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♯25 算数を創る②

 25回目のnote投稿となりました、天治郎です.今回も前回に引き続き、「算数を創る」をテーマに論じて?いきます.今回は、「算数を創る」とはどういうことかについて、「創造性」の視点から捉えていきます.
 本稿の要点は、以下の通りです.

  • 創造性は,「創造力(創造的思考力と創造的表現力)」と「創造的人格(創造的態度)」からなるものである.

  • 創造において「児童自らが問題発見をすること」また,「創造の過程を重視すること,そして,そこに充実感を味わわせること」が重要である.

  • 創造性を育成するために必要不可欠な条件は,「算数・数学の学び方を学び,その学びを積み重ねること」,「状況(シツエーション)を整えること」,「学級の受容的な雰囲気及び教師の態度」の3つである.

  • 問題解決を中心とする数学的活動におけて創造性を育むには,いかに数学的に価値ある「問い」を生起させるかが重要である.

 尚、前回のnoteは、こちらです.

(1)恩田彰先生の見解から

 恩田(1994)は,創造性の定義及び概念の研究は,創造性研究にとって出発点であり,また到達点でもあり,その定義は多種多様ではあるがその中に共通な概念が生まれてきているとした上で,創造性について,以下のように述べています.

「創造性とは,新しい価値あるもの,またはアイディアを創り出す能力すなわち創造力,およびそれを基礎づける人格特性すなわち創造的人格である」と考えている.(中略)子どもの創造性を評価する場合には,生み出されるアイディアやものに,その個人にとって価値のある新しさという個人的規準が用いられる.(中略)最近の創造性の研究では,創造活動は所産としてよりも過程として重視され,また創造性の教育では,成人と比べて子どもの場合,とくに個人的価値規準が尊重される.(p.3)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.


 創造性は,「創造力」と「創造的人格」からなるものであり,創造活動は創造の過程が重視されるものであるとともに,子どもの創造性の教育では,特に個人的価値規準が尊重されるものであるとも捉えることができます.さらに,創造活動の動機について,以下のように述べています.

創造活動の動機として,知的好奇心(curiosity)すなわち未知の新しいものを探求しようとする欲求が注目されている.これは創造性からいえば,創造的人格に含まれる概念で,探求心,目標追求性,冒険心につながり,欲求としては,創造の欲求,新しい経験の欲求,達成動機と関連をもち,野心,攻撃性とも結びつく.知的好奇心は,幼児から芽生えるが,適切な訓練と教育によって,科学技術の発明・発見および芸術の創作活動の原動力になる.そして未知・未来の世界への挑戦を促し,問題解決力および創造力を育てることになるのである.(p.5)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

 創造活動の本質は,児童の知的好奇心であるといえます.加えて,創造活動には,「個人的なもの」,「集団的なもの」,「組織的なもの」の3つがあるとした上で,過去の偉大な芸術作品や科学的業績を踏まえ,

創造的集団では,個人創造性も伸びるが,個人の活動の総合以上の創造活動が生まれるのである.その意味で集団や組織が創造活動を生み出すのである.(p.6)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

と述べてています.学校教育の立場から考えれば,「算数を創る」上で,また,その力を伸ばす上で,学級集団の影響が大きいといえるでしょう。

 上述したように,恩田(1994)は,創造性を大きく「創造力」と「創造的人格」とに分けられるとしています。そして,創造力は,「創造的思考」と「創造的技能」に分けることができるとした上で,「創造的思考」について,以下のように述べています.

創造的思考は,創造的想像と大体同じものと考えられる.いずれも想像と思考の両方の機能を持っている.すなわち想像力によって新しいイメージを生み出し,これを思考力によって具体化するのである.また創造的思考は,発散的思考(思考の方向が多種多様に変わっていく思考)と収束的思考(ある一定の方向に導かれていく思考),あるいは直観的思考と論理的思考(分析的思考)とが,それぞれ統合されたものとしてとらえることができる.(p.100)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

 発散的思考,収束的思考,直観,論理的思考は,算数・数学において必要不可欠な要素です(日本数学教育学会出版部,2011).一方,「創造的技能」については,以下のように述べています.

創造的技能(創造的表現力)は,ある基礎的な技術を習得し,熟達することによって生まれてくる感覚・運動的能力で,従来の技術水準を越え,新しい高次の水準に達したものである.これには創造的思考力が生み出すアイデアが基礎になっている.これが仕上げられ,技術的な手続きによって所産が生み出される.もう一つは,基礎的な技術のドリルが根底となり,その感覚・運動的能力の熟達によって新しい所産が生まれる場合である.すなわち創造的技能には創造的思考力または技術のドリルが重要な基礎になっている.(p.100)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

 算数・数学教育において,思考力と表現力には互恵関係があるとされるが,創造性という視点に鑑みても,同様であると捉えることができます.尚,「創造的人格」については,創造的態度として捉えることができるとしています.

