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「エコロジカル・アプローチ」という本が興味深かったです

年末に日本ハムの田中正義さんにおすすめされて読んだ「エコロジカル・アプローチ」という本が興味深かったので、その話を。


本の内容

伝統的アプローチとエコロジカル・アプローチ

この本は人間の運動学習をテーマとしており、スポーツにおける動作を習得するための方法について書かれています。

主題となっている「エコロジカル・アプローチ」に対して、従来型のやり方を本書では「伝統的アプローチ」と呼び、以下のように対比されています。

運動を細かいタスクに分解して、動作の安定性を高め、運動のエラーを抑制していくことで、運動を正確に実行できるようにするのが「伝統的アプローチ」。

一方で「エコロジカル・アプローチ」は、運動を分解するのではなく単純化して、動作の安定性だけでなく変動性も高め、運動を適応的に実行できるようにしていきます。

従来型の伝統的アプローチでは、なるべくいつも同じ運動ができるように身体の動きを組み合わせていくのに対し、エコロジカル・アプローチでは試合に似た状況を単純化して練習するため、環境に応じた適応的な運動を身につけることができます。

以前NTTの記事で、コントロールのいい投手は常に同じフォームで投げる「再現性」に優れているのではなく、マウンドやボールなどさまざまな環境の変動に対して適切に対応する「調整能力」が優れているのではないか、という話を読んだことがありました。

まさに本書でいうところの伝統的アプローチは再現性を高めるための方法であり、エコロジカル・アプローチは調整能力を高めるための方法ではないか、と思ったのです。


制約主導のトレーニング

そしてこのエコロジカル・アプローチを実践するための具体的な手段として「制約主導」のトレーニングが提示されています。

制約主導のトレーニングとは、従来型のコーチに動作を教わるトレーニングではなく、制約を設けた中で勝手に目的とする動作を学べるようなトレーニングのことをいいます。

本書では制約主導の例として、テニスのバックハンド側を上手にするためのトレーニングについて書かれています。

バックハンド側の正しいフォームについて言語や見本の動作で教えるのが伝統的アプローチであるのに対し、エコロジカル・アプローチでは①センターラインをバックハンド側が広くなるようにずらし、②対角線のエリアにリターンを返したらボーナスポイントを与える、という2つの制約を設けます。

こうした条件のもとでそれぞれ8週間練習を重ねたところ、バックハンド側のスキルは制約主導グループの方が向上しており、さらにフォアハンド側についても制約主導グループの方が向上していたのだそうです。

このような制約主導の練習では選手が自らフォームを模索していきます。コーチの役割は正しいフォームについて教えることではなく、よりよい運動が習得されるために必要な制約を設計すること、となります。


感想

オフにアメリカの野球トレーニング施設「ドライブライン」に行った時にも感じたのですが、日本は特にフォームへの意識が強いように感じます。

アメリカでももちろんフォームの話はあるのですが、あくまで理想とする投球や打球を実現するための手段がフォームであり、正しいフォームを身につけることが目的ではない、というスタンスでした。

そのため、常に投球や打球といった結果からフィードバックをもらい、その改善のために手段であるフォームについて考えるように言われました。

日本でも古来から茶道や武道の世界などで「守・破・離」といった言葉がありますが、基本的なフォームを身につけるのは最初の「守」の段階であり、そこから制約主導のトレーニングによって型を「破」り、さまざまな環境変動にも対応可能な自分のフォームを見つけて「離」れていくことが必要なのだろうと思います。

コーチが持つべき視点とは「この選手はどの動きをどう直すべきか」ではなく、「この選手が現在の課題を解決するためにはどのような制約を設けて練習するのが良いだろうか」なのかもしれないなと思いました!



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