歌集の電子書籍出版についての考察

2013年、歌集『2月31日の空』をキンドル版のみで出版した。当時まだメジャーとはいえなかった電子書籍での出版には不安も多かった。おおむね好意的に受け入れてもらえたが、一方で「歌集とは認められない」という風潮もあり、戸惑ったことを覚えている。

以下、「かばん2013年12月号」の本歌集の特集に寄せた「記録」を掲載する。あれからすでに6年が過ぎており状況は変わりつつあるが、一つの冒険の記録として提示したい。

はじめに

歌集を出版してから半年以上が過ぎた。本稿を書くにあたって久しぶりに拙歌集を読みかえしてみたが、もう数年が過ぎてしまったかのような感覚で、歌いたいものの日々の変化を強く感じているところである。

さて、以下歌集を電子書籍で出版する際に考えた事や手間取ったことなどを記していきたい。今後歌集等の電子書籍をお考えの方に少しでも参考になればと思う。

ただし、私が電子書籍を出版したのは半年前のことであり、細かい出版手順等については変わっている部分もあるかと思う。そのため具体的な手順や作業等の記述は本稿では割愛する。興味を持たれた方は出版サイトのヘルプページ等をご覧いただきたい。

歌集のあとがきでも触れているが、「電子」かどうかに関わらず、自分の作歌に一区切りつけたかったことと、かばん会員の第一歌集出版が続いたことが直接的な歌集出版の動機である。それを前提としつつ、以下項目を分けながら、歌集の電子書籍出版について考えたことを記しておきたい。

1.歌数を少なめにしつつコンセプトをはっきりさせたかった

電子書籍として出版した一番の理由は、コンセプトのはっきりした歌集にしたかったため、二百首強くらいでコンパクトにまとめたかったという内容面からの要請があった、ということである。製本された歌集とは違い、収録歌集が少なくても「ペラペラ感」は無い(ちなみに拙歌集の収録歌は二百一首である)。もし製本されたものを出版することにしていたら構成を大きく変えなければいけなかっただろう。

また今回「解説」を依頼しなかったのは、電子書籍を読んで気になることがあればそのままインターネット上に掲載されるであろう購入者のレビューやブログ等を参照していただければよいと考えたからである。

2.思いついた時にどこでも読める

「多くの方に気軽に手軽に読んでもらいたい。外でも読んでもらえたら」という思いがあった。川原でも電車内でも山の上でも、スマートフォン等があれば思いついた時にどこでも読んでもらえる。あえて持ち出す必要もないのだ。

ただし短歌を読む方の年齢層は高く、電子書籍として出したら逆に広く読んでもらうのは難しいかもしれない、とも思った。しかし製本された歌集を手に取ってもらうことも実はそんなに易しいことではなく、短歌を読まない方や若い方に届けるためにもまだ電子書籍のほうがメリットがある、と決心した。

3.安価で入手しやすい(制作コストも安い)

歌集は価格が高く絶版も多い。その点においては、コストもかからず安価で絶版の心配もない電子書籍のほうがメリットがある。

実際にかかったコストは、表紙のデザイン料、謹呈はがき代+諸雑費程度である(元のファイル制作を業者に依頼すると約四万円程度かかるとのことだったが、自分で作成したため、今回この部分の経費はゼロである)。

ちなみに発売以降設定している拙歌集の価格は二百五十円である。これは変更も可能である。

4.なぜキンドルストアか

アマゾンは利用者が多く、短歌を知らない人にも目に留まりやすい。知人にも「アマゾンで売ってるよ。スマホで読めるよ」と気軽に伝えられる。

また「キンドル」という響き自体が(特に英語でKindleと書くと)、詩のようだ。そう感じたこともキンドルストアを選んだ理由である。将来性や信頼感もキンドルストアからは感じられた。後述するが謹呈キャンペーンを行う関係上アマゾン限定でないといけなかったということもある。

商品紹介のページも自由に編集できる。今回は山田航さんに「帯」として執筆していただいたものをベースに、知人に依頼し作成してもらった。

5.歌集として扱ってもらえるかどうかの不安

第一歌集をキンドル版のみで出版するということは、正直勇気のいることだった。「歌集出版と認識されず、ホームページ上に歌を掲載することの延長線上で捉えられたりしたら、それは本意ではない」などと考え、不安もあった。あくまで「歌集」であるので、出版後は構成や一首一首をいじらないことが原則で、ウェブ上のように気に入らなければ消してしまうということができない。その覚悟がしっかりと伝わるかどうか(実はこの点についてはいまだに不安や不満がないわけではない)。

ただ拙歌集に先行してキンドルのみで出版されていた光森裕樹さんの第二歌集『うづまき管だより』が出ていることが安心材料でもあった。光森さんのキンドル歌集をベースにしながら電子書籍での歌集出版が進むだろうという見通しを持てたため、「では続いていこう」とも思った次第である。

6.謹呈の問題

当然ながら電子書籍の歌集であるから、製本されたものを郵送することはできない。そのためアマゾンで一定の条件(独占販売期間を設けること等)をクリアした場合に実施できる「五日間の無料キャンペーン」を利用し、そのキャンペーンのご案内をはがきにて告知することで謹呈とした(戻ってきてしまったはがきもあり、メールやSNS等も活用した)。

その際に問題となったのが時差。アマゾンの出版システムがアメリカ基準のため、日本で三月二十日よりスタート予定だったキャンペーンを、設定上では十九日スタートにしておく必要があった(この情報は出版の際の説明ページにはなく、出版者同士のヘルプ用掲示板を読んでいてみつけた。これを偶然見つけなければ二十日の午後五時スタートになり、はがきを受け取った方を混乱させてしまったかもしれない。こうした小さなことにかなり労力を使ったように思う)。

また、謹呈はがきを送ってはみたものの、受け取り手が読める環境かどうかが分からないことも悩みだった。歌集を読んでいただくには、はがきを受け取った方に何かしらの機器があり、かつ能動的にアクセスしダウンロードしてもらう必要がある。実際に読んでほしい方に「読めないんです」と言われることも多かった。

7.ファイル変換等の問題

アップしたファイルはアマゾンのほうで審査され、キンドルで表示できるように変換してくれる。入校はワードでも受け付けてもらえるので、その気になれば今打っているこの文をこのまま審査に出すことも可能である。

ただレイアウトがどうなるのかは、出版してみないと分からない面もある(歌集については文字ばかりなので大きな問題ではないが)。パソコン上でプレビューできるツールはあるのだが必ずしも正確に再現されているとはいえない。実際に出版後各種スマートフォンで確認したところ、iOS用のキンドルアプリだと意図しない位置にタイトルが来てしまうページがあり、後日入校データを調整して修正版をアップした。この点、ある程度ファイル変換やネット利用に関する知識がないとキツイかもしれない。

おわりに

以上が電子書籍出版について、考えたこと悩んだことである。書ききれなかった小さな問題がまだまだあり多くの労力をそちらに注いだが、無事に出版が続いている現在それもまたよかったと思える。まだまだ開発途上の電子書籍であるが、今後の飛躍をさらに期待したい。

【初出】
・かばん2013年12月号より

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