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【予備試験過去問対策講座】令和4年刑事訴訟法


はじめに

この記事は「予備試験過去問対策講座」講義記事です。
今回は、令和4年刑事訴訟法を題材に、実際に過去問を解く流れを思考過程から段階的に解説していきます。

令和4年刑事訴訟法

①の行為の適法性について

刑事訴訟法の問題は、事前に準備した論証をそのまま使えることが多いですが、適切な論証を正しい箇所で使うためには、現場での丁寧な検討が必要です。

そこで、まずは問われている状況を整理します。
Pは、Aを被疑者として捜索差押許可状の発布を受けており、その実施のためにA方居室を訪問しています。つまり、これは任意捜査ではなく、令状に基づく強制捜査です。この時点で、強制処分性や任意捜査の限界といった、任意処分の適法性に関する論点は関係ないということが分かります。

そして、住居主であるAは不在であったため、Aの妻である甲が立会人として捜索が実施されています。問いとは直接関係ありませんが、222条1項により準用される114条2項より捜索の際は立会人が必要になるところ、Aの妻は「住居主…に代わるべき者」に当たることから、立会人として認められる点は短答知識として押さえておきましょう。

第百十四条 
 前項の規定による場合を除いて、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内で差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行をするときは、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者をこれに立ち会わせなければならない。これらの者を立ち会わせることができないときは、隣人又は地方公共団体の職員を立ち会わせなければならない。

第二百二十二条 第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。

この状況において、検討対象である①の行為の内容は以下の通りです。

①甲の承諾を得ることなく、無施錠の同キャリーケースのチャックを開けて、その中を捜索し

注目すべきは、捜索の対象物と対象者です。
前述の令状は、捜索すべき場所をA方居室としていますが、実際に捜索の対象となっているのはキャリーケースです。そこで、このような「場所」を対象とした令状で、当該場所に存在する「物」の捜索が可能であるのかが問題となります。
また、キャリーケースは被疑者ではない甲が所持していました。そこで、「物」の捜索が許されるとしても、その場に居合わせた者の所持品の捜索まで可能なのかも問題となります。

ここまでが令状の効力についての論点です。さらに、令状の効力が及ぶ場合であっても、キャリーケースは「被疑者以外の…物」(222条1項・102条2項)であることから、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある」といえるかという要件も確認する必要があります。

第百二条 
 被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。

最後に、Pが甲の許可なくキャリーケースを開けた行為も問題となり得ます。捜索に付随する行為であるとして特に言及しないことも考えられますが、わざわざ「無施錠」とされていれることから、捜索に「必要な処分」(222条1項・111条1項)といえるのか論じることが期待されていると考えられます。

第百十一条 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押え、記録命令付差押え又は捜索をする場合も、同様である。

これらを踏まえ、本問で問われている内容を整理すると、①の行為については、以下の4点を論じれば良いことが分かります。

  • 「場所」を対象とした令状で、当該場所に存在する「物」の捜索が可能か

  • その場に居合わせた者の所持品の捜索まで可能か

  • 「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある」といえるか(222条1項・102条2項)

  • 捜索に「必要な処分」(222条1項・111条1項)といえるか

では、それぞれ確認していきます。

「場所」を対象とした令状で、当該場所に存在する「物」の捜索が可能か
憲法35条2項が「各別の令状」を要求し、これを受けて刑事訴訟法が「人の身体、又は住居その他の場所」(222条1項・102条1項)を捜索の対象とした上で、捜索差押許可状にも「捜索すべき場所、身体若しくは物」を記載しなければならないとしている(219条1項)ことからすると、「身体」、「物」、「場所」は捜索差押の対象として区別することが予定されているといえます。
これは、通常それらは管理権者が異なり、それぞれについてプライバシー等の権利利益に対する侵害が生じうるため、個別に裁判官による審査を要求するべきという趣旨です。したがって、「場所」に対する令状であっても、「場所」の管理権者の管理権が及ぶ範囲の物に対する捜索であれば、新たな権利利益に対する侵害は生じず、令状が予定する捜索の範囲内であるといえるため許されると考えられます。

