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【予備試験過去問対策講座】準備書面問題の解答作法(平成30年民事実務基礎)


はじめに

この記事は「予備試験過去問対策講座」のテーマ別講義記事です。
今回は、民事実務基礎の「準備書面」に関する問題を取り上げます。解説編で具体的な論述方法を確認した後、実践編で平成30年民事実務基礎設問4を対象に、実際の事例問題における使い方を解説していきます。

解説編

準備書面問題とは

民事実務基礎では毎年、問題文中の事情を前提として、一方当事者の訴訟代理人弁護士が準備書面に記載すべき内容を論述させる問題が出題されています。
問題文では、当事者双方の供述がそれぞれ比較的長文で書かれており、他にも様々な書証が登場することから、適切に事実を整理できないとただの作文になりがちです。このことから、準備書面問題に苦手意識を持っている方も多いと思います。

もっとも、準備書面問題は、ルールさえ知っていればある程度機械的に処理することができます。そこで、この記事ではそれぞれの証拠をどのような観点から整理し、どのような作法に則って事実を推論していくべきかという点を解説していきます。

準備書面問題の基本知識

準備書面問題では、一方当事者の立場から一定の事実の存在または不存在を主張することが求められます。つまり、民法の問題における請求の客観的な成否とは異なり、問題文中の事情をその当事者に有利なように解釈することが必要です。はじめに、この点はしっかりと意識しておきましょう。
さらに、主張に説得力を持たせるために、相手方に有利に見える事情についても反論することが重要です。

通常は、当事者間で争いのある事実の存否を要証事実とし、それを直接証明する直接証拠、または要証事実の存在を推認させる間接事実の存否を証明する間接証拠を探した上で、それぞれその証拠としての意味(何をどのように推認させるか)と証明力を評価し、事実認定を行っていくことになります。なお、間接事実から要証事実を認めることを「推認」と呼びますが、これは「事実上の推定」と同義です。また、本稿では、証拠から事実を認めることを「証明」と呼び、証明と推認を合わせた事実認定の全工程を「推論」と呼びます。

例えば、売買契約の成否について当事者間で争いがある場合、売買契約書が存在すればそれが直接証拠に当たります。その上で、売主・買主の双方の署名がある等により形式的証拠力(成立の真正)が認められれば、原則として売買契約の成立を認定することができます。一方、売買契約書が存在しない場合、売買契約が成立したこと、すなわち口頭での合意があったことを間接事実から推認する必要があります。この場合においては、売買の動機の有無交渉の経緯金銭の支払いや物の引渡しの有無といった履行の事実等が間接事実となります。一方が主張している契約締結日後に、代金額とされている金額の引き出しが記録された預金通帳が証拠として提出されている場合、推論の流れとしては、「当該預金通帳は売買契約に基づく金銭の支払いがあったことを証明する間接証拠であり、さらに、金銭の支払いという間接事実は売買契約の成立を推認させる」というものになります。

証明力、つまり証拠の信用性については、直接証拠・間接証拠によらず、補助事実を指摘して評価します。
例えば、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、不法行為の要件事実の一つとして、「昨晩、XがY宅の窓ガラスを割ったか」という点が争点となっているとします。そして、「昨晩、Y宅の窓ガラスを割っている人物を目撃したが、その人物はXであった」という証言が証拠として提出された場合、この証言は要証事実を直接証明するものであるため、直接証拠に当たります。このとき、目撃した地点は現場から5メートルの距離であったという事実や、現場は街灯により照らされていたという事実は、現場までの距離が近く、かつ現場も明るかったことから見間違えが起こりづらいという評価が可能であり、当該目撃証言が信用できるものであることに繋がるため、補助事実に当たります。

