夜といつまでも 第五話

過ぎてしまえば短かった夏休みが終わった。残暑の風に秋の気配、今日もヨルと学校から一緒に帰る。
「まひる、背大きくなったね」
ヨルに言われるまで気がつかなかった。そう言えば制服のズボンの丈が短くなった気がする。
「僕はもう大きくはならないのかな」
もう高校生と言っても通用しないくらい、ヨルの背は大きかった。
「まひると同じ服、着てみたかったな」
着ることのなかった学生服。同じ速度で生きられない僕とヨル。ふたりで教室で笑いあって、ふざけて先生にはたかれて、部活は同じところに入って、切磋琢磨しながら大きくなる。そんな光景は夢の中にしかなかった。

僕達はどこにいるんだろう。
僕達はどこにいくのだろう。

朝、また今日もヨルと家の前で待ち合わせだ。今日も一緒に学校に行く。ああ、そう言えばもうそろそろ定期テストの時期、面倒くさいなあ。
「ヨルー」
外で待ちながら5分くらいたった。名前を呼んでもなかなか出て来ないヨル。何してるのかなあ、遅刻しちゃうよ。
「ヨ……」
扉を開けて出てきたヨルのその姿を見たとき、僕は一瞬誰かわからなかった。初めて見たスーツ姿のヨル。
「ヨ、ヨルどうしたの?!」
「遠くに行こう、まひる」

『魔女が僕を呼んでいる』

そう言ってヨルは僕の手を握り走り出した。

「まひるが制服でも僕がスーツでいたら問題ないだろう?警察に聞かれても僕を『ほごしゃ』だと言えばいいんだ」
それは、そうかもしれないけど……。
「一体どこに行くの?ヨル」
「行けるところまで!」
秋の朝はまだ始まったばかりだ。

ラッシュと正反対の地下鉄に乗った。
「ね、ねぇ、ヨル。この方向に行くと魔女がいるの?」
「いや、それは僕にもわからない」
「わからないって……」
電車は地下から地上へ。県を越えたのか、見知らぬ景色が続いている。
「……そんな、気がするんだ」
「え?」
「見知らぬ景色の中に、本当の僕がいるって」
空席の目立つ車内。だけど僕らは席には座らず外を見ていた。
「……ヨルは、思い出したいの?」
見知らぬ景色の中にいる、僕の生まれる前のヨル。なんだか彼が遠くに行ってしまいそうで、僕は急に不安になった。だけどヨルはそんな不安を見透かしたように笑う。
「僕はこれからもまひると一緒にいたいから、思い出そうと決めたんだよ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?