第3話 2022.6.25

「俺、子供の頃から野球が好きなんだ」
「へー。ニトウリュウとか好きなんだ?」
「いや二刀流好きって何?大谷翔平は好きだけども。覚えたてのワードでテキトーに話すのやめてくんない?」
「メンゴメンゴ」
「古いわ。で、まー、野球が好きだったんだけど、中学に野球部はなくて、友達に誘われてバスケ部に入ったんだよ」
「ほーん」
「バスケ部も楽しかったけど、やっぱどこか向いてなくて。なかなか上達しなくて。最近なんか、そんなことを思い出してたんだけど、よく考えたら俺の人生って、そんなのばっかだなーって思うんだよ」
「ふーん」
「興味ないんか」
「はーん」
「そのノリ何?」
「ひーん(泣)」
「もういいわ(呆)」
「で、何よ。自分が本当にやりたいことをやらずに、周りの意見に流されて生きてきたなーってことに大人になって今更気付いたんだ?」
「何で理解してんだよ。その通りだよ」
「まー、分からんでもないよ。自分のやりたいこととか、向いてることとかって自分じゃ分からない。そんなことよか、周りに合わせて生きてる方がずっと楽。きっと、大半の人はそう思って生きてる。アタシもだし」
「.....お前はやらずに後悔したことあるわけ?」
「......ないこともないということもない」
「ごめん、どっち?」
「なくはないかな」
「スッと言え」
「人生って一回きりでしょ。その人生の中で選択を間違わずに生きれる人なんていない。結局、その選択を間違ってなかったって、自分でこじつけるしかないんだよ。ベストな選択が他にあったなんて頭では分かっていても、そんな自分は見て見ぬふりして、死ぬまで駆け抜けるしかないんだよ。ウダウダ後悔することへの対策は、何も考えずに駆け抜けることだけだよ」
「お前のその人生の熟練度の高さ何なの?同い年だよな?」
「華の1996年生まれだよ」
「そんな栄えた年だっけ?」
「きっとさ、後悔って死ぬまで消えない。どれだけ何かで挽回しようと、過去が消えるわけではないから」
「......」
「野球をすれば良かった、友達を大切にすれば良かった、人と関わることを諦めなければ良かった、死を絶望と捉えなければ良かった、普通の大学に行けば良かった、大学を卒業しておけば良かった、青春を謳歌することを諦めなければ良かった、幸せの意味を履き違えなければ良かった」
「......」
「仮に過去の捉え方を変えても、また昔の自分が顔を出したら、また昔の捉え方に戻る。だからさ、後悔って感情も恐れと同じなんだよ」
「どーゆうことだよ?」
「よくさ、恐れを抱えて生きる人を勇敢って呼ぶでしょ?」
「呼ばないけど。何のセミナーですかそれ」
「後悔もさ、抱えて生きられる人を、本当の意味で優しいって言うんじゃないかな」
「痛みを知ってるから?」
「そう。だから、後悔も抱えて生きていくしかないんだよ。逃げずに向き合って。それだけが、後悔に打ち勝つ生き方なんだよ。アタシはそう思う」
「......そっか」
「そうだよ」
「お前はさ、優しいな」
「それほどでもあるよ」
「それは、たくさん後悔をしたから?」
「.....かもね
「じゃあ.....俺と同じだな」
「......あ、一緒にしないでくれる?」
「急に冷たっ!」

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