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仏教を読む ”一切は空”  平田精耕 著を読んで

著者、平田先生によると、般若心経とは 言い換えると、己の心、自分の心の本来の姿を知っている、そう言う智慧のことを言うのだそうです。

般若というのは、中国語ではなく、プラジュニャー、またはパンニャー という古代インドの言葉で、この”パンニャー”、という発音を中国の文字を当てて表記しただけで、”般”にも”若”にも、実際には意味はなく、ただ音写しただけなのだそうです。

さて、全600巻あるという般若経の真髄が たった276文字の般若心経の中に全部凝縮されていますが、その中に、

照見五蘊皆
色不異 不異色 色即是 即是色
是諸法
是故

と前半に7箇所ほどの文字が認められます。

 ”

この空という言葉は、日本語ではいたってシンプルですが、これを外国語に訳すとなると案外難しく、empty でも nothing でもないんです。こういう訳し方をすると、”全く内容のないもの”と理解されてしまうわけですが、そうじゃない。

この本に、なるほどといういい例がありましたので、ご紹介します。

ー 泥や縄、レンガや木材など、そんなものを集めてくると、そこに四畳半の茶席が出来上がる。そうすると茶席の中でお茶事がある。お釜がかけられ、お客を招待して、そこで一服お茶を飲むとうことができる。そういう働きが出てくるのですが、もし、原っぱに、あっち側に泥、こっち側に材木、向こう側に縄があって放っておいて、結びつけなかったら、それだけのことで何もないでしょう。こういう何の機能もないときのことを「空」と呼んでいるのです。 ー

ー 仏の世界は空気のような内容のないものではなく、あくまで般若の智慧。智慧の最も根本のところ、人間の知恵とか知識が出てくる元のところ、そこが仏の世界、あるは般若の智慧の世界というふうに言われます。その世界は虚空に非常によく似ているがゆえに、仮に空という言葉を使っているだけであって、本当に青空のような、内容の無いものでは決してないのです。ー

ー 色受想行識 が結びつくと、そこに色々な働きというものが起こってくる。この結びつきを日本語で、縁、と言います。縁、結びつきがなかったら、何も起こらない、ということを、空、無という言葉で表現している。その代わり、結びついたら、それこそ千変万化、いろんなことが起こってくる。憎んだり、愛したり、そういう心が働き出してくる。ー

ちなみに、色とは、お色気の色ではなくて、現実の世界、現象のことを指します。自分から見たお外の世界、一切の現象界のこと。

人間のいろんな迷いとか、悩みというものは、「色受想行識」という五つのものが関わり合うところから生まれてくる。関わり合わなければ、何の働きも起こらない。

私の大好きな日本語に、”お陰様で”という言葉があります。見えない、陰の存在によって自分が生かされている、それは家族や友人、地域の人々のみならず、太陽や水や、諸々の森羅万象に支えられて生かされている、という、”蔭の存在”つまり、空、に通じると思うのです。また、”元気”と日本語の芯に当たる様な言葉ですが、これは単に健康状態を聞いているだけではなく、「あなたは、生まれたままの純粋な状態ですか?」「あなたのエネルギーは本来の状態ですか?」「 元、根本、つまり般若の智慧の世界からブレてはいませんか?」「本来の自分でいられてますか?』と確認している言葉だと思うんんです。さらには、日本語には、情という、情に厚い人、薄情な人、などに使う言葉もあります。人や物に感応して動く心の働きを表す言葉です。

”お陰様”   ”元気” 、”情”、”有難い”、”いただきます”、”もったいない”、など、外国語に訳すのが難しい日本語があります。

こういう日本では当たり前の言葉、しかし必ずしも世界中の人にとっては当たり前でない理念、こういう言葉を使って生活してきた日本人の精神の深いところにには、日本人を日本人たらしめるDNA情報が組み込まれていると思っています。

人と人の間、物と物の間の空間には実は、密度の濃い、高いエネルギーが満ち満ちていて、そこでは私たちの今の意識では感じ取ることのできない様々なエネルギー粒子が飛び交っている。その肉眼でこそ見えないが確実に動的活動をしているであろう何かを、”空”と呼んでいるのではないかと。

そしてその”空”の働きを非常に良く心で理解しているのは、日本人が長けている特徴ではないかと思うのです。

私は、量子力学、Quantum Theory というものに、個人的関心が高いのですが、どうもこの分野を読んだり聞いたりするたびに、これは仏教の教えと同じではないかと、いつも思います。

最近になって、ダークマターとか、ダークエナジーということが宇宙理論の研究者たちから最先端科学の発見情報として研究が活発化しているように見えますが、私たち日本人、特に仏教に馴染みのある人から見ると、空の思想は真新しいものどころか、古来から、2500年以上も前からずっと説かれてきたものです。”空”の概念に、今ようやく西洋の人たちが思いを至らせる様になった、古来からの仏教思想にようやく科学のエビデンスが追いついてきた、と私には映るのです。

そして、”空”に近い英語は”Dark energy” “Something Great” あたりではないか、と個人的に思ったりしています。サイエンスと心、宇宙のダークエネルギーを含蓄する端的な一言が『空』

科学の面では確かに西洋は進んでいたかもしれませんが、哲学的、思想的には東洋は非常に深いものをずっと持っていた、と私は思うんです。

古来から現在まで綿々と継承されてきた、様々な文化、伝統を思う時、これからの21世紀は東洋思想、強いては日本の時代がやってくるに違いない、というのが私の予測です。






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