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『窓』no,9

最初は軽く(キンキンに冷えた)ジョッキーの生ビールで始まったお酒が…
いつの間にか、二人とも芋焼酎の オン ザロックに変わっていた。

紡車紫織(つむしおり)は、大変な酒豪(しゅごう)であった…
一方、私(妹尾錠治)は目の前の焼酎のボトルが、後(あと)数センチ(約2センチ程度)の酒を残すだけの状況を確認すると急に酔いが回り出して…
『紡車さん、お酒、強いですねぇ…』
『芋焼酎が初めてって本当ですか…』

二人ともビールから芋焼酎に変わった頃には可愛く 一杯、一杯、ロック グラスで おかわり していたのに…

『あら、妹尾さんが 「ここの芋焼酎が旨すぎる」と言って(あなたが)ボトル(一瓶)で たのんだのよ!』
『ぇ… 忘れちゃったの!』
彼女が可愛い笑顔で、酔っぱらた(私の)顔を下から覗き込む様に 言ってきた…( 話して来た…)

『あれ、そうでしたか…』
(私は 小さく言い放った…)

『それにしても、ここまで癖の強い芋焼酎を (ロック(アイス)で飲んでいるとはいえ、) ストレートで 飲み続けた 貴女(あなた)は 何者ですか…』
今度は 周りも聞こえてしまうくらいの声の大きさになってしまった…

すると、紡車紫織が…
『もう、そろそろ、お開きにしましょうか…』と言い出した。

食事もお酒も最高に美味しくて、目の前には女優さんの美貌を蓄えた様な美女がいる…

「こんな夢の様な状況を一方的に終演の幕引き が されてなるものか…!」と、妹尾錠治は思いながらも、次第に 酔い水が 自分の頭の中にも染み出してきて、彼女と会話する口の動きが 微妙に不自然なのを感じていた…(妹尾錠治)

『妹尾さん、私が家まで送りますますから…、本当に…もう帰りましょう!』
紡車紫織が 先ほどの優しい口調とは 異なる雰囲気で言った…

『すみません、お水、下さい!』
(妹尾錠治が) お店の方に頼んだ。

『 分かりました!今日のところは…ねぇ。』
二人が目を合わせて、笑った。
そして、又、笑った!

その笑いの意味は、二人とも良く理解していたが…
周囲の人々には「邪魔な笑い声だったに違いない…」と 紡車紫織だけは感じていた。
それでも、彼女(紡車紫織)は 笑わずには要(い)られなかった。

彼女も同様に妹尾錠治と二人で過ごした時間を心から楽しんでいたからである。

『紡車さん、申し訳ないが…この財布のお金で支払いを済ませてくれませんか…』と私は朦朧(もうろう)としてきた頭で彼女に御願いすると…
『はい、分かりました!』
と言ってお店の精算を済ませてくれました。
『妹尾さん、私も立場がありますので、ちゃんと割り勘にしておきましたからねぇ。』
と 妹尾錠治の腕を抱えて 二人は、お店の方が(お店の)少し重い引き戸を開けてくれた所を 一緒に くぐり抜けて 表に出ると… 既(すで)に 真っ暗な 夜中に なっていた。

『紡車さん、石田ゆり子 に似ているって 言われた事 ないですか…』

急に頭に浮かんだ 女優さんの名前を彼女(紡車紫織)に 私(妹尾錠治)は酔った勢いで ぶつけてみた。
「彼女は何も応えず…大声で笑った!」
周囲の暗さを一気(いっき)に明るくするような声で…

それから、約50メーターは歩いただろうか…

『妹尾さん、着きましたよ!』
『あなたの(住む)マンションですょ 』
『鍵は…どこ?』
紡車紫織が優しく私に話し掛けて来た…
『あぁ、そっか…』
彼女と肩を寄せ合って歩いている内に、私は少しづつ うとうと した眠気の中で生きていた。

『すまない…頼む!』
と言って(妹尾錠治は)彼女に部屋の鍵を渡すと…
マンションの出入り口のオートロック解除も同じ鍵を使う(事を)説明する(事も)必要なく…

(彼女は)既に私のマンションのベランダの様なエントランスまで来ているので…(酔っぱらた私のエスコートは容易だと思った…)

