夜といつまでも 第四話

真夏の雨は空があまりにも暗くて少し怖い。あ、雷が何処かに落ちた。ヨルはその度に怯え、僕を見る。今日も僕はヨルの部屋に遊びに来ていた。ひまわり畑で写真を山ほど撮ったヨルは僕と写真を組み合わせて絵描いている途中。
ヨルの絵が好きだ。僕だけじゃなく他のものも描けばいいのに。鉛筆を進めるヨルをからかうように、また雷が何処かに落ちる。その瞬間、停電だ。ヨルの悲鳴、僕は大丈夫だよとヨルに言ったのに、彼は暗闇のなか悲鳴をあげ続けて泣き出した。
しばらくして電気がついた。ほら大したことない、大丈夫だったじゃないか。静かになったヨルを見ると、彼はいままでに見せたことのないほど呆然としている。
「ヨル?」
「思い出した。そう、雷の夜だ……」
「え?」
「雷の夜、僕は死んだ」

「まひる、遠い、遠い昔。僕が僕じゃなかった頃の話をするよ」
さっきまで泣いていたヨルじゃない。23歳に戻ってしまったようなヨルは、しっかりとした口調で話出した。

「その洋館には近づいてはいけないよ。町外れのそこには魔女が住んでいるんだって」

その日ぼくは急な雨の中、濡れまいと必死で一生懸命走っていた。所々で雷の音がして怖い。早く家に帰りたい。怖くて涙がとまらないけど、早く帰らないとみんなが心配する。その雷の音が大きくなっては落ちていく。もうどこでもいい、隠れよう。
件の洋館に来た。
今は使われてるのかわからない扉を開けようとしたら鍵がかかっている。こんなところでも、まだ誰か住んでいたんだと、仕方なく軒下で雨宿り。
やまない雨、ぼくはいつになったら帰れるのかな。家に帰ったら絵を描いて、昨日買った漫画の続きを読むんだ。
「そこでなにをしてるの」
後ろから突然話しかけられた。髪の長い女性、でもどこか彼女は浮世離れしていてぼくは不安になった。
「か、雷が怖くて……」
そういうと彼女は少し笑う。
「いらっしゃい」
そのままスルスルと館に入っていく。戸惑いつつもぼくはその後を追いかけた。暗い館の中では、囁く女性だけがリアルで、魔女とはこの人のことだろうかと様子を伺う。
暗い暗い部屋の奥。
「ひとがみんな良いものだと思わない方がいいわ」
暗闇のなか、魔女の言葉。多分彼女は笑っている。
「……ここまで来て私が貴方になにもしないと思っているの?坊や」

そこで記憶は途切れた。
「ヨル……それって本当の話なの?」
「さあ、わからない。ただ僕は怖くて仕方がなかったのは覚えてる」
「死んだ、ってその洋館で?でもこの辺に洋館なんか見たことない」
ではここではない何処かに、本当のヨルと今のヨルのルーツが存在するのだ。
「……でもまひる、思い出したらもう元には戻れない。そんな気がするよ」

その晩僕は夢を見た。
長い手を絡ませる髪の長い女性に、ヨルが連れて行かれてしまう。手を伸ばしても届かなくて、僕は泣きながらヨルの名前を呼んだ。
ヨルがヨルで無ければきっと出会わなかったはずなのに。
大好きだ、ヨル。大切な友達。
きっと僕とヨルは離れては生きることができない、そんな運命の元ここにいる。

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