見出し画像

父という生き物


夫は絶対にいい父親になったと思う。物静かでマイペース。仕事も運動も勉強もそれなりにできて、目立ちたがるわけではない。特別かっこいいわけではないけど、とにかく優しい。愛情深く、大事なものをきちんと大事にできる。
この人が親になったら、その子供はどんなに幸せだっただろうかと何度も考えたことがある。夫も一時期子供が欲しいと言っていたこともある。だけど、どうしてもできなかった。
産む張本人であるわたしが産みたくないのだからそれ以上話は進まない。夫を父親にできなかった罪悪感はあるが、どうしても夫が子供を望むなら速やかに離婚する覚悟は持っている。
そこまで信用できるのになぜ産みたくならないのか自分でも理解に苦しむが、自分の子供の父親が夫であることが受け入れられないのも一因だとおもう。

夫はいい父親になったと思う

共通の知人を褒めたくて「あの人はいい父親だよね」と夫にいうと「いい父親ってどんな人?」と聞かれたことがある。どんなってそりゃあ不機嫌にならず、怒鳴らない。きちんと毎日家に帰ってきて子供を大事にして、子供の世話を焼いてやる。夫婦仲が良くてお互いの悪口を言わず、家族が揃っても険悪なムードを作らない人だよ、と言いかけて、やめた。
この人は知らないんだ、こんな家庭があることを。
夫の実家は特別仲が良いわけではないが義父はとても穏やかな人で、よく義母に叱られてへらへらしている。そんな家庭で育った夫は、家庭の雰囲気をぶち壊すタイプの父親が想像できないので、「いい父親」と「悪い父親」を分けて考えることがなかったのかもしれない。
私たちは子供と暮らしたことはないが、メスの犬を飼っている。いくら人間と犬は違うと言ってもわかる。夫は犬に甘い。
確かにしつけで叱る時もあるが、私のそれとはまるで違う。私が夫の娘なら舐め腐って都合のいい時だけ甘えても甘やかしてくれるだろうなと思うほど、愛情が勝ってしまっている。
これは娘にとってどれほど幸せな環境だろうか。母に叱られても父には叱られず甘やかしてもらえる。でも夫は私が犬に怒っても私を絶対に責めない。犬に「ちゃんということ聞かないとダメだよ?仲良くしようね?」と声をかけている。
私がこんな父親に育てられたかったという理想を体現している夫。本当に父親向きだと思う。





いい父親である夫を受け入れる自信がない

ここまでべた褒めする夫をなぜ父親にしてあげたいと思えないのか。答えは明白で、私がそれを受け入れることができないから。
自分の体験を交えて話すので娘と仮定して話を進めたいと思う。
私は自分の娘が夫という最高な父親に育ててもらえることを受け入れられない。なぜなら羨ましいから。私が喉から手が出るほど欲しかった優しい父親が生まれながらにして約束されている。私はどんなに願っても手に入れられなかったのに。
じゃあ自分の子供も同じように親のことで辛い思いをすればよいのかと問われればそれもまた違う。
自分が味わった嫌なものは徹底的に排除してあげたいし、私もまた母と同じ轍は踏みたくない。ここまで思っていても、どうしても受け入れられない。ただの嫉妬。
父と離別して何年も経つのにこの有様。こんなことに夫を巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思う日もある。数年に一度くらい。夫にはあまり申し訳ないと思わないようにしている。こんな私を選んだのは彼自信だし、本当に子供を望むなら別れるチャンスもあったはず。それでも一緒にいてくれるので「ありがとう」と思いながら暮らすことにしている。



すべてをぶち壊すのは自分だろうという想い


いつも、念の為に自分が出産した時のことを考えてみる。
仕事は妊娠を機に辞めたいが、子供に不自由させたくないので仕事は続けるだろう。出産して復帰するまではいいとして、保育園を含む子供の生活を自分の仕事を両立させるのは絶対に無理。ただでさえ働きたくないのにストレスを抱えたまま帰宅し、子供に付き合い、イライラしたまま夫のマイペースっぷりに怒りを爆発させる。一度や二度ならまだしも、週5でこれをやる自信がある。私のキャパはネコチャンの額よりも狭い。
つまり夫がどんなにいい父親になろうとも私が全てをぶち壊す気がしてならない。娘にとって夫はいい父親だろうけど、私はきっといい母親にはなれない。いい母親というか、子供を持ってしまったら、完全に妻の立場が邪魔になると思う。そもそも人と暮らすことに向いていないのに、夫より自分より守らなければならない存在を手にした時の自分が計り知れない。夫とうまく子育てしているひとがいるのもわかってる。それはお互いのことを信用して背中を預けることができるタイプの夫婦だと思う。
じゃあうちはどうか。うちは完全自立型の大人2人が暮らし、私が夫に甘えて生活しているので、2人で何かを協力して成し遂げることがとても少ない。
私が夫と静かに穏やかに暮らすためにはやはり人間は2人以上いてはならないし、私たちが生涯夫婦でいるためには2人きりというのが必須条件な気がする。


noteの感想やお仕事依頼などはこちらから。
XのDMからでもお気軽にどうぞ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?