『はい、無事に着きましたよ!』

(私の)世間との境界線、その内側の(ベランダの様な)エントランスまで来て 彼女は私に鍵を返してきた 。

『あれ、上手く鍵穴に鍵が入れられないぞ!』

彼女が私の様子を見て、笑った。

『まぁまぁ…、かなり酔いましたねぇ!』

本当に彼女の言う通りであった。
実は一人では、全(まった)く家でも一人酒(ひとりざけ)しない男(妹尾錠治)であった。

大学時代に急性アルコール中毒症状で入院した経験が…
良い意味で後遺症となって一人ではアルコールを口にする事は 全くしてなかったのである。

目の前に毅然(きぜん)と立ちはだかる第二玄関扉は(大きく)厚い硝子の「窓」の様な存在で…
それを開けちゃうと…
その直ぐ先から「リビングルーム」と 「ベットルーム」が …、銭湯の番台から見える「女湯」と「男湯」に 別れる様に…(私の)部屋全体が丸見えなのである。

『じゃぁ、開けますねぇ!』
紡車紫織が私の部屋に入った感動的瞬間でもあった。

『ありがとうございます』
いろんな思いが混在(こんざい)したままで…
つい出てしまった…(妹尾錠治なりの)意味深い言葉でした。

そして…

『紡車さん、(ここで)少し休んでいってください!』
『冷蔵庫の中の物を御自由にどうぞ…』
妹尾錠治は酔いが回る意識の中でも…
そう言い放つと…(妹尾錠治は)
ベットの上に倒れ込む様(最後の「KO」ゴングの音も聞かないまま…)に(ベットマットに)沈んだ。

「芋」だろうが「麦」だろうが焼酎は…やっぱり膝(ひざ)からの足に(足全体に)来るなぁ…(と、妹尾錠治は思った…)
『もう、立ってられないわ…』
(妹尾錠治は)自虐的に笑った…

部屋のライトは自動でついて、リモコンで消える様に設定してあるが…
部屋の鍵は自動でロックは 掛(か)からない 。

『妹尾さん、お水、お水を飲んで…』
と 紡車紫織が(グラスに注いだ)ミネラルウォーターを 私の顔の側(そば)まで持ってきた。

『あぁ、ありがとうございます』 

妹尾錠治は紡車紫織からグラスのミネラルウォーターを受け取ると、半分近くまで 一気に飲んだ。 

『ねぇ、ちゃんと鍵を掛けてから寝て下さいねぇ…』
と、心配そうに彼女(紡車紫織)が言った。

その言葉の後で…

彼女は静かに…
あの出入口の『窓』の前に立って 向かいの避難階段を下から上まで…そして 上から下まで 頭だけを動かしながら見詰めていた。

暫(しばら)くして…

『ねぇ、妹尾さん…あの夜に…ここから…倉崎(聖士)が階段を下りて来るのを見てないの…』

「つまり、資産家の三輪龍二がビルの屋上から落下して亡くなった夜の日の事である。」

その頃に(私が…)倉崎聖士が 向かいの避難階段を使っているのを(私が)目撃していなかと…」私(妹尾錠治)に、確かめる様に(紡車紫織が)聞いてきたのだった。

『まさかぁ! 社長(倉崎聖士)は…その前日から東京に出張中で(堺には)居(い)なかったんだょ!』

私が(彼女に)社長(倉崎聖士)の当時の状況を説明すると…彼女は既に会社の従業員からも事情聴取を終えていたかのような口ぶりで……

『本当に出張してたんでしょうか…』
( 紡車紫織が独り言の様に小さく呟く…)

私はベットの上で、(確かに聞こえた)彼女の呟いた言葉には反応せずに…その言葉の意味を噛みしめていた。

暫くの沈黙が 長くも 短くも 感じない程度の…ちょうど良い頃合いで…

(私は)残りの(グラスの)ミネラルウォーターを飲み干し、ベットから(手をつき立てながら)起き上がると…

『大丈夫…!』
紡車紫織が言った…

『うん、もう大丈夫!』
妹尾錠治は静かに応えた…

『じゃぁ、帰るから…、ちゃんと鍵しめてねぇ…』
紡車紫織が…軽く微笑んで、目の前の大きな『窓』のドアノブを ひねって外側に押し出し 外に出る…

その瞬間…

初夏の夜風が静かに部屋に流れ込んできた 。
(そして…)その時の感覚は、(この後の) 二人の行く先の暗雲を予感させる 「混沌とした雰囲気」を醸(かも)し出していた。

…………………つづく……………………

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