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「手紙を書く」という選択

ふと見つけた投稿コンテスト
「あの選択をしたから」

無数の選択をしてきた、たった22年の人生を振り返り、
その中で強く光を放ったものがあった。
その話を書こうと思った。

20歳の冬、
ひとりで心療内科に行った

10年近く、ある人から虐待を受けてきた。
深く尊敬している人だった。
だからそれが虐待だなんて、気がつかなかった。

しかし、20歳のとき、
突然、わたしの心と体は
音を立てて崩れていった。

そして、人に勧められ、
病院に行くことにした。
誰にも頼れなかったわたしは
ひとりで病院にいった。

そして告げられたのは
「重度のうつ病」だった。

そのときのわたしは
なぜかとても冷静だった。
渡された薬を持って
午後からの大学の授業に出た。

でもそんな冷静さの裏で
わたしの心には
静かに、でも確実に
大きな傷が刻まれていった

20歳で重度のうつ病

夢にも思わなかった。
長く伸びていた人生のレールのその先が
突然なくなったかのようだった。

そんなとき、ふと浮かんだ言葉があった

「かっこいい大人になりなさい」

高校3年のときの担任の先生が
わたしたち生徒によく言っていた言葉だった

わたしはその先生が大好きだった。
強くて、しなやかで、温かくて、
いつだって、わたしたちの味方でいてくれる
そんな女性だった。

「かっこいい大人」
何度も心の中に響いた

20歳でうつ病になったわたしは
どうしたら「かっこいい大人」になれるのだろう

そんな絶望に近い疑問を抱いたとき、
わたしは先生に、手紙を書くことに決めた。
卒業をしてもうすぐ3年が経つ頃だった。
もう私のことを覚えているかすらわからなかった。

でも、わたしは、
手紙を書くという選択をした

手紙には率直な思いを書いた

「わたしはこの間、重度のうつ病と診断されました。
こんなわたしはもう『かっこいい大人』には、なれないと思いました。
先生、『かっこいい大人』とは何ですか。
わたしはこれから、どうやって生きていけばいいですか。」

もちろん先生の連絡先など知らないため
高校宛にして、その手紙を出した。
お返事はもらえないだろうと思っていた。
大体、先生がまだその高校にいるのかすら、分からなかった。

しかし、1週間くらいたった頃だった。
大学に行くために家を出て、
ふとポストを確認したら
白く、分厚い封筒が入っていた。
宛先はわたしだった。
裏返すと、先生の名前があった。

わたしはしばらく固まった。
信じられなかった。まさか返事をいただけるなんて。
涙が込み上げそうになった。
でも早く大学にいかなければいけなかった。
とりあえずわたしは
その封筒を両手に抱えて
急いでバスに乗り込んだ。

バスの1番後ろの席に座ったわたしは
早く中身を読みたいという気持ちに負けて
丁寧にのりを剥がし、
5枚にもなるそのお手紙を
震える手で、かすかな息で、
読み始めた。

手紙の冒頭には、
わたしのことを
「よく覚えている」
「特別な生徒だった」
と書かれていた。
わたしは本当に驚いた。

そのまま読み進めていった。
優しく語りかけるように
全身に染み渡る温かい言葉たちに触れて、
心の中で込み上げる何かを感じていた。

そしてある言葉を目にしたとき
わたしは人目も気にせず
大粒の涙を流した。

「あなたはもう十分かっこいい大人です」
「だってこんなにも、悩み、苦しんで、生きているじゃありませんか」
「こんなにかっこいい大人が、他にいるでしょうか」

溢れる涙は、止まることを知らなかった。
生きていることを、初めて、許されたような
そんな瞬間だった。

そうか、わたしはもう
「かっこいい大人」なんだ。
いいんだ。これで。
これでよかったんだ。

声を殺しながらも、
誰がみても様子がおかしいほどに
バスの後部座席で
ひとり泣いていたわたしに
近くの席に座っていた小学生が
「だいじょうぶ?」
と尋ねてくれた。
わたしは
「ありがとう」とだけ
答えた。それしか言えなかった。

手紙の最後にはこう書かれていた

「どうかあなたはそのままで。」
「そのままで、いてください」

この言葉はそこから始まった
長く辛い闘病生活で
幾度となくわたしを救ってくれる存在となった

先生の手紙は、間違いなく
わたしの1番の宝物だ。

一時は入院するほどに
悪化した病気も
今はだいぶ安定してきた。

それでも揺らぐ時はある
その度に、先生の手紙を読み返す。
なんども、なんども。

そしてわたしはまた
前を向くことができる

2年前のあのとき、
わたしが先生に手紙を書くという選択をしなかったら
どうなっていただろうか。
きっとわたしは、病の渦に
飲み込まれてしまったかもしれない。
こうして言葉を綴る毎日を
送れなかったかもしれない。

「あの選択をしたから」

恩師に手紙を書くという選択をしたから

わたしは今、生きている
胸を張って、生きている








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