憲法 第三十五条 
 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

第百二条 裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。

第二百十九条 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

本問では、令状の捜索場所はA方居室であるため、侵害が予定されているのはAの管理権です。そして、捜索の対象となっているキャリーケースは、A方居室内にもともと存在していた物であるため、Aの管理権が及ぶといえ、捜索は許容され得ます。

■その場に居合わせた者の所持品の捜索まで可能か
もっとも、キャリーケースはその場に居合わせた、Aとは異なる甲が所持していました。この場合には新たに甲の権利利益を侵害しているとして、別途令状を要するのではないかという点が問題になります。
ここでも前述の考え方を基本とするのであれば、「物」については「場所」に対する令状があれば、同一の管理権が及ぶ範囲で捜索することが可能なのであるから、同様に同一の管理権が及ぶ限り、捜索場所に居合わせた者が所持していても、その「物」について捜索することができると考えられます。

本問では、Aが覚醒剤を密売しており、その拠点がA方居室である疑いがあることから捜索が行われています。そして、甲は、その捜索中に、同室玄関内において、コートを着用し、靴を履いてキャリーケースを所持するという、不自然な行動をしており、また、キャリーケースの中身を見せてほしいというPの要求を頑なに拒否していることから、キャリーケースの中には被疑事実に関連してPに見せたくない物が入っているということが強く推認されます。したがって、キャリーケースは、Aが覚醒剤の密売に関連して管理していたものであるといえ、Aの管理権が及びます。

以上から、キャリーケースには、捜索差押許可状の効力が及びます。

「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある」といえるか(222条1項・102条2項)
前述の通り、捜索差押許可状の効力が及ぶとしても、キャリーケースは甲という「被疑者以外の…物」であるため、222条1項が準用する102条2項の要件を充足する必要があります。

本問では、捜索中の甲の不自然な行動や、Pの要求を拒否する態度から、キャリーケースの中には押収すべき物である「覚醒剤」等が入っている蓋然性が認められます。

■捜索に「必要な処分」(222条1項・111条1項)といえるか
「必要な処分」は、捜査比例の原則から、捜索の必要性と被処分者の侵害の態様を比較衡量し、具体的な事情の下で相当と認められる場合に許容されると考えられます。

本問では、前述の甲の態度から、キャリーケースの中には差押目的物が入っている可能性が非常に高く、捜索の必要性が認められます。一方で、キャリーケースは無施錠であり、Pはそのチャックを開けるという穏当な方法のみを用いていることから、その処分は相当性を有するといえます。

以上から、①の行為は適法です。

②の行為の適法性について

①に続き、令状に基づく捜索中に、Aの息子である乙がボストンバッグを所持してA方居室に帰宅したという状況です。

この状況において、検討対象である②の行為の内容は以下の通りです。

②乙を羽交い締めにした上、乙から同ボストンバッグを取り上げて、その中を捜索し

ここでもやはり「場所」を対象とした令状の有効範囲が問題となりますが、捜索対象のボストンバッグは、もともと捜索対象「場所」にあったものであはない点が①と異なります。
上記の結論によりその後の法律構成は変わりますが、ここでは令状の効力が及ぶと考えます。そうすると、以降は①と同様の点が問題となります。

以上から、②の行為について論じるべきは以下の4点です。

  • 「場所」を対象とした令状で、事後的に当該場所に搬入された「物」の捜索が可能か

  • その場に居合わせた者の所持品の捜索まで可能か

  • 「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある」といえるか(222条1項・102条2項)

