



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