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歌集『2月31日の空』より自選20首

noteを作成して初の記事になります。自己紹介として、kindle版歌集『2月31日の空』から、かばん2013年12月号に掲載した自選20首を掲載します。

■ 2月31日の空(抄録)

てつぼうに手のとどかない子のために広がっている青空がある

二十秒ごとに「ね」という先生の「ね」のリズムにて解く化学式

フロイトとユングの違い説く友の首から生える一本のヒゲ

日本史のノートに線をひく少女よ君にとっての古墳とは何?

たいていは忘れてしまう ビルの間に割れた水そうあったことなど

川べりの工場(こうば)を染める夕まぐれ どうして誰もいないのだろう

白色に濃さのあること思いつつ牛乳を飲む 雨の降る朝

人は散り道具をしまい芸人はまず背中から自分に戻る

『基礎問題精講』を解く玉ねぎにすかしたような日の射す部屋で

ダイヤルの0が回って戻る間のようなあなたの大きなあくび

人類の得てきたどんな権利より優先されるおばちゃんのチャリ

一世代前の光に照らされて階下の書庫に探す判例

閉じられて光を持たぬ文字たちが 、 、 。と、消えてゆく午後

僕が僕であろうとすれば花は咲く僕から少し離れた場所で

アスファルトの剥げた国道 半島はひとまわりほどの過去をとどめる

人ひとり死んでくような風が吹く16号の地下くぐるたび

開通を待つ海道の信号機目の黒きまま並んでおりぬ

皆誰かを記憶の中に探しおり蝉しぐれとは晩夏の脳波

呼吸器をはずしたような静けさにときはなたれて海は金色

僕の見る空はいつでも春を待つ2月31日の空

『2月31日の空』(2013 Amazon Services International, Inc)


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