  • 捜索に「必要な処分」(222条1項・111条1項)といえるか

本問の①と②のように、似ているが異なる状況について並列的に問われている場合は、それぞれの差異をしっかり意識して論じることが重要です。その差異が作問者の期待するメイン論点です。ここでは、事後的に搬入された「物」に対する令状の効果、及び羽交い絞め等の有形力の行使が「必要な処分」に当たるかという点が①との大きな違いです。

では、それぞれ確認していきます。

「場所」を対象とした令状で、事後的に当該場所に搬入された「物」の捜索が可能か
この場合も規定の趣旨を踏まえれば、事後的に搬入された「物」であっても、「場所」と同一の管理権が及ぶと認められる限り、新たな管理権の侵害は生じないため、令状の有効期間内であればその効力は及ぶと考えられます。

本問では、乙はA方居室に居住していることから、所持していたボストンバッグはA方居室にもともと存在していた物と同様、「場所」の管理権者たるAの管理権が及ぶといえます。

その場に居合わせた者の所持品の捜索まで可能か
前述の規範に照らして検討します。

本問では、乙が同室内に入った後もボストンバッグを手放さないという不自然な態度をとっており、また、ボストンバッグの中身を見せてほしいというPの要求を頑なに拒否していることから、ボストンバッグの中には被疑事実に関連してPに見せたくない物が入っているということが強く推認されます。したがって、ボストンバッグは、Aが覚醒剤の密売に関連して管理していたものであるといえ、Aの管理権が及びます。

以上から、ボストンバッグには、捜索差押許可状の効力が及びます。

「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある」といえるか(222条1項・102条2項)
上記の通り、捜索中の乙の不自然な行動や、Pの要求を拒否する態度から、ボストンバッグの中には押収すべき物である「覚醒剤」等が入っている蓋然性が認められます。

■捜索に「必要な処分」(222条1項・111条1項)といえるか
前述の規範に照らして検討します。

前述の乙の態度から、ボストンバッグの中には差押目的物が入っている可能性が非常に高く、捜索の必要性が認められます。一方で、Pが乙を羽交い絞めにした上で、乙からボストンバッグを取り上げた行為は、乙が捜索を拒否している状況においては、捜索の実効性を確保するために必要であるといえます。また、乙に対する直接的な有形力の行使ではあるものの、捜索のための一時的な行為であり、乙の権利利益に対する侵害の程度は大きくはありません。したがって、その処分は相当性を有するといえます。

以上から、②の行為は適法です。

出題の趣旨

本問題について公表されている出題の趣旨は以下の通りです。

本問は、Aに対する覚醒剤取締法違反事件において、警察官がA、Aの妻甲及びその息子乙が居住するアパート居室(以下「A方居室」という。)を捜索場所とする捜索差押許可状(以下「本件許可状」という。)の発付を受け、本件許可状に基づきA方居室の捜索を実施したところ、設問1では、甲がその場で携帯していたキャリーケースを捜索した事例において、本件許可状によって、甲の携帯物を捜索することが許されるのかについて、最高裁判所の判例(最決平成6年9月8日刑集48巻6号263頁)をも踏まえた検討をさせることを通して、憲法35条が捜索する場所及び押収する物を明示する各別の令状を要求している趣旨や、「場所」に対する捜索許可状に基づき、その場所に存在する「物」を捜索することの可否についての基本的理解を問うものである。また、設問2は、上記捜索中に同居室に帰宅した乙が携帯していたボストンバッグを、有形力を行使して捜索した事例において、最高裁判所の判例(最決平成19年2月8日刑集61巻 1号1頁)の基本的な理解を踏まえつつその適否を検討させることを通して、本件許可状の効力が令状呈示後に同居室内に搬入された物品に及ぶか、また、捜索の際に処分を 受ける者の身体に有形力を行使することの可否及び限度といった、令状による捜索の実施に当たり許される処分の範囲についての基本的理解を問うものである。 設問1及び2のいずれも刑事訴訟法の基本的な学識の有無及び具体的事案における応用力を問うものである。

参考答案

以上の内容を反映した参考答案を添付します。

参考書籍

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