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きっとずっと赤い夢の住人

自分の人生を変えた一冊はいくつかある。今日は自分を読書の道に連れて行ってくれた本について書こうと思う。

人生を変えた一冊――はやみねかおる先生の「怪盗クイーンシリーズ」の一作目、『怪盗クイーンはサーカスがお好き』に出会ったのは小学五年生の梅雨だった。読書家だった担任の先生が揃えた本棚の中にクイーンはいた。元々本を読む習慣はあった私は、表紙のクイーンの美しさに魅せられて手に取った。

世界を股にかけ狙った獲物は絶対に逃さないクイーン。そしてパートナー兼友人のジョーカーや人工知能のRDをはじめとする「濃すぎる」登場人物たち。日本やフランス、エジプト等々の現実世界を舞台に、「怪盗」という非現実的な存在が活躍する、現実と非現実の狭間――まさに「赤い夢」の世界がそこには広がっていた。それまで本を読むことはあっても、本の世界にのめり込むことがなかった私は瞬く間に「赤い夢」の住人になった。

その当時の私は、クラスのみんなとは話せるけど授業で「2人組」を作るのは苦手な子だった。半年ほど前に転校してきたばかりで、クラスが2つしかない、大体の人が知り合いの学校ではどことなくアウェイ感を感じていた。自分のことをあまり「寂しい人間だ」と思わないようにしていたけど、今にして思えば心のどこかでは寂しくて心細い気持ちを抱えていたと思う。

寂しさを埋めるように、私はクイーンの世界にどっぷりと浸かった。正直どう過ごして良いか分からなかった朝の時間や10分しかない休み時間、果ては帰り道に歩きながら(危険)、一冊500ページ以上ある児童書を持ち歩き暇さえあればクイーンを読むようになった。毎月500円のお小遣いを貯めて、図書館にないものは本屋で買い集め刊行されていたものはものは全て読み倒した。

怪盗クイーンシリーズは児童書にしては一冊の分量が多く、特に長編なものには最後のページに「読書認定証」のようなものが付いていた。小学生の自分にとって500ページや700ページの本を読破したことは自信にもつながり、そこから児童書だけではなく大人向けの小説や長編の海外作品にも挑戦するようになった。怪盗クイーンシリーズに出会って、読書の世界に入って、様々な作品に出会って――小・中学生の頃に出会った作品たちが今の自分の基礎になっている部分が大きい。

そんな怪盗クイーンシリーズの第一作目『怪盗クイーンはサーカスがお好き』が映画化される。公開日はちょうど明日6月17日。もちろん見に行こうと思う。あの世界が映像としてどう表現されるのかが楽しみということもあるが、自分の大好きな作品が今も続いていて多くの人の支えになっていることが、「赤い夢」の住人が沢山いることが一ファンとして嬉しくもある。

「赤い夢」の世界に魅せられた10歳そこそこの少女が今では20歳の大学生になった。これから社会に出て大人として何十年も生きていく。それでもきっと、私は大人という仮面をかぶっても赤い夢の住人として、心にワクワクを抱えながら生きていくと思う。そう生きたいと思う。

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