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映画を観て感じたベートーヴェンの魂の叫び

エリーゼ音楽祭という大人のためのピアノコンクールで「エリーゼのために」を弾くということで、兼ねてから気になっていた映画がこちら。

ベートーヴェンについては漫画やWebの知識で大まかに知っていたものの、映像の方がイメージが湧くんじゃないかと思ってアマプラで見つけていたものです。

本当は何ヶ月か前に見つけていたんですが、本番5日前に駆け込みで見たという・・

こちらの映画自体は1935年にフランスで作られたもので、映像も白黒なんですが、その分ベートーヴェンの生きた時代を感じられるのではないかと期待していました。

ということでこちらの感想を書いていきたいと思います。

※この映画がどこまで史実に忠実に作られたものなのかは分かりませんし、脚色やそもそも諸説あることもあると思いますが、今回はこの映画の内容を元に書いていきます。

※本文で映画内のセリフを2カ所引用しています。映画を観る前に知りたくない方はご注意ください。

ベートヴェンを襲った2つの悲しみ

映画はベートーヴェンに訪れた2つの悲しみを元に展開していきます。

1つは、ベートーヴェンが愛する女性ジュリエッタの結婚です。

おじさまと麗しい女性くらい年齢差のある2人ですが、ベートーベンが一方的にジュリエッタを慕っていたというわけではなく、ジュリエッタもベートーヴェンに強く惹かれていました。

けれども、その年齢差やまだ音楽も評価されずに身分も違っていたベートーヴェンとの結婚を両親に強く反対され、ジュリエッタは他の男性と結婚するのでした。

お互い愛し合っていたのに別れなければいけないというのがなんとも切なくて、別れ際にベートヴェンが2人で木の下で過ごした夜の思い出になぞらえて演奏する「月光」が何とも切なく、悲しく聞こえました。こんなに悲しく聞こえた月光は本当に初めてでした。

そして、そこに追い打ちをかけるように訪れたのが聴力の喪失です。

ベートーヴェンの耳が悪かったのは有名な話なのでもちろん知っていましたが、音楽に生きていた人がある朝起きたら何も聞こえなかったことがどれだけ辛いことなのか全くと言っていいほど想像できていなかったことに気付かされました。

もちろん音楽もそうなのですが、音楽だけでなく日常生活の中でのありとあらゆる音が聞こえなくなってしまった衝撃がどのようなものなのか。

「愛する人の声…、森のざわめき…、鳥の歌声も…、もはや聞こえない」

『楽聖ベートーヴェン』

この言葉を見たとき、思わず涙せずにはいられなかったです。

「エリーゼのために」について誤解していたこと

ベートーヴェンが「エリーゼのために」を贈ったテレーゼという女性について、僕はベートーヴェンが叶わぬ恋をした相手だと思っていましたし、40歳前後と20歳前後で倍も年齢が違ったことからベートヴェンが一方的にテレーゼに恋心を抱いていたものだと思っていました。

ところがどうやらそうではなかったようなのです。

むしろテレーゼもベートーヴェンのことを愛して慕っていたし、献身的なまでにベートーヴェンに尽くし、支え、心配していました。

映画の中では2人はあるとき婚約までしていて、挙式も行う予定だったのですが、「医者に止められたから」とだけいって結婚することをやめてしまったのです。

ここは描写があっさりとしていて、少し謎が残るところなのですが、「エリーゼのために」の曲をテレーゼに贈った時期も婚約をした2人が周囲から祝福されているようなタイミングでした。

僕はてっきりテレーゼへの恋が叶わなかった悲しい思いを曲にしたのだと思っていたんですが、テレーゼと過ごす中で書いた曲となるとだいぶ話が変わります。

そうなると、テレーゼへの想いと、別れたものの愛し続けていたジュリエッタへの想い、そして自身の不遇な境遇が入り混じった曲なのではないかという解釈ができそうです。

映画を観る前はなんとなくこんなイメージを抱いていたんですが、この辺は改めて弾いていく中でもう少し自分なりの解釈を深めていきたい気がします。

改めて考える、音楽とは、幸せとは

この映画を見てまず思ったのは、「音が聞こえる幸せ」です。

音のないベートーヴェンの世界が無音の演出で表現されていたのですが、これがなんと味気なくて、悲しいものなのかと。彼ほど音楽の道に生きているわけではない自分ですらそう感じました。

これは逆に言うと、毎日の生活の中には色んな音が、音楽があふれていて、彩りを与えてくれているということなんだと思います。

そして、音の聞こえなくなった絶望から綴った遺言のの言葉に次のようなものがありました。

「みなさんさようなら。私を忘れないでほしい。私をあなた方の記憶の中に。私があなた方を大切に思い、幸せを願ってきたように。」

楽聖ベートーヴェン

これが史実なのか脚本なのかは分かりませんが、「音楽とは歓びを与えるものであり、その根底にあるのは聴き手の幸せを願う気持ちなんだ」という自分の音楽観を改めて意識させられてとても印象に残っています。

おわりに

今まである程度知ってはいたものの、映像という形で見ることでベートーヴェンの生きた当時の様子をよりリアルに感じることができました。

波乱万丈で、報われなかった不遇の生涯。

そんなベートヴェンの魂の叫び、魂の雄たけびを聞くことができた映画です。

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