ここまで登場した用語の関係性を図にすると、以下のようになります。

なお、証拠から事実を証明する工程及び間接事実から要証事実を推認する工程のいずれにおいても、その論理的な紐づけは、経験則、すなわち一般常識や科学的知識に基づいて行います。
例えば、Xが作成したY宛の100万円の領収書という証拠があった場合、通常、金銭の授受がないのに領収書を作ることはないことから、経験則上、YからXに対して100万円の授受があったという事実について高度の蓋然性を認めることができます(=領収書は当該事実の存在について高い証明力を有するといえます)。

最後に、上記の証明や推認の前提として、動かしがたい事実を確実に押さえておくことが重要です。動かしがたい事実には、以下のようなものがあります。

  • 公知の事実

  • 顕著な事実

  • 当事者間に争いのない事実

  • 客観的な証拠によって確実に認定し得る事実

客観的な証拠によって確実に認定し得る事実とは、住民票や判決書といった公文書や成立の真正が認められる私文書によって立証された事実、原告側と被告側双方の(利害関係のない)人証が一致して供述した事実等をいいます。

これらの事実は、証明や推認の過程において、「仮定」ではなく「事実」として推論の前提にすることができます。

準備書面問題の検討手順

ここまでの内容を踏まえ、準備書面問題の実際の検討手順を確認していきます。

① 要証事実の確定
はじめに推論の対象である要証事実をしっかりと確認します。毎年設問に示されているので、確実に読み取りましょう。通常は、請求原因事実や抗弁事実といった主要事実が対象となります。

② 証拠のリストアップ
検討漏れがないよう、あらかじめ対象の証拠を列挙しておきます。

③ 動かしがたい事実の確認
前述の例示を参考に、リストアップした証拠の内容から動かしがたい事実を抽出しておきます。事前にチェックしておくことで、複数の事実を踏まえた有機的な検討を行いやすくなります。

④ 争いのある事実の確認
動かしがたい事実に当たらない事実で、当事者双方が矛盾する主張をしているものを抽出します。これらの事実は、証拠から証明するか、別の事実から推認する必要があります。

⑤ 推論構造の整理
以上の事実を前提に、要証事実を推論する流れを組み立てます。通常は、要証事実に近い証拠や事実(直接証拠や要証事実を推認させる間接事実)から探し、次にそれらを証明する証拠や推認させる事実を探す、というように遡っていくと迷うことが少なくなります。

具体的な推論構造の作り方は、以下の実践編をご覧ください。

実践編

では、平成30年民事実務基礎設問4を対象に、実際の事例解決において解説編で述べた内容をどのように使うべきかを確認していきます。

要証事実の確定

設問より、「弁護士Qは、…弁済の抗弁が認められることにつき主張を展開したいと考えている」ことから、ここでの要証事実は、「YがXに対して、XY間の消費貸借契約に基づく貸金返還債務の履行として100万円を支払った」という弁済の事実です。

証拠のリストアップ

本問における証拠は、以下の4つです。

  • 書証

    • 本件通帳

    • 本件住民票

  • 人証

    • Xの供述

    • Yの供述

これらの内容から、要証事実を証明または、要証事実を推認させる間接事実を証明していくことになります。

動かしがたい事実の確認

前述の例示を参考に、上記の証拠の内容から認定できる事実を確認します。
まず、弁護士Qが書証として本件通帳と本件住民票を提出したところ、弁護士Pはいずれについても成立の真正を認めています。したがって、それらに記載された内容は、動かしがたい事実として、推論の前提にすることができます。
また、Xの供述の「Yを見捨てるわけにもいかず、お金を貸しました」という内容と、Yの供述の「Xは快くお金を貸してくれて」という内容は、XがYにお金を貸したという点について一致していることから、こちらも事実として認定することができます(今回は、YがXの請求を認めた上で弁済の事実を主張しているため、供述から契約の有無を認定する必要はありませんが、確認のため記載しています)。
同様に、以下の点も一致供述に当たります。

