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~ギャップのある恋~ 本間アキラ『兎オトコ虎オトコ』

(花丸コミックス 紙本・電子書籍版ともに現在入手可能です。全5巻完結済 感想、ネタバレありますのでご承知おきください。)

 物語は気の弱い小柄な外科医・卯月幸弘(=兎オトコ)が背中に虎の刺青を背負ってる見るからにヤクザ・野浪(=虎オトコ)が夜中の裏道で瀕死の状態のところに出くわし、見過ごせず命を助けるところから始まる。読み始めた時は、インテリとやくざという対照的な2人の男の出会いと純愛話か…とさほど珍しい設定ではないので、実はそう大きく期待したわけではなかった。
BLではよくあるがヤクザが絡む話はそもそもさほど好きではない。特にシリアスなヤクザ物は殆ど読まない。ついでながらホストの世界とかも読まない(つまり物凄く狭量なBL読み)。
が、この作品ではどこか緩いテンポ感と笑いがあった。ん、なんかいいなあ~とのんびりした気持ちで読み進めると、気弱でひたすら大人しい卯月の小動物的な可愛さのあまり兎に変身して描かれ、威圧感バリバリの野浪が背負ってる虎そのままに虎として描かれる動物バージョンのカットが出てきて、その切り替えの面白さにどわ~~~っと受けてしまったのだった。
もちろんそうした手法自体も目新しいわけではない。だけど、そんなことはどうでもいいんだひたすら可愛いのだもの!
小動物には優しいが人間には容赦ないという野浪が、威圧しつつも結局卯月には甘くなってしまう。見た目が小動物っぽいからか?と自問しつつ、「お前はホントは女だろう」と無茶な振りで肉体を迫る。元々はホモじゃないけどお前にだけは、というこれもお約束の展開ではあるが、でもそういうのもありかな、と読んでいくと段々納得してくるから不思議だ。

正直、虎オトコの野浪に比べると卯月は人間的にはごくごく普通だ。祖父母と両親、弟妹、全員が小柄だという家族と穏和に育った、よくも悪くも普通の男。医者なのだから頭は良いのだろうが、内気だし男としては頼りない。野浪に何か意見しては少しすごまれるだけでぴゅーっと逃げていく。でもそれだって普通そうだろ、と思える範囲で特に女々しいわけでもない。外科医としての仕事ではいつも頼られてきちっとこなしている。気が弱いけど医者として一生懸命働く卯月は健気で見ているとやはり和むし、癒される。
任侠の世界で命を張って生きる男が卯月が欲しくなるのもしょうがない。
それは普通の可愛い女の代替物ともまた微妙に違うように思う。
ごっつい虎が気弱な兎の前で傷ついた表情を見せる、そのギャップの面白さと切なさ。
女の前ではそんな表情は決して見せまい。男同士だが強者と弱者という明らかな力の差があるのに、対等に並んで座った瞬間。心が癒され通い合う、同性ならではの純愛が成立する。そうして一方的だった筈の関係がほぐされ、徐々に心が近づいていく様を読むのが気持ちいいのだ。

(補足*昔、サイトで公開していたBL作品紹介文に少し手を入れて再掲します。<24のセンチメント>12 )

この作品は作品紹介した時ずっと続刊が出なくてどうなるんだろう、読みたいよ…と思っていた時に書いたのでしたが、なんと2020年になって別の出版社からそれまでの巻と完結巻までが出たのでした。色々あったみたいで、それについては詳細が分からないので触れられませんが。
長い間続刊を待ち続けたファンの一人として非常に喜ばしいことでした。
なので、最初に挙げた分だいぶ割愛しました。

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