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静謐で緻密な植物と異形と~『百草の裏庭』青井秋著

現在電書版発行あり。Canna Comicsコミック 2020年12月25日プランタン出版発行
*感想、ネタバレありますのでご注意ください*

書店をふらふら見ていて、表紙絵に一目惚れして購入。ともかく絵が美しいのだ。細やかに描き込まれた植物。特に菌糸類がお好みなのではなかろうか。この表題作以外で植物学者の話などもあるが、これでもかと張り巡らされた菌糸類も美しい。

物語は黒い森に入り込み薬草を摘んでいた兄妹。「美女と野獣」のように角のある異形の主と出会ってしまった少年の怯えから始まる。
妹は毒虫にやられて倒れてしまい、異形の主から連れて逃げることも敵わず。異形の主は妹の解毒が出来ると言い、少年は助けてくれ、自分が言うとおりにするから、と命乞いをする。
約束の通りに妹を助けてくれた主の館に、妹が婚姻で巣立って行った後訪れる少年は、異形が優しく穏やかな男で、ただ孤独で寂しい生活だったから話がしたかっただけと打ち明けられ、二人は徐々に打ち解けあっていく…。

お互いのそれまでの孤独な生活が二人で作る食事、二人で囲む食卓、穏やかな会話で温かく色が付いていく。本がびっしり並ぶ館の図書室は素晴らしい光景で、本好きには堪らない。
文字はあまり読めないという少年に読み書きを教えたりする異形の男との生活はゆっくりと満たされていく感じで読んでいて癒される。
気がかりだったのは、幸福な結婚をした妹が一人暮らしの兄を気遣って定期的に訪問してくれるのだが、異形の彼との暮らしについて一つも報告していないことだったが…。

乱暴な人間、傷つける人間が出てこない優しいファンタジー。
性的なものも一つもないのだけど、この二人は寄り添って生きていくだけで十分に幸せなのだなと思える。
疲れている時には心に染み入るような、優しく美しく流れる時間なのだ。

<24のセンチメント>18

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