  • 平成28年9月30日、YがXに食事をおごったこと

  • 弁済に係る領収書が現在存在しないこと

  • 平成29年9月半ば頃、大学の同窓会において、XとYがその幹事を担当していたこと、及びYがXに対して、同窓会に経理について他の幹事たちの面前で指摘をしたこと

  • Yが引っ越しをしたこと

  • 平成29年10月、XがYに貸金の返還を請求したこと

争いのある事実の確認

続いて、XY間で争いのある事実を列挙します。

  1. 平成28年9月30日、YがXに100万円を渡したこと

  2. 同日、XがYに領収書を渡したこと

  3. Yが、現在の住所への引っ越しに際し、当該領収書を処分したこと

  4. Xが、大学の同窓会においてYから指摘を受けたことを理由に、Yを恨んでいること

ここまでで材料の準備は完了です。以下では、Yの立場から要証事実を説得的に推認する推論構造を考えていきます。

推論構造の整理

推論の流れ全体は以下のように図示することができます。

以下、ひとつずつ解説していきます。

推論構造は、要証事実に近いところから順に検討します。
まず、「YがXに100万円を渡した事実」及び、「XがYに領収書を渡した事実」はいずれも「YがXに貸金を弁済した事実」という要証事実を推認させる間接事実です。どちらも争いのある事実であることから、証拠から証明するか、別の事実から推認する必要があります。

前述の通り、本件通帳の内容は動かしがたい事実に当たるため、「銀行預金口座(Y名義)から、平成28年9月28日に現金50万円、同月29日に現金50万 円がそれぞれ引き出された」という事実は認定可能です。また、「平成28年9月30日、YがXに食事をおごったこと」は一致供述であり、同様に動かしがたい事実であることから、同日XとYが会っていたという事実も認定可能です。YはXに会う前々日と前日に、貸金額と同額の合計100万円を口座から引き出しており、これは経験則上、Xに貸金を返済するために利用したと考えることが自然です。したがって、これらの事実から「YがXに100万円を渡した事実」を推認できます。

続いて、「弁済に係る領収書が現在存在しない事実」も一致供述であるため事実認定可能です。これは、「XがYに領収書を渡した事実」を否定する方向に推認させる事実となります。
一方で、本件住民票の内容は動かしがたい事実に当たるため、平成29年8月31日にYが現在の住居所在地へ転入した事実が認定できます。そして、この事実とYの証言から、「平成29年8月頃にYが引っ越しをした事実」について高度の蓋然性を認めることができます。Yは、引っ越しの時点ではXへの貸金債務は返済済みと認識していたことから、経験則上、それに関する書類を引っ越しに際して処分することは自然です。したがって、引っ越しの事実から「Yが当該領収書を処分した事実」が推認されます。
以上を踏まえれば、「XがYに領収書を渡した事実」を積極的に推認することはできませんが、「弁済に係る領収書が現在存在しない事実」は、「Yが当該領収書を処分した事実」から説明が可能であることから、領収書が存在しないことを以て、「XがYに領収書を渡した事実」がなかったと結論付けることはできないといえそうです。

最後に、「YがXに対して同窓会で指摘をした事実」は、一致供述であるため事実認定可能です。他の幹事の前で同窓会の経理について指摘をされた場合、指摘の内容が事実にせよ事実でないにせよ、経験則上、指摘された相手に嫌悪感を抱くのは自然であるといえることから、これは、「XがYを恨んでいる事実」を推認させる事実となります。
この事実は、XがYを困らせるために嘘の供述をする動機があることを示すものであるため、Xの供述という人証の信用性に関する補助事実に当たります。この事実から、XがYの弁済を否定しているのは、恨みに基づくものであり、信用性に欠けると評価することができます。

結論としては、Yの立場からの主張であることを踏まえ、上記の内容から要証事実である「YがXに貸金を弁済した事実」が認定できる、と述べることになります。ここまでの内容を繋げて論じれば解答の完成です。

なお、推論の構造は唯一のものではなく、今回は使わなかった事実も用いた他の構造もあり得る点にはご留意ください。

解説は以上です。

参考書籍

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