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命の危機「ウェットテイル(Wet Tail)」解説

はじめに

今回は日頃エキゾチックアニマルの診療をおこなっている獣医師である私からお伝えできるウェットテイルについての解説を公開します。
もし内容でご不明な点や質問があればX(旧Twitter)や公式LINEからご質問ください。



1 ウェットテイルとは?

ハムスターをはじめとする小型齧歯類たちが下痢や軟便になることで、お尻周りが濡れている様子を「ウェットテイル」と呼びます。
下痢や軟便の状態を病院では「腸炎」と言われることがあると思います。
参考画像を載せられないのでGoogleなどで「ハムスター ウェットテイル」と検索していただけるとどのような状態か知ることができると思います。

さまざまな年齢のハムスターでみられますが、特に迎えたばかりの若い子や免疫力の低下したお年寄りの子、抗菌薬などで治療中の子で見られることが多いように感じます。

下痢・軟便の原因もさまざまです。食事内容や不適切な生活環境、外部からの感染、ストレス、基礎疾患や治療に伴った合併症など多岐にわたります。

特に若い子(10週齢未満)は寄生虫や細菌感染による腸炎は深刻な状況になることも多く、早期の対応が重要になってきます。

ウェットテイルの状態で時間が経過してしまうと命に関わる可能性が非常に高くなってしまいます。本人の体力の低下はもちろんですが、脱水の進行や腹痛・食欲不振が致命的となります。

また下痢や軟便が続くことで「直腸脱(お尻から腸が出てしまう状態)」になってしまうこともあり、こちらもさらに緊急性が高い事態となってしまいます。

2 家で気づいた時どうすればいいか

家でウェットテイルに気づいた時は本人の状態を把握しましょう。

1 いつもとくらべて元気があるかどうか観察しましょう
普段を100%とした場合、活動性・食欲が現在何%くらいか大体でいいので観察の上把握しましょう。100%に近ければ時間的猶予はあるかもしれませんが、急激に元気がなくなってきている場合は早急に動物病院の受診が必要です。受診の際に普段と比べてどれくらい違うか伝えられるとよりスムーズです。

2 体重を測りましょう
普段の体重と比べて多くは減少してしまっているはずです。(増えている場合は別の病気が考えられます)
普段の体重から5%以上減少している場合は要注意が必要で、すでに脱水が始まっている可能性が高いです。また10%以上の変動では致命的となる可能性が高いためすぐに動物病院を受診しましょう。

*目安
普段130gのゴールデン 5%=6.5g 10%=13g 減少
普段40gのジャンガリアン 5%=2.0g 10%=4.0g 減少

3 排泄物を確認しましょう
突然のことで心配だと思いますが、排泄物をよく確認しましょう。また採取可能であれば爪楊枝や綿棒で確保し、ラップやジップロックに入れ乾燥しないように保管してください。動物病院を受診する際に、写真などより実物を持って行った方が診断までの速度が早まる可能性が高いです。すぐに受診できない場合は冷蔵管理が推奨されます。

4 清潔にしましょう
身体やお尻がひどく汚れてしまっている場合はやさしく体をきれいにしてあげてください。ぬるま湯を含ませたティッシュやアルコールを含まないウェットティッシュで拭いてあげてください。ただし無理は禁物です。本人の体力が落ちている場合や強く嫌がる場合は無理に行う必要はありません。
新しい床材を入れた清潔なケージやケース(なければ空いている箱などでも構いません)に避難させて、普段のケージやケースは落ち着いた段階できれいにしてあげましょう。同居や同室に他の子がいる場合は接触しないように気をつけてください。

5 動物病院を受診しましょう
おおむね状態を把握したらできる限り早期に動物病院を受診してください。日中であればかかりつけ病院へ、夜間であれば夜間救急病院を推奨します。夜間で身近に病院がない場合は次の項目を参考にしてください。

動物病院を受診する際に整理しておくと良い事項
・いつ気がついたか(若い子の場合はいつお迎えしたか)
・元気さや食欲はどうか
・体重の変動があるかどうか
・思い当たるきっかけ(食事の変更、環境の変更etc)
・多頭飼育の場合、他の子で同様の症状が出ているか否か

動物病院を受診する際の準備
・夏場では通気性をよく暑くならないように注意
・冬場では十分に暖かくなるように配慮(湯たんぽ等)
・長時間の移動や待ち時間が想定される場合は水分補給ができるようにゼリーや給水ボトルを設置
・ペットシーツや床材は適宜入れて下痢や軟便で体が汚れないように注意
・できるかぎり新鮮な便を持参

6 動物病院を受診できない場合
夜間救急病院やハムスターなどの小型齧歯類を診察してくれる動物病院が近くにない場合は次のことを参考にしてください。

・夜間に気づき、日中であればかかりつけ病院がある場合
残念なことに今の日本ではエキゾチックアニマルに詳しい夜間救急病院はそれほど多くないのが現状です。万が一、かかりつけ病院が閉まっている時間帯に気づいた場合は症状の進行を抑えるために以下のことを参考にしてください。

