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3カ月後に生まれる予定の、この子さん【21週~25週目】

7月中旬は、「腸が活発なのかな」くらいのポコポコッとした気泡がはじけるような感触だった。

8月初旬、次第に「蹴られてるやん!」と感じるほど、へそ下がボコボコと動くようになった。とくに、右腹。ようやく、ひとりの人間を産み育てる覚悟ができた気がする。

望んでいた妊娠であり、春から初夏まで「子どもにとって恥ずかしくない親でいよう!」と思いながら過ごしていた。けれど、そのベクトルは自分に向いていたし、「産む時こわいな。やっぱり無痛分娩ができる病院を探そうかな~」などと不安に感じていたように思う。

「生きてるんだ。この子さんは、この世界でがんばるつもりなんだな」

名前はまだ決めていない。今は「この子さん」と呼ぶ。胎動は、今まで感じたことのない幸福感だった。たとえるなら……、素敵だなと思える人に会った帰り道のような。推しの写真を眺めているような。

元気でいてもらいたいなぁ。ずっと応援したいなぁ。大変なことも多いけど、嬉しいこともたくさんあるなぁ。早く会ってみたいなぁ。

ループするこの気持ちがつづくよう、健康に気をつかうようになった。無理はしない。今はこの子さん以上に大切なものは存在しないのだ。自分のストレスや負荷も、なるべく避ける。いつでも挑戦する姿勢で生きてきたわたしには、なかなか酷なことで、はがゆい。それでも、この子さんにしてあげられることの選択は間違えたくない。

4つダウンロードした赤ちゃん用のアプリを毎日チェック。YouTubeで育児用の動画を眺めながら「え!そんなこともするのか」と驚いて。マタニティエクササイズを朝夕。図書館で育児本を読み……。情報に疲れたら、そっと離れてウォーキング。夜中に何度も目が覚めてしまうので、昼寝。これが今の日常。(ライターの仕事はゆるりと継続中)

9月になった。今日は保健センターで助産師さんとの面談があった。担当の助産師さんは、不妊外来でお世話になった病院の看護師さんだった。治療の一環で腕に注射を打つのだが、彼女は「痛いよね。ごめんね。もうちょっとで終わるからね」と親身に声をかけてくれた。あの時はしんどい思いもあったので、ありがたかった。

母子手帳を交付してもらう時も彼女に担当してもらった。顔を合わせた時、「池田さん!」と笑顔で声を掛けられ、ホッとして、緊張していたことに気が付いた。自慢になるが、わたしは人の運がいいかもしれない。

そして、今日の助産師面談。またもや彼女に担当いただき、聞きたかったことを細かく答えてもらえた。

今の身体の変化は普通なのか。今からできる胸のマッサージの仕方。産後に母乳トラブルがあったらどこに相談すればいいのか。インフルエンザ予防のワクチンを打つべきか。里帰り出産の場合の乳幼児健診について。その後の健診や予防接種はどこで? 保育園への申請手続き……。

なかには知っていたこともあるけれど、ネットで調べた言葉より、人の言葉の方が何倍も安心できる。

雑談のなかで、ふと、本音が出た。

「妊娠や出産に関わる情報が多すぎて、身体に入れるものや行動一つひとつに敏感になってしまうんです。確かだと言えることは少なくて、慎重になります。赤ちゃんに何かあっても、誰も責任取れないですし……」

すると助産師さんは、「そう思うのは、すでにお母さんになっている証拠ですね」とにっこり笑った。そう言われて、「そうか。この悩みは親だから感じることなんだな」と、当たり前のことを理解した。

おそらくあと3カ月でこの世に誕生する、この子さん。わたしはお母さんになる準備をしています。どうぞ末永く、よろしくね。

(記:池田アユリ)



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