 恩田(1994)は,創造性を育成することについて,以下のように述べています.

創造性は,生得的なものであって,それが開発しうる条件を整えることによって,現れるものである.創造性の側面である創造的思考,創造的技能および創造的態度は,教育や環境の整備によって,その成長を促進することができるのである.(p.115)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

 その上で,アメリカの創造性教育の研究者であるSmith,J,A.の考えを参考に,創造性を育成する条件として,「知的条件」,「物質的条件」,「心理的条件」,「教育的条件」の4点を挙げています(pp.115-117).
 知的条件については,

創造的思考は,発散的思考(思考の方向が多種多様に変わっていく思考)と収束的思考(ある一定の方向に導かれていく思考)とが統合されたものとしてとらえることができる.そのさい,創造的思考の育成には,発散的思考の訓練が強調されている.(p.115)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

と述べています.そして,

子どもの創造的思考を伸ばすためには,どのような発問をしたらよいか検討することが必要である.「…したのはなぜか」「…してみてはどうか」「…するには,どうしたらよいか」「…したら.どうなるか」「そのほかにないか」「…についてはどう思うか」「…するにはどんなことが必要か」など,状況によって,いろいろな発問ができると思う.これらの発問は,学習を動機づけるのみならず,多面的に考えさせるのに役立つのである.(p.106,太字筆者)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

とも述べ,教師の発問の重要性も指摘しています.
 物質的条件については,

子どもがアイデアを出し,問題を解決し,創造の夢を育てるには,教育施設・設備を充実することが必要である(p.115)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

と述べています.そして,

創造への意欲をよび起こし,アイデアの開発を促すような教育施設,教具,教材などを充実し,整備することが必要である.(p.107)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

とも述べ,教具・教材の重要性も指摘しています.
 心理的条件については,「(ア)受容的な雰囲気」,「(イ)適当な動機づけと緊張」,「(ウ)教師の態度」の3つの視点から論じています.
 (ア)については,どんな考えも創造的なアイデアを出すのに必要なこととして受容されなければならないとしています.そのためにも,教師は子ども一人ひとりを信頼し,自分に能力のあることを知らせ,自信を持たせるようにすべきだと主張しています.
 (イ)については,教師は子どもに,創造的努力に必要な積極的な緊張を引き起こす状況をつくることができるとしています.
 (ウ)については,教師が創造的であれば,生徒も同じように創造することに喜びや満足を経験し,それを望むようになるとしています.そのためにも,生徒に自分の行動に責任を持たせ,自発的に動き出すまで待つ態度が必要であると主張しています.そして,以下のように述べていることからも,やはり学級集団の影響は大きいといえるでしょう.

子どもは教師や友だちとの間に理解と安心感と愛情を感じるとき,健全な創造性が成長していくのである.(p.107)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

 教育的条件については,

子どもの能力の発達をよく見ることが必要である.(中略)創造活動には,その結果が予想できないことがある.そこで創造性の育成には,子どもの自発的活動を見守る態度が必要である.(p.117)

恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

と述べています.
 知的条件については「算数・数学の学び方を学び,その学びを積み重ねること」,物質的条件については「状況を整えること」,心理的条件及び教育的条件については,「学級の受容的な雰囲気及び教師の態度」と捉えることができ,これらが創造性を育成するために必要不可欠であるといえます.加えて,恩田(1994,pp.118-120)はSmith,J,A.の考えにもとづいて,創造性教育の原理を18点挙げています.中でも,以下の2点に着目しました.

7 生徒が自分のアイデアやイメージを出して,それを発展させる.自ら問題を見つけ,またはつくり出して,それを自ら解決する.(p.119)

9 創造の所産も大切だが,それ以上に創造の過程が大切である.創造活動は,創造の所産にはちがいないが,創造過程でもある.創造者は所産よりも過程を重視する.創造者は創造過程を体験しているのであって,終わりはない.すべてが過程であるからだ.その意味で,創造性を育成するには,創造していることに喜びと満足を体験させることが大切である(pp.117-118).

    恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

 1つ目(7)は,発展的な考え方及び問題発見です.問題発見と創造について,以下のように述べています.

問題発見は創造的思考において重要なものである.また,はじめに何か解決しなければ落ちつかないような強い問題意識を起こすことは,創造への欲求となって創造への原動力となるのである.(p.159)

  恩田彰(1994).創造性教育の展開.恒星社厚生閣.

 創造において「児童自らが問題発見をすること」の重要性が窺えます.2つ目(9)からは,「創造の過程を重視すること,そして,そこに充実感を味わわせること」の重要性が窺えます.詳しくは次回以降に述べますが,どちらも学習指導要領において,重要視されていることです.