#脱水の進行を緩和するために水分補給!
お水やシロップを薄めたものなどで無理のない範囲で一口ずつ飲んでもらいましょう。スポイトや小さなスプーンで構いません。動物用の経口補水液があれば尚良いと思われますが、もしなければ人間用でも使用可能です。大量に飲む必要はないので1-2口を複数回時間を空けて与えてください。
食欲が問題ない場合は水分補給ゼリーやペースト状のものでも大丈夫です。生野菜や糖分が多量に含まれるものは控えておいた方が無難です。

#保温、とにかく保温!
体力が落ちてきた場合、体温の低下が顕著に見られる場合があります。暑くなりすぎはよくないですが、適度に温かくできるようにしてあげる必要があります。26-28度を目安に、身体が冷えないように気をつけてあげてください。元気がない場合、ヒーターの上に長時間乗ったままだと低温やけどを起こす可能性がありますので、タオルを挟んだり、体の向きや角度を変えてあげてください。

#できる限りそっと見守る!
とても心配で不安だと思います。ただその心配から何度も大きな声をかけたり、抱き上げたりを繰り返すことで余計に体力を消耗してしまう可能性があります。様子が見れる程度に薄暗くし、水分補給やケアの時以外はできるだけ休んでもらえるようにしましょう。

#投薬中の薬がある場合!
かかりつけ病院で指示を受けていた場合はそれに従いましょう。またお薬を飲み始めたことで下痢や軟便がみられた場合は、服用を一旦やめてかかりつけの先生に必ず報告・相談をするようにしましょう。

#朝になったら即かかりつけ病院へ
かかりつけ病院の受付時間が始まったらすぐに連絡しましょう。「これくらいなら様子見でも・・・」「この程度で相談しても大丈夫だろうか」「仕事ですぐに連れて行けない」これらの判断が後の後悔につながる例をたくさん見てきています。ハムスターと人間の時間感覚は異なります。気づいたらすぐに対処してあげてください。

・日中のかかりつけ病院がない場合
ある程度看病が終わった段階で、今一度お近くにハムスターを診察してくれる動物病院がないか調べてみましょう。
病院のホームページの記載だけで判断が難しい場合は口コミや、その先生が「日本獣医エキゾチック動物学会」に所属しているかが参考になるかと思います。一般的に犬猫をメインで見ている病院であれば受診前に電話で必ず確認してから行くようにしてください。
一部地域や僻地でそのような動物病院が全くない場合や移動に長時間を要する場合、移動手段がない場合は「オンライン診療」を利用するのも手です。
可能な限り直接の診察をお勧めしますが、やむを得ない事情で受診できない場合はオンライン診療を受けた上で薬を処方してもらうことを検討するという選択肢もあります。

3 動物病院で何をしてくれるのか

基本的にウェットテイルの治療は抗菌薬(抗生物質)や駆虫薬(寄生虫駆除)による治療と、点滴や給餌による栄養管理が中心になってきます。
この際に前述した動物病院に伝える事項や糞便の持参、直接の診察を行うことで、原因の特定を早期に行い、それに合わせた治療をできる限り早く開始することが重要になります。

状態によっては入院管理が強く勧められるケースも見受けられます。
若齢、重度の脱水、脱腸、意識障害など重篤な場合etc

費用に関しては動物病院により変わってきますので、ご不安な場合は一度お問い合わせいただくか、診察時に事前に伝えていただけると動物病院側も助かると思います。ただし、最小限の検査や治療を行なった場合でも数千円〜高くて1万円ほどかかることもしばしばありますので、最小限の覚悟は必要です。(入院の場合はさらにかかってしまいます、、)
万が一に対応できるように保険の加入または医療費の積立をお勧めいたします。

4 自宅での早期発見や予防方法

自宅での早期発見は日頃から体をよくみて、元気さや食欲、体重を把握することが非常に大切です。これはウェットテイル以外の全ての病気にも当てはまります。もし普段と様子が違うと気づき、お尻周りが汚れていると分かった場合最短で治療を行なってあげることができる可能性が高まります。

また定期的な健康診断も重要です。特に迎えて間もない子や、ある程度の年齢になった子は定期的に身体検査や便検査をしてもらうといいでしょう。検査自体も大きな負担にはならない上に、万が一寄生虫や異常な細菌が見つかった場合は発症前に防ぐこともできます。

突発的に原因不明でなってしまうこともあると言われていますが、経験上ケージ内の清掃をさぼってしまったり、不衛生な食事を与えてしまっているケースが多々見受けられます。床材やハウスの材質など条件もありますが、基本的にはできるかぎりこまめに掃除を行い、尿や糞便、食べ残しなどが長時間放置されないように気をつけてあげることが一番の予防になります。

また食事内容でも多量の水分を含む野菜やフルーツなどの過食でも下痢や軟便が引き起こされることが報告されています。身体が小さい子たちですので、与えてはいけないとまでは言いませんが、適量を守るように心がけてあげると良いと思います。食事量に関してはまた改めて解説していきたいと思っています。

5 悩んだ時は・・・

今回の内容はあくまで全般的な概要になります。個別で生活環境や食事管理、かかりつけ病院の選び方などもし専門家の相談が必要であれば公式LINEで個別に相談を承っています。
トークルームでのチャット相談であれば現在無料で相談可能です。また本人の状態や生活環境を見た上でのアドバイスや診察が必要な場合はオンライン相談やオンライン診療を行うこともできますのでお気軽にご相談ください。

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