(2)飯田先生の見解から

 一方,飯田(1990)は,算数・数学教育における創造性の議論について,

算数・数学教育で創造性が特に重視され始めたのは昭和40年代からであり,数学的な考え方を伸ばし,創造的発見的能力を育てることが,算数・数学教育のねらいであると言われてきた.(p.156)

 飯田慎司(1990).シツェーションからの数学的活動における創造性の開発について.平林一榮先生頌寿記念出版会編,数学教育学のパースペクティブ(pp.151-171).聖文社.

と述べた上で,中島健三氏の「数学的な考え方」観が明快なものであるとしています.
 また,平林一榮氏の算数・数学の授業の相をもとに,授業で扱う数学的活動として,「技能習得活動」,「理解活動」,「問題解決活動」の3つに分類できるとしています.
 さらに,3つの数学的活動の目的として「概念の形成」と「問題の解決」の2点を挙げた上で,日常の算数・数学の指導における創造的な過程について,数学的活動を中心に考察しています.
 ここでは,問題解決を中心とする数学的活動における創造性について取り挙げます.飯田(1990)はD.W.Haylockの示唆をもとに,「問題設定における創造性」,「問題解決における創造性」,「再定義における創造性」の 3つの段階で見解を述べています.
 「問題設定における創造性」の開発は,大きく分けて「シツェーション(1)(S)からの問題(P)設定」,「問題の発展的な扱い」の2つの方法があるとしています(pp.157-158).1つ目については,表記論的多様性を考慮すればさらに細かく類型化できるとし,操作的シツェーションから問題を設定させる場合,図的シツェーションから問題を設定させる場合,言語的シツェーションから問題を設定させる場合の具体例を挙げています.
 2つ目については,以下のように述べています.

原問題の提示とその解決を先行させて,原問題と似た問題を設定させたり,原問題の条件の一部を変えた問題をさせたりする方法である.(中略)設定された問題を類型化する際には,原問題で扱われた「事物」を変えるとか「問題構造」を変えるなどといった観点が,創造性と関わりをもつことになる.(p.158)

飯田慎司(1990).シツェーションからの数学的活動における創造性の開発について.平林一榮先生頌寿記念出版会編,数学教育学のパースペクティブ(pp.151-171).聖文社.

 「問題解決における創造性」の開発にも,大きく分けて「多様な解決を要求する方法」,「オープンエンドの問題の解決を要求する方法」の2つの方法があるとしています(pp.159-160).
 「再定義における創造性」については,以下のように述べています.

シツェーションの再定義には,再定義後の問題設定を保存する場合と保存しない場合がある.保存しないで新たな問題設定を考えるとなると,後述のWhat if not?の方法と同一視できる.(p.161)

飯田慎司(1990).シツェーションからの数学的活動における創造性の開発について.平林一榮先生頌寿記念出版会編,数学教育学のパースペクティブ(pp.151-171).聖文社.


 「問題設定における創造性」,「問題解決における創造性」,「再定義における創造性」の 3つのどの段階においても,数学的に価値ある「問い」を生起することが重要であると捉えることができます.

(3)さいごに

 これまでの検討してきたことの要点は,以下の通りです.

  • 創造性は,「創造力(創造的思考力と創造的表現力)」と「創造的人格(創造的態度)」からなるものである.

  • 創造において「児童自らが問題発見をすること」また,「創造の過程を重視すること,そして,そこに充実感を味わわせること」が重要である.

  • 創造性を育成するために必要不可欠な条件は,「算数・数学の学び方を学び,その学びを積み重ねること」,「状況(シツエーション)を整えること」,「学級の受容的な雰囲気及び教師の態度」の3つである.

  • 問題解決を中心とする数学的活動におけて創造性を育むには,いかに数学的に価値ある「問い」を生起させるかが重要である.

 他方,岩田(2001)は,個人の新しさや価値といった観点から創造性を捉えた場合の創造性について,

創造性は,極めて多様な能力を含む概念であるがため,数学教育学における創造性研究においては,創造性を外延的に詳細に規定することはあまり生産的ではないと考える.それよりはむしろ,それを特徴付けるものについて探求することの方が良いであろう.(p.284,太字筆者)

岩田耕司(2001).数学教育における創造性に関する基礎的考察-数学的な創造性の本質的要素について-.日本数学教育学会第34回数学教育論文発表会論文集,283-288.

と述べています.
 恩田氏,飯田氏,岩田氏の見解より,本研究においては,創造性,つまり「算数・数学を創る」ことを「問い」という視点で捉えていくこととしました.

 いかがだったでしょうか.最後までお読みいただき、ありがとうございました.御意見等お待ちしております.

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